バルトーク の室内楽曲を3曲集めたCDです。音楽監督はピアノのアンドラーシュ・シフで、シフが主宰した音楽祭「モントゼー音楽週間」での録音でした。とはいえこれはライブ録音ではないみたいで、音楽祭のためのリハを録音したのかな?演奏は、その音楽祭のために結成されたモントゼー音楽週間アンサンブル、1993年録音です。収録されている曲は、
ヴァイオリン・ソナタ第2番(Sonata No.2 for violin & piano)、ヴァイオリン・クラリネット・ピアノのためのコントラスツ(Contrasts for violin, clarinet & piano)、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(Sonata for solo violin) の3曲でした。この曲の並びは、制作年順ですね。
ヴァイオリン・ソナタ第2番 は1922年に書かれた曲です。ややこしいのでまとめておくと、バルトークはヴァイオリン・ソナタを4曲書いていて、最初に書いたのは習作期に書き上げたヴァイオリン・ソナタ。次がヴァイオリン・ソナタ第1番と第2番、そして最後に書いたのが無伴奏ヴァイオリン・ソナタです。僕がこのCDを聴いたのはこの第2番のためで、あるヴァイオリニストさんが「この曲をやりたい」とこの曲を持ってきたからでした。ヴァイオリニストさんからスコアとCDを借りたんですが、素晴らしい曲と録音!スバらしい、こういう曲を弾かせてもらえるなんて感激だよ~ん…けっきょく自分でCDを買ってしまいました(^^;)。この曲は2楽章で出来ていて、
響きはほぼ現代曲、形式はかなり独創的 。第1楽章はABACAのロンドと言えそうですが、第2楽章は何と言えばいいんだ…第1主題、第2主題、第1主題の変奏の交換、そこから中間部に入り、終盤で第1楽章の第3主題が出てきて、再現部では1主題の変奏が出てきて…みたいな。もう、主題が変形しながら絡み続ける関係構造だけを書きたくて作ったような独創的な曲です。ただ、構造に興味が行き過ぎていて、音楽自体のダイナミックさがちょっと薄いかな?
コントラスツ は、1938年の作曲。この曲をはじめて聴いた時の感想は、「え?これって本当にバルトークの作品?ガーシュウィンじゃないの?」という感じ。ロマン派の標題音楽か人形劇用の音楽みたいな感じなんですよね。音楽もあんまりシリアスじゃなくて、ユーモアある小曲という感じ。個人的には減5度が鳴りながらも楽しげな舞曲である最終第3楽章の雰囲気が好き(^^)。
無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 。バルトーク晩年の1944年作です。メニューインからの委嘱で作られたそうで、アメリカに渡ってからは誰もぜんぜん評価してくれないもんで気落ちしていたバルトークが、メニューインの委嘱に喜んだあまり、ヴァイオリン独奏だというのに4楽章で演奏に25分以上もかかる曲を書いてしまったのだとか(^^)。
この曲、最初聴いた時には戸惑いましたが、何度も聴いてるうちにじわじわ来ました。ああ、
これはバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ を前提にして書かれてる んだな。第1楽章の表記がいきなり「Tempo di ciaccona」(シャコンヌのテンポで)で、最初の音型がまったくあれですからね(^^)。そして2楽章はフーガ、3楽章と4楽章は特に表記はありませんがソナタとロンドと見ていいと思います。これでバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタと無関係のわけがないっす。
そして何度も聴きこんでいるうちに、2楽章のフーガで、ある事に気づいて戦慄。
なんだこれ、ヴァイオリン1本で4声のフーガを作ってるじゃねえか! 僕が作曲家に驚くことのひとつって頭の良さなんですが、この曲の場合、最大でダブルストップぐらいまでしか使えないヴァイオリンで、タイミングをずらしたり音域を変えたりという事を駆使してこんな事をやってしまう頭脳っていったい何なんだと思ってしまいます。無伴奏ヴァイオリン・ソナタって、バッハ以外だと、僕が知ってる範囲ではヒンデミットとパガニーニとバルトークぐらいしか思いつきませんが、つまりほとんどの作曲家が書かないんですよね。理由は恐らく、古典派以降のクラシックはホモフォニーの時代で、このクラシックど真ん中の時代の作曲家は、ルネサンス時代やバロック期のフーガのようなポリフォニーの技法を使えないから、対位法時代の作曲家が持っていた無伴奏ヴァイオリン・ソナタを書く技術を持ってないという事なんじゃないかと。バルトークは弦楽四重奏曲でも、弦チェレの1楽章でも、恐ろしく精緻なポリフォニーを使いこなしていますが、まるで数学者のような精緻なスコアを作り上げてしまうという意味で、古典派以降でいちばん数学的な頭のよかった人なんじゃないかと思っています。
そしてこの無伴奏ヴァイオリンの演奏は、ハンスハインツ・シュネーベルガー。もう70歳近いおじいちゃんになっていた頃と思うんですが、メッチャうまい。なんでこんなのノーミスで演奏できるんだ…。1920年代生まれのヴァイオリニストやピアニストって、爆発力はともかく、ミスが極端に少なく正確無比という印象です。そうそう、
シュネーベルガーはバルトークのヴァイオリン協奏曲第1番の初演ヴァイオリニスト、僕がムチャクチャ好きなマルタンのヴァイオリン協奏曲の初演もこの人 です。伝説のひとりですね(^^)。。
というわけで、僕的にはヴァイオリン・ソナタ第2番と無伴奏ヴァイオリン・ソナタの2曲を聴くためのCDなのでした。このCD、音がメチャクチャいいです。音楽にとって、音って重要だよなあと再認識(^^)。
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