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心に残った音楽♪

おすすめCDの紹介のほか、本や映画の感想などを (*^ー゜)v

 

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映画『ドラゴン危機一発』 ブルース・リー主演

Dragon KikiIppatu 子どもの頃、親父がこの映画のタイトルを見てこういったのを覚えています。「危機は『一発』じゃなくて『一髪』が正しい」。え、マジで?!小学生だった僕が調べると…ほんとだ親父が正しいわ、親父すげえ。というわけで1971年、ブルース・リー主演第1作映画です!ハリウッド製の大傑作映画『燃えよドラゴン』の前に作られたブルース・リー主演映画は香港製の3本ですべてですが、どれも役者がかぶってるしストーリーも似てるので、東映の時代劇ややくざ映画みたいに感じました。日本や香港の古い映画って、今のテレビ番組みたいな感じ、ありますよね。

 ストーリーは、ブルース・リーのまわりにいる仲間が次々に消されていき、最後にブルース・リーが怒ってカンフーで敵を殲滅するというシンプルなもの。ブルース・リーはカンフーを使うことを禁じられていて、ずっと我慢し続けるんですが最後に爆発、みたいな(^^)。

 ファーストインプレッションは、学生映画っぽい(^^;)。その辺の原っぱみたいな所で撮影してるからかな?カメラ1台で長回しのところが多いからかな?でも70年代はイタリア映画もこんなの多かったし、それはそれで時代を感じて楽しく観る事が出来ました。この映画の見どころは映像美やストーリーじゃないですから(^^)。
 ブルース・リーやジャッキー・チェンのカンフー映画をたくさん観てきた経験でいうと、たぶん演武シーンを軸にして作るんでしょう。最初はちょっとだけ見せて、だんだん派手になって行って、最後にクライマックス…みたいな。ただ、これは1本目だったからか、他のブルース・リーの映画と比べると、演武を出すタイミングとか、色々とバランスがいまいちかも。たとえば、最初の演武シーンまでがけっこう長くてだれちちゃうとか。他では、壁に当たった人の形に壁に穴が開くのはさすがに変な笑いが出てしまいました(^^;)。でもこれは一周回ってむしろ面白いかも。

 映画の完成度で言うと、まだ習作期と感じました。でも、やっぱり演武は凄かった、組んでからの足技合戦なんていう柔道のようなやりとりまでありましたが、ああいうのを見るとブルース・リーって打撃技だけでない総合格闘技みたいな視点を持ってたのかも。だからリアルファイトでも強いんだろうな、と感じられるのかも知れません。すごい。


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映画『ドラゴン怒りの鉄拳 Fit of Fury』 ブルース・リー主演

Dragon Ikari no Tekken カンフー映画最大のスターにして本物の格闘家ブルース・リー!その主演映画第2作がこれ、1972年発表です!ブルース・リーの主演映画は香港製とアメリカ製がありますが、香港製は色々ちゃちい(^^;)。でも、ドラゴンのアクションシーンはやっぱりすごいので見入っちゃうのでした。

 この映画、反日感情を利用した中国人の溜飲を下げる映画にもなっていて、ブルース・リーのお師匠さんを殺した日本人の格闘道場をブルース・リーがひとりでぶっ潰すという復讐劇。日本人の僕としては微妙なストーリーですが、ドラゴンの技が凄すぎるので良しとしよう(^^)。それにしても、この映画での日本人は最高に憎たらしく描いてあるなあ。

 ストーリー的には、「え、こいつが実は黒幕だったの?!」みたいなどんでん返しは一切なく、どストレート。というわけで、マジでブルース・リーの格闘シーンしか見どころがありません。そんなこの映画の格闘シーンの見どころは序盤と終盤のヌンチャク捌きと、ラスト15分のロシアの格闘家とのタイマン決闘シーン。さすがサンボ王国ロシア、腕ひしぎ逆十字固めを決めてます(^^)。そしてラストの日本人ボスに対するリーさんのヌンチャク捌き、これは本当に挙動なしで来る上に恐ろしく速くてまったく見えない、こんなのヌンチャクの間合いに入ったらマジで死んじまうわ。。

 というわけで、やっぱりブルース・リーは『燃えよドラゴン』に尽きるな、な~んて思いましたが、子どもの頃にテレビではじめて観た時はめっちゃくちゃ興奮したんですよ(^^)。今でも、格闘シーンはすばらしいと感じた僕でした。それにしても、民族対立をあおるものって、たとえそれが映画でもやっぱり良くないですよね。。


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『山下達郎 / JOY~TATSURO YAMASHITA LIVE』

YamashitaTatsuro_Joy.jpg ポップス方面での土岐英史さんの名演をあげるとしたらこれ!日本のシティ・ポップの代表格、山下達郎さんのライブ録音を集めた2枚組CDです!収録されたライブは1982年から89年まで…土岐英史さんが参加していた頃です!僕、土岐さんのプレイ初体験はジャズのアルバムじゃなくて、山下達郎さんのバンドでの演奏だったんですよね(^^)。

 土岐さんがらみで言うと、バラード曲「FUTARI」でのサックスソロは、アルバム『For You』でのスーパープレイすら凌ぐ名演、涙が出てしまう…。ポップチューンでは「Sparkle」でのサックスも素晴らしすぎ。ロックの人にはわからないかも知れませんが、ジャズやってると8ビートに乗るのってけっこう難しいんですよ。それをここまでやったのはフュージョンもきっちり通過したからなのかも。
 というわけで、80年代の山下達郎さんの素晴らしさの一端を担ったのは参加ミュージシャンの演奏の素晴らしさ。ほかにも青純さん、重美徹さん、野力さん、そして椎名和夫さん…もう、当時の日本のスタジオミュージシャン勢の演奏が素晴らしすぎました。スタジオアルバムと違って、けっこうプレイヤーの見せ場もいっぱい用意してありました。そして、こういうスタジオ・ミュージシャンを音楽面でコントロールできるだけの力が達郎さんにあったんでしょうね。同時期に似たようにスタジオミュージシャンで固めても、中島みゆきさんあたりだと音楽を仕切り切れずにアンサンブルも演奏も方針もバラバラですから。。

 そして、やっぱり達郎さんの曲が素晴らしいと感じました。「あまく危険な香り」「ふたり」「Let’s Dance Baby」「DOWNTOWN」。楽しく、時に哀しく、聴き終わってしまえばいろんな世界を一通り見た後に静けさが残るもんだから、まるで人生が終わったかのようにはかなくて…このポップスにどれだけたくさんの人が救われてきただろうかと思ってしまいました…大袈裟ですね、でも本当にそう思っちゃったんですよね(^^;)。

 明るく楽しく、人生を肯定的に受け入れ、時に心を動かして…達郎さんは音楽の技法だけでなくアメリカの楽観主義も同時に輸入した人だと思うんですが、彼が受けたのは後者によるところも大きかったんじゃないかなあ。こういう音楽って、戦後の日本の歌謡音楽にはなくて、ようやく始まったのは60年代あたりから徐々に始まった弘田三枝子さんや伊東ゆかりさんあたりから。あれはベタのカバーだし、やっぱりアメリカの楽観主義(と、その後ろに感じる儚さ切なさ)を体現した最初の偉大なミュージシャンが山下達郎さんだったのかも。本当にすばらしい音楽、自分が死ぬ時は、こういう明るく楽しい音楽の中で「人生って楽しくて素晴らしいものだったなあ」と笑って去るのも良いかもなあ…。


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『土岐英史 / The Good Life』

TokiHidefumi_GoodLife.jpg 1993年録音、土岐さんのワンホーン・カルテットのアルバムです。メンバーは土岐英史(a.sax)、大石学(p)、坂井紅介(b)、日野元彦(dr)。若い頃の愛聴盤で、心の底から震えました

