
モダン・ジャズの名門レーベルである
ブルーノートについて書かれた本です。
ブルーノートの創業者であるアルフレッド・ライオンへのインタビューをもとに編纂されていて、書いたのは小川隆夫さんというジャズ好きのお医者さん。
経営者でプロデューサーのアルフレッド・ライオン視点なので、レーベルから見た会社運営やミュージシャンとの関係、そしてプロデュースという所が見えたのがすごく面白かったです。音楽ってどうしてもミュージシャン視点で見てしまいますが、録音された音楽を聴く方が多い時代になった20世紀からは、レコードレーベルとか、その音楽を伝える役割を担う人の働きも大きいんだな、と思いました。
アルフレッド・ライオンさんってアメリカ人じゃなくドイツ人なんですね。ドイツにいた頃にジャズに熱狂してレコードを皆で聴くサークル作り、色々あって最後にニューヨークにたどり着いて、港湾労働をしながら趣味で録音した事からレーベルが始まって…
資本家でも実業家でもなく、ファンが高じて私財をジャズに全部投入していたのが、いつのまにかレーベルになった、みたいな。今でこそ「モダン・ジャズといえばブルーノート」みたいになっていますが、きちんとレーベルとして活動した期間が53年から66年、13年しかありません。で、「常に自転車操業だった」とか、最後は体調不良が絡んだとはいえ身売りしておしまいですから、本当にビジネスではなくジャズ狂いの道楽の延長だったのかも。それだけにジャズ・ミュージシャンに対する愛が凄くて、仕事のない
マイルス・デイヴィスや
セロニアス・モンクに録音の機会を無理やり作ってお金を与えたり、
儲かってもいないないのに私財を投げうって無名ミュージシャンのリーダー作を作ったり。こういうビジネス抜きでの音楽への奉仕というピュアな部分が、モダン・ジャズ黄金時代を作ったひとつとなったんですね。この人柄に、ミュージシャンもついてきたのかも。 単なるジャズの好事家というアマチュアから始まったエピソードとしては、プレス枚数にビックリ。最初の頃は「100枚プレスすれば1枚当たりの単価は下がるけど、売れないかも知れないし在庫を抱えたくないので50枚プレスだった」なーんて言っています。ええージャズ最大のレーベルのイニシャルが50枚だったのか?!やっぱり、そういう地道なところから始まるんですね。僕は、昔あるレコードの制作にかかわった時に、ろくに自分で身銭も切らない、汗もかかないでふんぞり返っているメジャーレコード会社のディレクターに「イニシャル1000とか、嘘でしょ」と鼻で笑われたことがあります。あのクズ野郎はもう業界にいないみたいですが、音楽に愛情を持ってないそういう奴はどんどん豆腐の角に頭をぶつけて消えて欲しい(^^)。
そして、作品制作に積極的に関わっていたのが意外でした。ライオンさんは音楽をよく分かっていないディレクターですが、でもジャズ大好き人間なので、そういう視点でのディレクションがあったみたいです。「クリフォードは放っておくといくらでもアドリブ演奏してしまうからグダグダになるかも、だからセクステットにして楽曲のしばりを作っておいた方がいい」とか、「彼は器用貧乏だから個性が出ない。だから作曲をしてもらって、曲が完成したら録音しようと提案した」みたいな。メッセンジャーズの『モーニン』のバンド編成も、ブルース調の楽曲の要請も、ライオンさんの提案がきっかけだったそうで、こうなると50年代モダン・ジャズのかじ取りに影響していた事になります。なるほどなあ、ジャズみたいなポピュラー音楽の場合、ファン視点から音楽を眺めるのも重要なんですね。
でも、音楽よりもミュージシャンを愛しすぎるとか、音楽を知らないでディレクションに口を出すのは、もちろんマイナス面も生まれてしまうんだな、とも思いました。それはブルーノートの多くのハードバップ録音が語る通り…なんてね(^^;)。でもこういうのも含めて、ジャズはあくまでアメリカ音楽であり大衆音楽だったという事なんでしょうね。
アルフレッド・ライオンだけでなく、ライオンさんに直接インタビューしてこの本を書いた小川さんというジャズマニアのお医者さんも情熱あるな、と思いました。費用対効果とかビジネスがとか、そこも大事ですが、それ以前に音楽を愛している事、これがあってこそなんでしょうね。ミュージシャンだけでなく、そういうファンの情熱ががジャズを支えてきたんだなあ、と感じました。どこかに転がっている情報を集めて書かれたものでなく、ちゃんと本人へのインタビューをもとにして書いている所が素晴らしかったです。300ページぐらいある本ですが文字数は少なく数時間でサクッと読める本でした。面白かった!
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