
僕が中学生の頃、「ゲームブック」というものが一瞬流行りました。
魅力ある挿絵入りの小説がメインで、小説はパラグラフごとに番号が振られています。パラグラフの最後には「戦うなら12へ、逃げるなら105へ」みたいに分岐して、自分の判断でストーリーが変化していく小説でした。これが面白かった!
『バスサスの迷宮』は、
スティーブ・ジャクソンとイアン・リビングストンというふたりが始めた「ファイティング・ファンタジー」というゲームブック・シリーズの第2作で、剣と魔法のヨーロッパ中世的な世界を舞台にしたファンタジーな内容でした。主人公である自分は、村を苦しめる魔法使いの戦士バスサス・ダイヤがいる城塞に潜入し、バスサスを倒すのが目的です。
ゲーム性もさることながら、
あやしい化け物や魔法使いがいて、迷路のように入り組んだスリル満点の城を奥へ奥へと入っていくこの世界観が素晴らしかったです。猿の顔をした犬の門衛をどうやってだまして城内に入るか。つむじ風の体をした女をどう巻くか。牢屋に入れられ、双頭の竜のような頭をした見張りをどうだまして脱走するか。図書館では…おお!!調べ物をしてたら後で役立ちそうな鍵の番号が見つかった!この物語最大の強敵の亡霊にどう勝つか…面白かったなあ。1回でクリアできないので何度も読むんですが、「あれ?ここはさっき来たところか?」みたいな感じで、読むたびにだんだん分かってくる要塞の構造もよく出来ていて素晴らしかったです。自分が行動を選んでいるだけに、ファンタジー系の映画よりよっぽどワクワクしましたね。

また、ゲーム性だけでなく、挿絵や文章の表現力が素晴らしかったです。まずは、文章表現の素晴らしさです。例えば、以下のような文章なのです。
日が沈む。黄昏が闇に変わるとともに、君は夜空に浮かび上がっている物々しい形目指して登りはじめる。砦までは一時間足らずだ。 ね?情景を見事に描いていて、引き込まれそうないい文章でしょ?ゲーム部分だけでなく、情景を見事に伝える文章力の高さも良かったんですよね。
そして、挿絵の素晴らしさ。これってもしかすると銅版画なんじゃないかと思ってしまうほどに書き込みの素晴らしい挿絵なんですよ!古いヨーロッパの本って、版画の挿絵が入っていて美術的なものもあったじゃないですか。ウィリアム・ブレイクの銅版画の挿絵が入っている本とか、あんな感じなのです。で、食堂の中で二つに分かれる階段とか、牢屋の鉄格子の向こうに見える双頭のドラゴンの門番とか、挿絵の素晴らしさで冒険心をあおられました。
僕はこの
ファイティング・ファンタジーのシリーズをいくつか読みましたが、『バルサスの要塞』が圧倒的に面白かったです。最初に読んだゲームブックがこれで本当にラッキー、他のものだったら1冊読んでそれでおしまいだったかも。
今だったらゲームブックなんて読まずにスマホでやればいいじゃん…と思いきや、挿絵や小説としての文章力が素晴らしいもんで、他のメディアに置き換えるのは僕的には無理だなあ、この作品に関しては(^^)。というわけで、読み終わった後も、挿絵などの素晴らしさもあって、ずっと手元に残してある素晴らしい本でした。