 スリーブラインドマイス『TOKI』の18年後となる演奏ですが、それだけの年輪を感じさせるというか、音楽がものすごく大人になっていて、痺れました。『TOKI』だって日本人ジャズの隠れ名盤と言っていいぐらいに素晴らしかったんです、楽器持ち替えたり、フュージョンやったりスタンダードやったりモードやったり、とにかく果敢にチャレンジしていく感じで。ところがこのアルバムはアルト一本、すべてバラード、アコースティック一直線…奇をてらったものはすべて排除して、楽器の出音と表現だけで勝負。僕がこのアルバムをはじめて聴いた時はまだ20代でしたが、「ああ、大人になるってこういう事なんだな」な~んて思って、本当に参ってしまったんですよ。1曲目「The Good Life」のテーマ部分のアルトの移りゆく表情だけで、涙が出そうになってしまいます。色んな音色を使い分け、アーティキュレーション、こういうのを聴いてしまうとシンセや打ち込みがいかに貧しいかが分かってしまう。。
 サウンドと表現の素晴らしさは土岐さんだけじゃなくて、メンバー全員がすごい。トコさんのライドシンバルをゆるく「パーン」って撫でるサウンドなんて、どうやったらこんなにいい音が出せるのかと思うほど。

 久々に聴きましたが、感動はまったく同じ。今にして思うのは、実は録音がすごいんじゃないかという事です。ジャズのバラード集だと、コルトレーン『Ballads』とかマイルス『My Funny Valentine』とか、色々あるじゃないですか。そのへんのクラスになると演奏を比較する事にはあまり意味がなくて、みな素晴らしいんですよね。このアルバムもそうしたアルバムと肩を並べる名演と思いますが、違うのは録音の良さ。特にドラムとピアノの素晴らしさは50~60年代のジャズ録音にはありえないもので、ものすごい立体感とクリアなサウンド、それでいてすごく太くあったかい音なのです。これはプロデューサーとエンジニアが大ファインプレーですね…。
 若いミュージシャンにはとても演奏できそうにない音楽、すばらしいジャズ・バラード集でした。土岐さんはそこまで知名度は高くないですが、表現力も高くハートのある演奏をする見事なジャズ・ミュージシャンだったと思います。


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『土岐英史カルテット / TOKI』

TokiHidefumi_Toki.jpg 先々月(2021年6月末)、サクソフォニストの土岐英史さんが亡くなったそうです。土岐さんをジャズのサックス奏者と認識している人って、どれぐらいいるのでしょうか。山下達郎さんや吉田美奈子さんや竹内まりやさんのアルバムで艶っぽくサックスを演奏しているセッション・ミュージシャンと認識している人の方が多いかも。だって、そういうアルバムの方が多いですし、ポップスで聴かせたソロがこれまたとんでもなく素晴らしかったですもんね。ところが実際には王道を行くジャズ・サクソフォニスト。これは1975年にスリー・ブラインド・マイスから発表されたリーダーアルバムで、恐らく土岐さんの処女作です。メンバーは、渡辺香津美(g)、井野信義(b)、スティーヴ・ジャクソン(dr)…すげえ、新人の処女アルバムとは思えない豪華さです。

 モード、スタンダード調、そしてオーネット・コールマンのナンバーなど、バラエティに富んだ内容でした。モードはフレーズを含め、相当にコルトレーン。コルトレーンが一気に「バラバラバラバラバラバラ…」って吹くときがあるじゃないですか、あれも見事に消化していました。あまりに見事な演奏なもので当たり前のように聴き入っていましたが、考えてみたらアルトサックス奏者なのに持ち替えてソプラノを吹いてこれってすごくないかい、な~んて思いました。あと、曲によっては渡辺さんがエフェクターを使ってふわふわとして音を出しているのでフュージョンっぽくきこえるところもありましたが、サックスはムードに走らずあくまでアドリブの実力勝負。カッコよかったです。

 日本のジャズミュージシャンって、どんどん食えなくなっていきました。それは僕がはじめて末席を汚させていただいた時に痛感させられたことで、「ええ~、あんなすごい人でも学校の先生やポップスの仕事やらないと食えないのか」みたいな。本当は本筋だけやって生きていられれば良かったんだろうけど、これだけの演奏をする土岐さんですらポップスの仕事をしないと生きてはいけず、他界した時の新聞記事にも「あの山下達郎さんが信頼を寄せた」と書かれてしまうぐらいに、本業での実力を知られていませんでした。でも数少ないチャンスに土岐さんが発表したアルバムは名作が多く、今でも聴く価値がある、日本のジャズ史に伝え残して欲しいと思う名プレイヤーと思います。


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『シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲1~2番 ブリテン:ヴァイオリン協奏曲 ツィンマーマン(vln)』

Szymanowski Britten_ViolinConcerts_Zimmermann シマノフスキでもうひとつ好きなのが、ふたつのヴァイオリン協奏曲です。このCDの録音は2004年から2007年の間と比較的最近。CDショップの試聴機に入っていたのを聴いたんですが、録音にしても演奏にしても音が良くてビックリ!思わず買ってしまいました。試聴機は危険だ。。ツィンマーマンという音楽家はいっぱいいますが、このヴァイオリニストのフランク・ペーター・ツィンマーマンさんは聴いた事がなかったというのも、購買意欲を刺激された理由のひとつでした(^^;)。

 シマノフスキのヴァイオリン協奏曲は、どちらも切れ目なく演奏される単一楽章の曲。このCDでは細かくトラックを区切ってくれてましたが、音が切れないので「ずいぶん長い第1楽章だなあ」とか思っちゃいました。そういえば昔も同じこと思ったな(^^;)>。1916年作曲の第1番、サウンドはワーグナーっぽい後期ロマン派と印象主義のミックスみたいでえらく官能的、様式はロマン派的で、主題を何度か登場させながら色んなシーンを渡り歩いていく感じ。1933年作曲の第2番は制作時期が空いてますが、傾向は同じ。いや~20世紀初頭のヨーロッパ音楽の官能性はすごいです。

 ブリテンのヴァイオリン協奏曲は3楽章形式。サウンドはオーソドックスな機能和声ですが、構造が入り組んでいて面白かったです。ブリテンの曲って、保守すぎ単純すぎ繰り返しが多すぎで聴いてられない時があるのでね。あ、でも1楽章のティンパニのパターンや2楽章のクライマックスのひたすら同じフレーズの繰り返しと3楽章の同じ旋律の上行と下降を繰り返すところはやっぱりくどかった(^^;)。。

 このCD、やっぱりフランク・ペーター・ツィンマーマンさんの演奏と、超ハイファイな録音が素晴らしかったです。ツィンマーマンさん、僕が若い頃にドイツ演奏界の超注目プレイヤーという噂を耳にしてましたが、こんなにうまいのか…正直いって驚きました。といっても65年生まれなので、今ではもういい歳なのでしょうけど。また、演奏だけでなく、ヴァイオリンの音が素晴らしくて驚きました。ライナーによると西部ドイツ州立銀行が所有しているフリッツ・クライスラーの使っていたストラディヴァリウスなんだそうです。こんなの、個人じゃ所有できませんね…もちろん本人の技術とか録音とか色々あるんでしょうが、やっぱりいい楽器ってあるのかも。


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『シマノフスキ:《スタ-バト・マーテル》 《聖母マリアへの連祷》 交響曲第3番《夜の歌》 ラトル指揮、バーミンガム市交響楽団&合唱団』

Szymanowski_StabatMatre_Rattle.jpg 名作と言われているシマノフスキ「神話」を聴いても印象派のエピゴーネンとしか思えなかった僕が、シマノフスキに惹きつけられたのがこのCD。シマノフスキの管弦つき声楽曲を集めてあって、合唱つきの交響曲3番「夜の歌」は有名ですが、あとのふたつの曲はまったく知りませんでしたが、これがどちらも素晴らしかったです!

