
1968年にジャズ・ギタリストのパット・マルティーノが発表した4枚目のアルバムです。ひとつ前のアルバム
『East!』から南アジアの芸術音楽からの影響が見えていましたが、このアルバムはさらに加速、もろでした。でもそれが民俗音楽くさくて嫌かというとそうではなく、いろんな音楽のハイブリッドみたいで面白かった!
収録は4曲で、
すべての曲でうしろに「ビヨ~~~ン」とタンブーラがドローンとして鳴り響いています。バックではタブラがリズムを叩き、ベースやセカンドギターが変拍子または複合拍子のリフが延々と繰り返し、その上にインプロヴィゼーションが重なります。1曲目「Baiyina」を例にとると、7拍で一巡するフレーズが延々と繰り返されるうえでのワンコードのモード系インプロヴィゼーション。
こういう試みの僕の第一印象は、「
これは弾きまくりサイケだわ」というもの。宗教くささは感じず、かといってプレイヤーがみんな弾きまくってるもんでクラブ系の雰囲気ものとも違くて、あるモードやリズムが見えてきて、それが繰り返されながらどんどん高揚していくヒンドゥスターニ音楽から精神性を引いて、ジャズ的にインプロヴィゼーションしたらどうなるか、みたいな。全曲こうなんですが、この方向で一番うまく行ってるのは「Baiyina」と感じました。
ドローンを繰り返されて意識がぼーっとしてきたところで飛び出してくる途中のタブラのソロ、メッチャすげえ!! 一方、ギターの凄さを堪能できるのは、
3曲目「Israfel」。プレスティッジ時代のマルティーノさんのアルバムには、ぜったい1曲はギター弾きまくりの曲が入ってますが、このアルバムではこの曲がそれでした。この曲、インプロヴィゼーションもそうですがテーマですら超絶で、これ弾けたらギター3級はある、みたいな。ほら、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの「scuttle buttin’」とか
ジェフ・ベックの「Scatterbrain」とか、このテーマを弾けるだけでもギター初心者は卒業だな、みたいなのあるじゃないですか。あんな感じです。
マルティーノってモード・ジャズの切り口で語られる事がありますが、こういうアルバムを聴くと、マルティーノのモードは、
ビル・エヴァンスや
ギル・エヴァンスや
ハービー・ハンコックのモードとはまったく違う角度から入ったんだろうな、と感じました。ハンコックやビル・エヴァンスは4度積みとかとセットで考えているので、
フランス印象派への意識があったと思うんですよね。でもマルティーノは(少なくともこのアルバムや『East!』では)そういう所は見ていないで、インド音楽などの「メジャー・スケールやマイナー・スケールを基調に使っていない音楽」の主旋法を使っての旋律的モードといった感じ。近い時代に別のアプローチから似たものに近づいたというのは面白いです。
60年代後半というと、西洋で「禅」や「インド」が再注目されていた頃で、ロックでは
ビートルズが、ジャズでは
ジョン・マクラフリンがインド音楽に傾倒しましたが、68年でこれという事は、マルティーノはそうとう早く手を付けたことになるんじゃないでしょうか。完成度が高いとは思わなかったけど、面白かったです!
スポンサーサイト