アントニオ猪木関連の本、これも素晴らしかったです!猪木関連の本で僕が人に推薦するなら、これと『1976年のアントニオ猪木』の2冊です。プロレス好きのライターさんが猪木さんにトピックごとの質問していく形で話が進んでいく作りでした。トピックのほとんどは猪木の対戦相手レスラーなんですが、「新日本旗揚げ」「異種格闘技との出会い」みたいに、レスラーがトピックでないものもありました。
最初に「へえっ」と思ったのは、
質問者の木村さんが、猪木さんをプロレスラーというよりも、リアルファイトを戦う技術を持った格闘家として見ている所。それもあってか、インタビュー内容の多くが異種格闘技戦がらみだったり、猪木が身につけてきた格闘技術への質問が多くて、ここが良かったです。こういう質問って、猪木さんや佐山さんには出来そうだけど、鶴田や馬場や長州には出来なそうですものね。。僕はまったくのシロウトですが、猪木さんって格闘家として一定以上の水準にある人なんだろな、と思わせる発言も色々ありました。
例えば、構えについて。「最近のレスラーは立ってる時の構えがノーガードだけど、ビル・ロビンソンみたいな基礎もあればリアルファイトも戦ってきた昔のレスラーは、脇をしめて、脇のところの隙間をどれだけ小さくするかを意識してた」、みたいな。ウイリー・ウイリアムス評は、もちろん強かったけど未完成ったという評価で、理由はバランス。人間には「丹田」と呼ばれる重心の中心がお腹のあたりに来て、ここを中心に身体意識を…みたいな。
音楽でいえば、とんでもないピアノの達人が、技術的な質問に対して「肘に重心があって、それを重力で落とすように…」みたいに答えるときがあります。そういう達人の発言にそっくりなんですよね。だから、もうそういう領域にいた人なんだろうな、みたいな。だいたい
日プロの道場で、最後には力道山ですら猪木に敵わなくなっていたと言いますし、
北沢さんは「ある程度強くなった後のセメントで僕が関節を決められたのは猪木さんだけ。あの人は恐ろしく強い」と発言していましたし。日プロ~新日時代の格闘技のレベルがどれぐらいであったのかは別にして、アマレスや力士や柔道家が集まっていた日本のプロレスという世界でトップに立った事は間違いないな、みたいな。

もうひとつ面白かったのは、人生訓になるような金言の多さです。猪木さんはプロレスの技術的な職人であるだけでなく、組織の長でもあり、いろんな災難にも巻き込まれ、歴史的なイベントを仕掛け…と、普通の人なら一生体験しないような事を大量に経験した人。その並々ならない経験から得た金言が素晴らしかったです。
僕がこの本でいちばん印象に残っているのが、猪木の師匠のひとりカール・ゴッチに対する猪木評。「プロレスはこうあるべきである」という哲学や技術を教わったのがゴッチだったとする一方、「ゴッチは
常に批判する側に立っていて、与える側に立ってない」というんですよ。いやあ、このひと言から色んなものを教わったなあ。。
長州力に関する発言も含蓄がありました。「長州はトップレベルに登りつめた男だよね。なんでもそうなんだけど、あるレベル以上に立った人間は怖さも知ってるんですよ」。自分を裏切って猪木が力道山の日本プロレスから追放される原因になった上田馬之助にたいする発言も素晴らしかったです。「
私憤というのは、全体からながめて判断すると、そういう個人的なものは消えてしまう」。これが上に立つ人の器量というものなんでしょう。これも心に残ってます。
というわけで、プロレスといって馬鹿に出来ない、大変な時代を渡って、業界のトップにまで駆け上がり、そこからどん底まで転落した人が至った見解は学ぶものが多くありました。まあ、ここに書いた事だけでなく、猪木の名勝負と言われるものの裏側が色々語られている所もメッチャ面白いんですけどね(^^)。
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