 先に、指揮のサイモン・ラトルについて。世界のオーケストラの中でも、ベルリン・フィルハーモニーは名門中の名門。ベルリンフィルの歴代常任指揮者は全員超有名で、フルトヴェングラー、チェリビダッケ、カラヤンアバドと来て、その次がイギリス出身のラトルでした。ロマン派音楽に強かったベルリン・フィルに古典派や現代の曲を色々と持ち込んで、ベルリン・フィルをロマン派専門の若干偏ったオケから、西洋音楽の思想を広くとらえたようなオケに押し上げたのはラトルの業績じゃないかなあ。超一流ですね(^^)。

 さて、このCDのザックリしたイメージについて。僕的なクラシックのイメージは、こんな感じです。バロック期のバッハや近現代のシェーンベルクやヴェーベルンの音楽は音楽そのものの追求。モーツァルトやハイドンは貴族の楽しみ。そしてロマン派周辺は素晴らしくてもあくまで享楽的。本でいえば、哲学は印象や思想を排した上での人間そのものの言語的な追及ですが、そういうのに比べると、太宰治やカフカは哲学的な題材を扱ったとしても、情緒的な感覚で捉えた人間観に軸足を残しているので、深いかもしれないけど根本が享楽的だと感じるのです。そういう意味で、シマノフスキの音楽も、仮に宗教的題材を扱ったとしてもどこか娯楽的に感じます。交響曲3番はペルシャの詩人ルーミーの詩を取りあげていて、他の2曲はキリスト教絡みのテキストを使い、どれも題材が高尚で、場合によっては宗教色すら強いのに、享楽的に聴こえるのです。サウンド的にはスクリャービンや印象派の影響もかなり強く感じる作品群ですが、メンタルが根本的にロマン派的なんだと思います。

 そういう意味でいうと、聴いていて楽曲分析しようという気にはならず、ただ音の海に使って悦楽的に聴いてしまうんですが、それでいいんだと思えるほど気持ちいい!クラシックのロマン派的な人間的ところは、いつか通り過ぎてしまった自分がいます。でも、久しぶりに戻ってくると、考えたり祈ったり笑ったり泣いたりというのも、人間的でいいもんだなあ、なんて思ってしまいました。ぜんぜん曲の紹介になってませんが、音の色彩感が相当に増した後期ロマン派音楽という感じ。このディスクがなかったら、僕はシマノフスキをあんまり聞かずに終わってたかも(^^)。音の色彩が素晴らしい1枚、これはおすすめです!


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『シマノフスキ:《神話》 《クルピエ地方の歌》 《ロクサーナの歌》 フランク:《ヴァイオリンソナタ》 ダンチョフスカ(vn)、ツィマーマン(p)』

Szymanowski Sinwa_Franck Vln Sonata_Zimerman シマノフスキの「神話」目当てで買ったCDです。カップリングされてるフランクの「ヴァイオリン・ソナタ」がとんでもなくいい曲である事はいつか書きましたが、この演奏も素晴らしい!いや~、クレーメルの演奏もすごかったですが、こっちはピアニストがすごい。フランクのヴァイオリン・ソナタの名演を求めてこのCDを選ぶのもありなんじゃないかと。でも、フランクのヴァイオリン・ソナタに関してはいつか書いたので、今回はシマノフスキ注目という事で。

 シマノフスキは19世紀末‐20世紀初頭のポーランドの作曲家です。後期ロマン派から印象派や12音列技法など色々な音楽が広がったこの時代の作曲家らしく、最初は機能和声法を使ってロマン派音楽を書いていたんですが、ポーランドがドイツやロシアにいじめられたからか、だんだんドイツ音楽に批判的になって機能和声から離れ、フランスの印象派に近づいた、みたいな。ちなみに、僕が聴いたことのあるシマノフスキはすべて印象派っぽい音楽だったので、もしかすると有名作はみんな印象派時代なのかも。この「神話」もやっぱりそういう音楽で、ギリシャ神話を題材とした標題音楽です。最初に聴いた時に、「これはいい!」と思ったんです。でも、和声がドビュッシーすぎというか、ここまで似せると単なる真似に聴こえちゃうかも。でも様式は古典~ロマン派というドイツ音楽的。

 演奏ですが、ふたりとも素晴らしい演奏!カヤ・ダンチョフスカというヴァイオリニストは知らなかったんですが、見事な演奏でした。いや~、あんまり有名じゃないと言ったって、グラモフォンからCDを出すレベルの人はやっぱり違うんだなあ。そして、ピアノのクリスティアン・ツィマーマンはショパン国際コンクール優勝を果たした凄腕。僕の大フェイヴァリットピアニストさんで、マジで凄い、文句なしです(^^)。シマノフスキの選択は、プレイヤーがどちらもポーランド人だからなのかも。

 というわけで、「ドビュッシーにつながる印象派の傾向にある音楽」を聴きたい人には、間違いなくおすすめ。フランクがドビュッシー以前、シマノフスキが以後というわけで、フランク「ヴァイオリンソナタ」やシマノフスキ「神話」の好演をお探しの方にはなおさらオススメです!


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映画『里見八犬伝』 薬師丸ひろ子、真田広之主演

SatomiHakkenden.jpg 『影の軍団』とほぼ同時期に見た、千葉真一さん出演作です。滝沢馬琴の書いた「南総里見八犬伝」は江戸時代の大ベストセラーだったそうですが、全106巻…売れると引っ張りまくるのは日本映画やマンガだけじゃないんだな、江戸時代から日本のお家芸だったのか (^^;)。。里見八犬伝は3度も4度も映画化されてますが、これは1983年の角川映画版で、薬師丸ひろ子さんと真田広之さん主演。この映画には個人的な思い出がありまして、小学生の時に、姉と二人で観に行ったんですよ。姉だって子供でお金がないだろうに、映画を観た後にマクドナルドでハンバーガーを奢ってくれたんです。ちょいと短気で喧嘩もよくしたけど、やさしい姉だったなあ。

 江戸時代、城ごと滅ぼされた一族が魔物として復活し、自分たちを滅ぼした里見一族に復讐を始める。ほぼ全滅した里見だが、姫であった静姫(薬師丸ひろ子)だけはかろうじて生き残る。彼女の元に剣士が集まって姫を守るが、8人目の剣士はなんと…

 小学生のころに観た時ですらチープだと思いました。役者は千葉真一に夏木マリに志穂美悦子に…これだけのキャスティングをしておきながらつまらないのは、制作サイドに問題があったんじゃないかと。チープさは大道具や音楽など、至る所ににじみ出ていました。
 城のセットなんて、昭和の仮面ライダーの敵アジトみたいで、じつに発泡スチロールっぽい(^^;)。83年というとスーパーマンもスターウォーズもとっくに公開されていた頃で、「洋画に比べると邦画はなあ」って感じちゃいました。
SatomiHakkenden_movie.gif 音楽も安っぽかったです。「音楽監督NOBODY」とクレジットされてましたが、NOBODY って矢沢永吉さんのバックバンドだったふたりですよね。NOBODYは好きですが、なぜロックの人に管弦のスコアを書かせたんでしょう、中学生が人生で初めて書いた管弦楽みたいなオーケストレーション、これは辛い…。録音もチープで、弦なんてファーストヴァイオリンが6人ぐらいしかいないようにしか聴こえない、フルートに至ってはシンセで代用したように聴こえるぞ…。

 これだけ言っておいてなんですが、当時は面白く感じるところもありました。特撮でいうと、すべてが駄目というわけでなく、最後の魔城が焼け落ちるシーンは『怪奇大作戦』の寺が燃え落ちる回に匹敵するほどの出来栄えで一見の価値あり!あと、萩原流行が2枚目でないととても務まらないような役をいっしょうけんめい演じているのですが、どうみてもカッコよくない、これは京本正樹と役を入れ替えた方がよかったんじゃないか…な~んて突っ込みを入れながら観るのもそれはそれで面白かったりして。姉と観に行ったという思い出補正が強いから、どこかで擁護したくなるのかも知れません(^^;)。


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TVドラマ『影の軍団III』 千葉真一主演

Kage no Gundan3 1982年制作、人気忍者時代劇「影の軍団」シリーズの第3作です!今度の主人公は多羅尾半蔵…多羅尾伴内と服部半蔵をミックスしたわけですね(^^;)。

 政争に巻き込まれて身を隠した前将軍の正室(岸田今日子)が、寺に身を隠して政敵を倒そうと画策。そこで頼ったのが伊賀忍者の多羅尾半蔵。半蔵は依頼によって引き受けるかどうかを決めるというゴルゴ13のような立ち回りで契約、伊賀衆を集めて影の軍団を結成、悪事で権力を持った政敵の討伐に立ち上がる。

 僕が最初に観た『影の軍団』は、この第3作でした。半蔵は身分を偽り、銭湯に務めて身を隠しているんですが、この銭湯のシーンで女の人のおっぱいが毎週みられるのが第3作の売りのひとつ(^^)。別にヌードを出す必要もないところで見せていたので、視聴率を稼ぐために用意されたお色気コーナーだったんでしょうね(^^)。同時に、影では時代の巨悪をも倒すほどで、部下たちからも絶大な信頼を得ている最強忍者なのに、銭湯ではドジというコミカルさが取り入れられたのも、前2作には感じられない所でした。

 真田広之に志穂美悦子というジャパンアクションクラブのスターが勢ぞろいしたのも本作で、子どもの頃はすごく豪華に感じていました。当時、真田さんも志穂美さんも映画で主演してしまうほどの人気。『2代目はクリスチャン』『里見八犬伝』『忍者武芸帖』というヒット映画がほぼリアルタイムでしたからね。

 そして、オープニングとエンディングの曲。『影の軍団』シリーズの主題歌/主題曲はどれも大好きでしたが、真田さんが主題歌を歌った3作のオープニングは特に好きでした。いま聴くといろいろ思うところもあるんですが、とにかく小学生でしたから、忍者のカッコよさの前にあばたもえくぼ状態でした(^^)。

 懐かしいなあ、僕は『影の軍団』を小学生の時以来まったく見てないですが、それでもうろ覚えながらこれだけ書けてしまうんですから、やっぱりそうとう印象に強かった時代劇だったのだと思います。東映制作のアクション作品という事もあって、仮面ライダーと時代劇の間ぐらいの感覚で見ていたのかも。


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TVドラマ『影の軍団II』 千葉真一主演

Kage no Gundan2 1981~82年制作、小学校高学年のころに夢中になって観た忍者時代劇「影の軍団」の第2弾です!

 主人公は1作目の伊賀忍者・服部半蔵ではなく、その子孫の新八。世を忍んでひっそり暮らしていましたが、行きがかりの男から託されたオランダ語の巻物がきっかけで、命を狙われる事になります。敵は影の権力者大岡忠光と甲賀忍者26人衆。望まぬ戦いに巻き込まれた新八は伊賀忍者を集めて影の軍団を結成し…

 記憶が曖昧ですが、手形を一枚ずつ集めていくのって、これでしたっけ?もしそうなら、少しずつ謎が解けていき、「あと12枚か」みたいに終盤に向けてカウントダウンされて物語が加速していくようで、すごく面白かったのを覚えています。ところで26人衆といえば、仮面ライダーV3も「26の秘密」という設定がありました。なぜ26なのか…ちょうど2クール放送でちょうど謎がすべて解けるという数なんでしょうね(^^;)。
 ドラマの展開はカウントダウン形式だけでなく、敵忍者との確執でも表現されていました。敵甲賀衆のくノ一が志穂美悦子さんで、千葉さんとはジャパンアクションクラブの師弟対決。志穂美さんは千葉真一を親(?)の仇と思ってるけど、真犯人は自分のボスである大岡忠光で、千葉に命を救われてその事実を知り…いやあ、ドラマチックだったなあ。

 このドラマを夢中で見ていたのは小学生4~6年生ぐらいのころ。子どもだっただけに、普通の時代劇よりもアクションや装束がカッコイイ忍者ものという所が琴線に響いたのかも。夢中で見ていたなあ。再放送してくれればまた見たいTVドラマのひとつです。


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TVドラマ『服部半蔵 影の軍団』 千葉真一主演

Kage no Gundan1 1980年制作、千葉真一主演のテレビ時代劇です。小学生の頃、夕方にやっていた再放送を夢中で見てました。時代は天下泰平の江戸時代。戦国時代には大活躍した伊賀忍者も、この時代には世を忍ぶ影の存在になっていました。しかし、甲賀忍者との対立や様々な陰謀が起き、伊賀の頭領・服部半蔵が動き出します。

 僕がまだ小学生でアホだった事もあるでしょうが、このドラマに魅かれた一番の理由は、千葉真一さん扮する忍者のカッコよさでした。世代的に千葉さんが男性俳優ナンバーワンのブロマイド売り上げだったアイドル時代も知らなかったし、「仁義なき戦い」もまだ見てなくて、恐らく影の軍団が千葉さん初体験。声は渋いしルックスはいい、そしてアクションシーンは見事。若い男には出せないオッサンの男の渋さにしびれました。バラエティにも出るようになった今だったら「ええ?千葉真一?」なんて言われちゃいそうですが、当時はマジでカッコよかった。

 もうひとつ好きだったのは、逆境に立たされ、それでも戦うヒロイズムでした。伊賀の忍者は社会の影に潜んで、江戸で他の職に身を隠しながらひっそりと暮らしています。それでも甲賀に狙われ、あらぬ罪を被せられ…と、逆境につぐ逆境。それでも歯をくいしばって耐えるんですが、最後は怒って敵と戦う、そうするとめっちゃ強い!いや~、本当は強いのに正義や平和のために耐えるという構図がたまらなく良かったですねえ。

 このドラマは悲劇的なストーリーが多くて、そこもグッと来ました。最後にさっそうと大活躍というだけじゃなくて、悲しみの果ての戦い、みたいになるんです。同じ伊賀者同士で殺し合いをしなければならなくなり、半蔵が幼馴染を切るという話があったはずですが、それで殺された伊賀者は死ぬ前に「半蔵、伊賀を頼んだぞ」と言って死んでいくんですよ…。服部半蔵のまわりには仲間の忍びがいるんですが、これが物語が進むにつれ、一人また一人と死んでいきます。また、服部半蔵のもとに送られた甲賀の女間諜が、半蔵の人柄に魅かれ、抜け忍になり、そして…いやあ、悲劇はこのドラマの魅力だったと思います。
 あ、そうそう、忍者ものと言っても「分身の術」みたいな現実離れした描写は無くて、あくまで剣術や手裏剣なんかの現実的な描写だったのも、子どもの頃に気に入った要因だったかも。

 今にして思えば、僕にとっての忍者って、この「影の軍団」と漫画「サスケ」でイメージが出来たと言っても過言じゃなさそう。サスケでは甲賀忍者が主人公で、伊賀の服部は敵なんですが、このドラマは逆。サスケを見ていた幼少時は「伊賀はむかつく。半蔵とか最悪」と思ってたのに、このドラマでは逆。争いなんて、どっちにも言い分があるもんなんだなと悟って少し大人になった、小学校高学年の頃の僕でした(^^)。


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千葉真一さんが逝ってしまった

CHiba Sinichi 一昨々日(2021年8月19日)、アクション俳優の千葉真一さんが、コロナに罹患した末に肺炎で逝ってしまいました。享年82歳という事は、コロナでなくとも何か重い病気にかかっていたら厳しかったかもしれませんが、それにしてもコロナとの戦いは出口が見えません。なんで自〇党は臨時国会を開くのを拒否して逃げまくってるんだろう、いま対策しなくていつやるんだ、必死に対応しているアメリカやイギリスやドイツに比べ、悪事は重ねるわ保身に走るはの今の政権はポンコツすぎる気が…。

 僕は、『キイハンター』や空手映画シリーズ、果ては俳優のブロマイド売り上げ1位だった時代の千葉真一さん全盛期を知りません。70年代に生まれの僕にとっての千葉真一さんとの1次遭遇は、忍者時代劇『影の軍団』のシリーズ。千葉さんはすでに中年でしたが、その男くさい魅力にしびれました。次に見たのが角川映画『里見八犬伝』で、これも主役の薬師丸ひろ子さんや真田広之さんを差し置いて、一番カッコいいと感じました。まあ、自分の命と引きかえに主役を助ける役ですから、役柄が良かったというのもあったかも。

 そういう「男くさくてカッコいいおっさん」という千葉さんの見え方が変わったのは、さかのぼって松田優作主演映画『蘇える金狼』や、やくざ映画『仁義なき戦い 広島死闘篇』を見てから。前者では大企業の重役をゆするチンピラ役、後者はやくざからも「仁義に反する」と言われるほどの悪党役ですから、命を懸けて正義を貫く影の軍団の頭領とのギャップに驚くと同時に、むしろこのアンチヒーローな千葉さんにしびれるようになりました。

 最後は、お笑いのダウンタウンの年末番組「絶対に笑ってはいけない24時」の病院編に出てきた千葉さん。千葉さんは居をハリウッドに移していて、せっかく好きな俳優だったのにもう日本には来ないのかと思っていたら、よもやこんなバラエティ番組で自分が笑いの種になるような役柄を演じるとは。それにしても、番組内での「私のアドレスは、チバ・ドット・ハリウッド・ドット・スーパースター・ドット…」というくだりは面白かったなあ。

ChibaShinichi_Jingi.jpg むかし千葉さんのマネージャーをしていたというKさんという人から、仕事をいただいた事があります。その方が、横浜のレストランで、千葉さんがアメリカに行ったのは日本にいられない事情があって…と、内情を教えてくれた事があります。でもこの話は信じられるかどうか疑問。というのは、Kさんは兄弟で芸能界隈で活動していたんですが、この兄弟のことを別の芸能プロダクションの社長さんに話すと、「え…」と、けげんな顔をされたんです。「そのふたりはけっこう怪しい人だから気をつけなさい」みたいな。で、別の仕事で神奈川の地方新聞の方にお会いしたら、「そのふたりに詐欺られた」みたいな。当時僕は演奏の仕事をしていたもので、クライアントさんが芸能プロダクションさんになる事もあったんですが、芸能界ってやっぱり興行の流れがあって今もヤバい部分があるんだな、と思いました。

 なにせきなくさい昔の日本の芸能界で、俳優としてでなく会社社長としても活躍なさった方ですから、汚れた仕事も色々あったかと思います。でも代表を務めるというのはそういう面もあって、きれいごとだけでは済まないですよね。酸いも甘いも経験して裸一貫で生き抜いた強さや根性は芝居にも出ていたと思います。骨折なんて当たり前でスタントをに挑んでいたそうですから、それこそ命がけで仕事に当たっていたプロ根性あふれる俳優さんであった事は間違いありません。『影の軍団』での半蔵役と『仁義なき戦い』での大友勝利役は、僕の中では永遠。ご冥福をお祈りいたします。


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書籍『リグ・ヴェーダ讃歌』 辻直四郎訳

Rig Veda Sanka_TsujiNaosiro インドの神様への讃歌という意味で言うと、ミーラー・バジャンどころか、世界の歴史に残るほど有名なものにも触れた事があります。リグ・ヴェーダ讃歌っす!
 インドの宗教的な文献というと、バラモン経典のウパニシャッドとか、原始仏教の色んな本とか、「紀元前の思想家って凄すぎるわ」というもののオンパレード。インドの古い宗教文献を総称してヴェーダというそうですが(ウパニシャッドもそのひとつで、ウパニシャッドは奥義書)、その中でも特に古いものがリグ・ヴェーダ。リグ・ヴェーダはインド最古の宗教文献となる韻文の讃歌で、主に神々を崇めた歌が多いですが、他にも天地創造を歌ったものや、祭祀に関する歌なども。これは岩波文庫から出たリグ・ヴェーダ集ですが、もともとは筑摩書房の『世界古典文学全集3巻 ヴェーダとアヴェスター』からの引用が多いそうです。この文庫版は、讃歌をジャンル別に分けて収録していました。

 たしかに神々の讃歌が多かったです。僕が知っている神の名前だとウシャスとかヴィシュヌとかインドラとか。それぞれの神々の解説を逐一入れてくれていたので、素人の僕にとってはむっちゃくちゃ分かりやすくなっていて有り難かったです(^^)。ただ、詩としてはのちのウパニシャッドみたいな哲学的な深さとか修辞法的な見事さはあまり感じる事がなく、べた褒めしてるだけ感がなきにしもあらず(^^;)。本当に、詩とか関係なしに神をたたえること自体が目的だったのかも。
 感心したのは神々のうたではなく、天地創造を扱った詩句でした。

そのとき無もなかりき、有もなかりき。空界もなかりき、その上の天もなかりき。何ものか発動せし、いずこに、誰の庇護の下に。 (宇宙開闢の歌10・129-1)

この創造はいずこより起こりしや。そは実行せられたりや、あるいはまたしからざりしや、――最高天にありてこの監視する者のみ実にこれを知る。あるいは彼もまたまた知らず。(宇宙開闢の歌10・129-7)

 古い宗教文献というとエジプトやシュメールにもありますが、多くの古典的な文献での天地創造ってギルガメシュとエンキドゥとか、人型の神が出てくるものが多いです。リグ・ヴェーダも似たような感じでしたが、この詞だけはそういう擬人化はなしで、科学全盛の現代ですら通じそうなこの表現。時空もないところで擾乱が起き…な~んて量子論の世界の表現とほとんど同じじゃないですか、すげえ。う~んなるほど仏教が宗教というより哲学として発展したルーツには、こういう心理そのものを追おうとするインド宗教の伝統があったからなのかも知れません。

 インドの古典文献で僕が本当にのけぞったのはウパニシャッド関連からで(ウパニシャッドは200以上あるインドの宗教的奥義書の総称で、書かれた年代はまちまち。俗にウパニシャッドという時は古代ウパニシャッド14~17種のことを指す)、リグ・ヴェーダはまだああいう哲学的な深さや詩的な見事さは感じませんでしたが、その萌芽は感じました。あと、意外とこの詞を書いた人たちが、作詩を依頼してきたクライアントに媚びて書いたように思えたところもけっこうあるような…そんな穿った見方をしてしまうのは、僕が歳をとってすさんでしまったからなのかな(^^;)。。


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『M.S.Subbulakshmi / Meera Bhajans』

M S Subbulakshmi_Meera Bhajans 1965年発表、南インドの女性歌手M.S.スブラクシュミによる、ミーラー・バジャン集です。僕が持っているのは中村とうようさんが編集した、このアルバムにインド古典音楽1曲を加えた『至福のインド音楽 M.S.スブラクシュミ』というCDです。
 インドと言えばシタールとタブラのインスト音楽という印象ですが、実際には7割ぐらいが声楽なんだそうです。M.S.スブラクシュミさんは南インドの代表的な歌手で、フランスのシャンソンでいえばエディット・ピアフ、演歌でいえば美空ひばりぐらいの位置にいる人みたい。そして、ミーラー・バジャンは、16世紀に活躍したミーラー・バーイーという北インドのお姫様が作った神への讃歌の事で、つまりバッハよりも古い古典音楽という事ですね。

 ミーラー・バジャンは北インドの音楽ですが、スブラクシュミさんが南インドのミュージシャンという事で、楽器編成などが南インド風なんだそうです。僕の耳に聴こえる伴奏楽器はハルモニウムとタブラとタンブーラなんですが、クレジットを見るとヴァイオリンとムリダンガム(タブラを横にして叩くような恰好をした楽器)という事でした。

 音楽は東南アジア的というか、熱い地域の穏やかな音楽、みたいな。でも文化の流れから言うと東南アジアの方がインド音楽に似ているというべきなのかも。インドの古典芸術音楽のような劇的構成はなくて、まったりと小曲を演奏している感じ。西洋でいう長調系の音楽が多いと感じましたが、7曲目「Pyare darshan」の中間部が短調系に一時転調したりもしていたので、細かく見れば実はいろんなラーガを使っているのかも。
 詞は、クリシュナ神をたたえるものがほとんどで、少しだけ愛の歌が入っていました。でも愛の歌で歌われている「あなた」というのも、もしかして恋人ではなく神の事なのかな?

 歌は、いかにもインド的な歌唱…と言っても、どこでそう感じるのかうまく説明できないんですが、あのヌルッとした語感と中域の膨らんだ発声と言えばいいのかな?驚いたのはボーナストラックに入っていた南インドの古典音楽での歌唱で、ものすごいヴィブラート!ヴィブラートの技巧を聴かせるために用意しただろうパートまで用意してあって驚きました。たとえば、正確に16分音符分で長三度を往復するヴィブラートとか使うんですよ!だからヴィブラート自体が旋律として成立している、みたいな。こういうヴィブラートの技巧ではイラン音楽で聴いたことがありましたが、よく考えたらお隣さんですもんね。という事は、南アジアの歌のレッスンは音程ヴィブラートの技術を身につけるのが必須課題になってくるのかな?

 日本に入ってくる海外の音楽情報は資本主義の都合で欧米経由である事がほとんどだから、人口も多ければ歴史も深く、文化面でも世界の中心のひとつという南アジアの歌姫もろくに知らなかった(^^;)>。どういうわけか、僕は日本の美空ひばりにはそれほど心を動かされないのに(「悲しい酒」だけは別)、海外の有名な歌姫はことごとく「なるほど、これはいいな」と思わされるんですよね。好き嫌い以前に、音楽が好きなら一度は聴いておくべき超ビッグネームではないかと。


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『インドのカタックダンス』

Indo no Katakku Dance おおーこれはいい!インドの音楽と言えばラヴィ・シャンカルとかヒンドゥスターニ音楽が有名ですが、、僕がパッとイメージするのはこのむしろCDに入っているような音楽のほうかも。タブラが複雑なリズムを鳴らして、インド音楽とアラビア音楽の中間のようなエキゾチックな旋法を使った弦楽器が鳴って(このCDだとサロッド)、昔のインドの詩人が書いた詩が朗々と歌われて、みたいな。このCDはインドのカタック・ダンスというものの舞踊音楽だそうですが、音楽にやられてしまいました。かっこいい!

 11分ほどの1曲目「ムガル宮廷のカタック・ダンス」がすごい!リズム型はティン・タール(この演奏がすごかったです!リズム型を詳しく知りたい方は『インドの音楽』か『音楽の原理』を読んでね^^)、旋法はアヒール・バイラブ。この旋法は7音音階ですが、それを書くと「ド/♭レ/ミ/ファ/ソ/ラ/シ/ド」みたいな。つまり均等分割じゃない!いやー音から感じるエキゾチックさは「ド/♭レ/ミ/ファ」の音の並びにあるんだな。。5度がちょっと高く感じましたが、これが噂の微分音程というやつかも。そして、アッチェルしたりリットしたり、クレッシェンドしたりディミネンドしたり、押し引きが自由自在。さらに詩歌は年老いた人が恋人にあてた懇願の歌…これで心を動かされなかったら嘘だって。

Kathak Dance_pic1 2曲目はガザル。パキスタンのガザルは聴いたことがありましたが、ガザルって結構エロいんですよね。忘我の境地に達して…みたいな(^^;)。このCDだと、ゆる~い波が寄せては返す感じでした。

 4曲目「釈迦物語」は、エンディングでリズムが変わりテンポが突然上がりフォルテになって突然ブレイクして…みたいな仕掛けが素晴らしかったです。

 5曲目は恐らく即興で、サロッドとタブラのデュオ。無伴奏でルバートのサロッド独奏から始まり、ティン・タールのリズムが出てきて、どんどんアッチェルして登りつめていって最後は元のゆったりしたところに戻る、という楽式だったので、インド芸術音楽をコンパクトにした感じでした。

 インドの古典舞踊には、カタック、マニプリ、オリッシ、バラタナーティアム、カタカリの4種類あって、このCDのカタックはインド北部のダンスで、シルクロードとのつながりが強いそうです。イスラム王朝時代の色町で行われていたノーチョクnautch という踊りがベースで、それが洗練されで生まれたものだそうな。いや~それにしても南アジアや西アジアの音楽のレベルの高さがヤバかったです。曲目も演奏も尋常でないすごさすばらしさでした!


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『シタール絢麗 北インドの巨星パルト・ダースの妙技』

SitarJyunrei Parto Das 北インドのシタール奏者と言えば、僕の世代ではラヴィ・シャンカルが有名でしたが、インドはバッハより古い音楽一族が今も芸術音楽の伝統を守ていたりする国なので、シャンカル以外も以降も良いシタール奏者はいっぱいいるんだろうな…な~ん思ってもインド音楽を全然知らないもんで、結局は日本のレコード会社が文化事業をやっていた頃のCD頼りになる僕です(^^;)。これはシャンカルと同じ北インドのシタール奏者パルト・ダース(Partho Das)のCDで、タブラのラーシンド・ムスタファ(Rashid Mustafa)とのデュオ。1989年のインド録音ですが(録音スタッフは日本人)、録音も演奏も音楽もめっちゃくちゃ良かったです!特に音の良さは感動モノ、日本ビクターの民族音楽シリーズは録音が良いものに当たることが多いです。

 音楽の前に、草野妙子さんという民族音楽学者による解説が素晴らしかったです!いわく…インドのシタールは地域によってちょっと変わって、ベンガル地方ではセタールに近づいたりと、その種類は優に200ぐらいはある。その中でインド古典音楽の領域圏に入っているシタールは必ず共鳴弦がついている。一般に北インドのシタールと呼ばれているものは、正確にはタラフダール・シタールという。ちなみに「タラフ」とは共鳴弦の事…おおー勉強になるなあ(^^)。

 収録曲は3曲で、うち2曲は30分前後の演奏でした。西洋のスケールで言うと、「ラーガ・バーゲシュリ」(夜のラーガ)がドリアン、「ラーガ・バイラビ」がフリジアン、「ラーガ・ヤマン」(朝のラーガ)はリディアンかな?これがルバートによるシタール独奏から始まって、メインテーマ的なところに入って、途中からタブラが入って、どんどんアッチェルして盛り上がっていって、最後に面テーマ的なところに戻る、みたいな。これは僕がシャンカルのCDや書籍『インドの音楽』や『音楽の原理』で勉強したヒンドゥスターニ音楽の様式。それが良い演奏と音で聴くとこんなに凄く感じるなんて、ちょっとびっくり。特に最初のアーラープ部分のレイドバック感なんて、ずーと浸っていたくなる心地よさでした。響き線がついていると、たしかにタンブーラなしで充分だなあ。あ~音楽でトリップしてしまいそう。。

 そして、プレイヤーがクソうまいです。4バーズになる所のタブラはちょっとアレでしたが(^^;)、それ以外はすべての音に神経が行き届いているというか、雑なタッチや平たい表現なんてどこにもなる、すべてが美麗でした。ひと節演奏するだけでも、例えば5つ音が使われているとして、そのすべてに強弱がついているんですよね。楽器表現って芸術音楽になると地域差関係なしに段違いだと思い知らされました。

 ヒンドゥスターニ音楽のCDっていっぱい出てますが、このレベルのプレイヤーのこのレベルの録音はなかなかない気がします。シャンカルの録音なんて、悪いものばっかりですしね。。パルト・ダースというシタール奏者について僕は全然知りませんが、どう聞いたってクソうまい。シタールの表現には歌うように演奏するガヤキ・アンガというものと、器楽的に演奏するタントラ・アンガというものがあるそうで、それを別々の巨匠から習ったんだそうで、なるほど総合格闘技の選手みたいなものか、凄いわけだわ。。


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書籍『オーディオ「お助け」ハンドブック【コンポのトラブル対処編】』 STEREO編

AudioOtasukeHandbook_Combo hen オーディオ関係でトラブルが発生した時に読む本です。音楽之友社の雑誌「STEREO」編だったのでちょっと不安だったんですが、この本は良かったです!

 まず、アンプでもスピーカーでもCDプレーヤーでもでもレコードプレーヤーでも、よくありそうなトラブル(片方のチャンネルから音が出ないとか、トレイが開かないとか)に関する対処法がザクっと掲載されてました。これはいい!

 そして、テスターの使い方が出ていたのも良かったです。僕、中学の時に受けた技術の点数、悪かったんです。。

 さらに、個人的なビッグヒット記事だったのが、「アナログディスク・プレーヤー調整術」。レコードプレーヤーって、針圧だけ調べてざっくり使っちゃいませんか?僕はそうなんですが、ほんとうは水平とったりアジマス合わせたり、やるべきことはいっぱいあるんだろうな…な~んて思っていたんですが、そのやり方が実践レベルで詳しく書いてありました。これだけでも買いです!!

 後半に載っていた、オーディオが壊れた時のメンテナンス業者の紹介もよかったです。実はここが一番使えそうだったりして。。

 この本、編集部が音楽之友社の雑誌「STEREO」なので、ちょっと不安でした。あの雑誌は思いっきりメーカーと癒着してる感じで、雑誌を買ってもその8割が新製品の太鼓持ち宣伝記事だったり、たかがレコードの掃除やスピーカーのインシュレーターに何十万円もする商品を押し売りしようとしたり、金持ちな読者から金を巻き上げる事ばかり考えていそうな嫌な雑誌と僕は今でも思っているんですが、この本はそういう宣伝も少なく、最初から最後までためになる記事が多くて、すごく良かったです。オーディオのメンテやトラブルで悩んでいる方がいらっしゃいましたら、ぜひ!


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『Lee Morgan / Vol.3』

Lee Morgan_Vol3 リー・モーガンのブルーノート第3作、1957年録音です。しかしブルーノートも性格悪いですね、サヴォイ録音も入れればVol.4 なのに、自分のところ以外のレーベルはない事にしてるぞ(^^;)。。これも前作『Lee Morgan Sextet』に続いて3管のセクステットでした。メンバーは、Lee Morgan (tp), Benny Golson (t.sax), Gigi Gryce (a.sax, fl), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Charlie Persip (dr)。

 このアルバムを聴いて真っ先に感じたのは、匂いがジャズ・メッセンジャーズの『Moanin'』に似てることでした。複数管ですし、どの曲もいかにもハードバップな感じのテーマですし、マイナーブルースがアルバムの要所に配置されてますし、スタジオ録音で演奏が慎重でやや控えめだし…音楽も演奏も匂いが似てるんです。そういえば『moanin'』のテナーもベニー・ゴルソンだったな…。

 1956年と57年はリー・モーガンの全盛期で、なんとリーダー・アルバムだけで2年で6枚!全盛期のソニー・ロリンズに匹敵するほどのリリース・ラッシュです。でもさすがにこれだけ乱造してすべてが練りに練られた作品を作れるはずもないですよね、ブルーノートの1~2作目に比べると、決められた型の中でチャチャッとアドリブして終わらせたセッションに聴こえました。同じセッション形式でも、1~2枚目は充分にリハをしたと分かるほどバンドの一体感があったし、アレンジもきれいに書かれていました。でもこのアルバムはそこまでは届かない感じ。ただし、「Domingo」でのモーガンのアドリブは素晴らしかった!というわけで、音楽全体としてはハードバップの金太郎飴に陥った印象でしたが、でもソロイストはブレイクしただけのことはあるアドリブを炸裂させているぞ、みたいに感じました(^^)。


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『Lee Morgan Sextet』

Lee Morgan Sextet 1956年にジャズ・トランぺッターのリー・モーガンがブルーノートからリリースした第2弾アルバムです。でも、その間にサヴォイから『Introducing Lee Morgan』というアルバムを出してるので、モーガンのリーダー作としては3作目なのかな?
 リー・モーガンと言えばジャズ・メッセンジャーズの『Moanin'』を真っ先に思い浮かべる僕ですが、56年というとモーニンより2年も前ですね。なるほど、メッセンジャーズ参加以前から、モーガンさんは高く評価されているトランぺッターだったんだなあ。編成は3管セクステットで、メンバーは、Lee Morgan (tp), Hank Mobley(t.sax), Kenny Rodgers (a.sax), Horace Silver (p), Paul Chambers (b), Charlie Persip (dr)。

 あ、これはいい…。リー・モーガンさんというと、猪突猛進型のペッターという印象があるし、またそれを望んでいた僕でしたが、1曲目の「Whisper Not」のセクションのアレンジを聴いただけで、しびれてしまいました。そしてミュート・トランペットを使ったモーガンのソロもむちゃくちゃセンスいい!
 このアルバム、全体的に聴き心地がよく出来ていました。アップテンポのナンバーでも、熱く激しくラッシュしていくのではなくて、あくまで軽快にスキップしているような心地よさ。モーガンさんのペットも、音がテンパってしまう所まで吹かず、7分目ぐらいに息を入れてる感じなので音がすごくふくよか。いやーこれはいいなあ、最高に気持ちいい。僕がもし仮にニューヨークやロスでビジネスマンをやっていたとして、仕事帰りにジャズのライブハウスいってこんな音楽を聴けたら、もう天国ような気持ちになれるんじゃなかろうか。「ああ、俺の人生は悪くないものだ」みたいな。

 どの曲もアレンジ部分とアドリブ部分のバランスが良かったです。ハードバップが個人のアドリブを見せ場にしている音楽だというのは分かりますが、それでもアドリブだけに頼っちゃうと、僕みたいにポップスやロックで曲を聴く事に慣れて育った身としては飽きちゃうんですよね。これぐらい曲の容姿をきちん整えたうえで、それぞれのアドリブの見せ場を作ってくれると最高に心地よいです(^^)。いいアルバムでした!


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『Lee Morgan / Indeed!』

Lee Morgan_Indeed  ハードバップ期の名ジャズ・トランぺッターのひとり、リー・モーガンのソロ・デビュー作、1956年録音です!デビュー盤が50年代のブルーノートって、ジャズ・ミュージシャンとしては最高のスタートではないでしょうか?!この時リー・モーガンさんは18歳、前途洋洋としか言いようがないですが、最後は奥さんに殺されてしまうんですよね。才気あふれるプレイボーイも楽じゃない、アメリカの銃社会はやっぱり良くないぜ。ちなみに編成はアルト・サックスとの2管クインテットです。

 おおーこれはリー・モーガンのアドリブが子気味いい!!バンドも全体で盛り上がっていて、リズムセクションがただリズムやバスをキープしているだけでなく、フロントのモーガンやクラレンス・シャープに見事に絡んでました。バンド一体とはこのことですね(^^)。。あ、そうそう、クラレンス・シャープというアルト・サックスの演奏で、僕が一番心に残ってるのはこのアルバムです。のちにもうちょっとフリージャズ方面に近づいていくんですが、ビバップ~ハードバップ路線にいた時の方が好きだなあ。
 音楽は、はげしく燃え上がるというよりも、子気味よく乗ってる感じ。でもエンターテイメントやってる風でも、軽く流してる風でもなくて、なかなか入れ込んだ演奏をしていてよかったです。これはカッコいい。。

 若い頃の僕はブルーノートで最大のヒットを記録した名盤という触れ込みで、63年録音のアルバム『サイドワインダー』からモーガンさんに入ったんです。でも面白く感じることが出来ず、ついでにモーガンが参加したジャズ・メッセンジャーズの超有名レコード『モーニン』もイマイチ面白く感じなかったもんだから、モーガンのアルバムは敬遠気味になってました。だから、50年代のリーダー作を聴いたのは30代後半になってから。ところがこれが名作揃い!ハードバップ全盛期に作られたハードバップの名作揃いです。個人的な感想を言えば、ハードバップの名作扱いされているキャノンボール『枯葉』とかメッセンジャーズ『モーニン』より断然イケてます。これは推薦…と言いたいところなんですが、僕が聴いたアルバムだけでも50年代のモーガンさんは推薦盤がいっぱいあるので、あんまり推薦ばかりしてるとインフレしちゃいそうです(^^)。。


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『中世・ルネサンス音楽への招待状 In musica vivarte: Huelgas Ensemble』

In musica vivarte Huelgas Ensemble アホで申し訳ないんですが、ルネサンスって近世ですよね?そして中世ヨーロッパって5世紀から15世紀ぐらいの時代区分ですよね?でもルネサンスって14世紀から16世紀ぐらいですよね?じゃ、ルネサンスって近世じゃなくて中世の場合もあるんじゃ…ここがいつも分からないです(゚ω゚*)。そしてこのCDも混乱してしまいました。中世であるルネサンス音楽なのか、中世音楽とルネサンス音楽なのか…まあいいか、クラシックだと、中世とルネサンス期の音楽をまとめてアーリー・ミュージックと呼んでるし(^^;)。
 いつぞや古いジャズに関して、「デューク・エリントンチャーリー・パーカーまでは遡りやすいけど、その前になると突然遡りにくくなる」みたいな事を書いた事がありました。これがクラシックの場合、バロックまでは遡りやすいけど、その前になると急に霞がかってくる事態に、僕はなってしまうのでした。子供のころ、親にせがんで「クラシック音楽事典」というとんでもなく分厚い本を買ってもらったんですが、そんな百科全書のような本ですらバロック以前はまったく触れられていなかったのです。そこで僕は古楽の本を買って独学で遡ったんですが、これが文字ばっかり飛び込んできて、肝心の音を聞く事がなかなか難しい(>_<)。でも少しだけ分かったのは…ルネサンス音楽は、今のオランダ・ベルギー・北フランスあたりの地域に、ブルゴーニュ楽派とフランドル楽派という一大勢力を生み出した事。この両楽派を合わせてネーデルランド楽派なんて呼ぶ事もある事。ここに所属する大作曲家に、デュファイ(ブルゴーニュ楽派)、オケゲムジョスカン・デ・プレラッスス(フランドル楽派)がいる事。これとは別に宗教音楽や吟遊詩人の歌を含む世俗曲の流れがあって、宗教音楽はローマ・カトリック教会で歌われていたグレゴリオ聖歌が後の西洋音楽に影響を与えている事。ルネサンス期になるとイタリアにパレストリーナという作曲家が優れた宗教音楽をたくさん書いた事…まあ、こういうザックリとした整理だけは出来ました。でも、この枠に入らないものは、今も混乱したまま先送り(^^;)。

 さて、ようやくたどり着きました、このCDについてです。CDのどこにも書いてませんが、これはアーリー・ミュージックを専門に演奏するウェルガス・アンサンブルがリリースしてきたアルバムのオムニバスです。中世・ルネサンス期のヨーロッパ音楽を手っ取り早く聴けるというだけでもありがたい1枚…ですが、このCDの特徴は、先ほど挙げたルネサンス期の大有名な作曲家の作品を避けている事です。これが僕にとっては都合がよくて、ラッススやパレストリーナのような有名作曲家を掘り下げていったとしてもダブらない (^^)。逆にいうと、これを聴いて中世・ルネサンス音楽のかたづけてしまおうと思うと、有名作曲家の曲をひとつも聴けないまま終わるので注意。80年代アイドル歌謡のオムニバスに松田聖子もチェッカーズも入ってない、モダンジャズのオムニバスにマイルスもコルトレーンも入ってない、みたいなものですから(^^;)。音楽はバラエティに富んでいて、スペインの女子修道院に残る写本の歌(12~14世紀)、フランスの一地方の領主が音楽かに書かせた曲(14世紀後半)、写本に残されたミサ曲の一部、器楽、フランドル楽派ゴンベールやデ・ローレの曲なんかが入ってました。今回、久々に聴いて感じたことは、中世の曲が入ってるのがこのCDの価値なんじゃないかと思いました。というのは、15~16世紀のルネサンス音楽のCDは他にもいっぱい出てるんですが、12~14世紀の中世の音楽って、とつぜん数が減るんですよね。

 最初にきいた時に印象に残ったのは、現代の音楽に比べてとにかく美しかった事。古楽というと、未完成の古い音楽という印象を抱いていたのに、様式として既に完璧なんじゃないかと思ったんですよね。様式について知る事が出来たのは、このCDを聴いたずっと後の事でしたが、厳密にシンメトリックを構成している曲もあって、これは相当な作曲技術がないと書けないんじゃないかと恐れおののいたのでした。中世からルネサンスのヨーロッパ音楽って、僕は世俗曲でも宗教曲でもつまらないものに出会った事がないですが、これも凄いわ美しいわで見事だった!でも…外堀を埋めるようなCDなので、中世音楽をある程度聴いてから手を出した方がいいCDかも知れません(^^;)。


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『中世イギリスの歌 English songs of the middle ages:セクエンツィア Sequentia』

English songs of the middle ages_Sequentia もうひとつ、中世イギリスの音楽を扱ったCDを。勘違いしそうなアルバムタイトルですが、タイトルに書いてある「セクエンツィア」は、中世の典礼音楽のセクエンツァではなくてグループ名です(^^;)。4人編成で、うち3人が歌を歌い、2人がハープ/シンフォニアとフィーデルを演奏していました。

 11~14世紀あたりのイギリスの歌が入っていて、うち2曲はインスト。1曲を除いて作者不詳の音楽ですが、基本的に何らかの写本に残されていたものだそうです。写本に残されていたといっても、「イエス・キリストの優しき母は」みたいな明らかな宗教歌だけでなく、「鳥たちは森に」のような世俗曲も入ってました。一声の歌が多く、多声でも平行オルガヌムやコンドゥクトゥスのようにリズムが一緒で、プリミティブなものが多かったです。この素朴な歌はフランスのトルバドゥール(13世紀に最盛期を迎える南フランス発祥の吟遊詩人のこと)からもたらされたようで、フランスのアンジュ伯アンリ・プランタジュネがイギリスに来てヘンリー2世として即位する時、何人かのトルバドゥールが一緒にイギリスに渡ったそうです。無伴奏独唱の歌も入っていますが、これがのちのチャイルド・バラッドにつながるのかな…な~んて考えていたら、なんだか楽しくなってきました(^^)。

 ルネサンス音楽という革命的な音楽が生まれるきっかけになったダンスタブルが登場するのは、この音楽の後。中世~バロックあたりまでのイギリスの歌って、肌寒い森の中にある凍った湖のような透明感のあるものが多くて、神秘的だなあ、な~んて思って聴いてました(^^)。


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『百合と小羊~中世イングランドの聖歌と多声楽曲~ アノニマス4』

Yuri to Kohituji ChuseiEngland_Anonimas4 中世イタリアの音楽に続きまして、中世イギリスの音楽です!アーリー・ミュージックって、15~16世紀のルネサンス音楽まで来ると色んなCDも出てるし作曲家も有名な人が続々でてきますが、その前の中世とになるといきなり数が減るんですよね。。
 イギリスはクラシック不毛の地なんて言われますが、要所要所で素晴らしい作曲家を生み出したり、時代をリードしたりするんですよね。ルネサンス音楽の口火はイギリス人作曲家のダンスタブルが3度や6度の和声をイギリスから大陸に持ち込んで始まりましたし、バロック期のパーセルを生み出したのもイギリス、バッハと並ぶヘンデルを手厚く保護したのもイギリスですし。現代のポップス/ロックの中心地だってイギリスですし。

 このCDには13~15世紀のイギリス聖歌とポリフォニー。賛歌3曲、セクエンツァ6曲、モテトゥス2曲、コンドゥクトゥス7曲が収録されていました。
 昔このCDを買った理由は、セクエンツァがたくさん入っていたからです。古楽の作曲の勉強をしていると、重要な技法にトロープスというのが出てきて、本には「元来の歌詞でなく、その間に挟まる説明的な詞」なんて説明は書いてあるものの、実際に聴けたことがほとんどありませんでした。そこで、トロープス状の曲であるというセクエンツァがたくさん入ってるCDを探したのです。そして見つけたのがこのCDで、ついでに全然聴いた事のなかった中世イングランドの音楽も聞ければなおよし、という感じでした(^^)。
 セクエンツァはカトリックのミサで使われる典礼音楽で、アレルヤ唱(メリスマチックな歌で、最後に「アレルヤ」で終わるあれです)や詠唱(トラクトゥス)に続いて歌われるラテン語の聖歌です。アレルヤ唱が元来の歌詞でメリスマチックなのに対して、セクエンツァは祖即説明のような詞でシラビック(1音に1文字)なトロープス状。そして、4人編成の女声合唱のアノニマス4が歌うこのCDを聴く限り、多声のものもワンコース斉唱もあります。そして、斉唱ですらやばいぐらいにメッチャ美しい。ユニゾンですらこれだけ美しいって、いったいどういう事やねんって感じ、グレゴリオ聖歌を3倍ぐらい凄くした感じです。いや~こんなものを体験してしまったら、他の歌を「うまい」なんて言えなくなってしまう。。ところがこのセクエンツァ、のちに組ミサが作られるようになると廃れ、16世紀以降はほとんど歌われなくなってしまったんだそうで。なんともったいない。

 コンドゥクトゥスもやばかった。コンドゥクトゥスって、同じ多声でもオルガヌムやモテトゥスみたいなカノン状になっておらず、リズムが同じなので単純なコーラスという感じになってしまい、個人的には中世ポリフォニーの中ではつまらない音楽だと思ってました。ところが、このCDのものはヤバいほどに美しい。この凄さって、音楽以上にこの女声合唱グループのうまさが原因なんでしょうね。

 アノニマス4って、なんだか怪しそうな名前だし、売れれば何度もオッケーないかにもアメリカ的なグループなんじゃないかと思ってたんですが、とんでもない!ヨーロッパ中世の音楽だけを専門に歌うグループで、過度の装飾を避け、それでいてアンサンブルもテクニックはバッチリ、見事すぎるグループでした。僕的にはヒリアード・アンサンブルなんかより全然こっちの方が好きです。中世の合唱音楽って、「これは売るための着色しすぎだろ」というものとか「これはピッチとリズムが」みたいなものがあります。そんな中にあって出色の完成度!中世イングランドの音楽という事を除外して、見事な声の音楽を聴くというだけでも、超がつくほどおススメの1枚です!


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『春は来たりぬ/中世イタリアの音楽 マンロウ指揮、古楽コンソート』

HaruhaKitarinu ChuseiItaria no ongaku_Munrow 中世・近世・ルネサンス音楽の違いがよく分からないまま、アーリー・ミュージックをさまよっていた頃にきいたCDです。本だと、柴田南雄さんの『西洋音楽の歴史』とか、初心者に優しそうな『古楽への招待』や『聴く音楽史』なんてものも読んだんですが、音と知識が一致しなくて、モヤモヤしたままのところも数知れず。本で「イソリズムというのは…」と説明されても、実際の音を聴かないとピンとこない、また実際の音を聴いてもそれがイソリズムなのかどうか確信が持てない…みたいな状態だったんですよね (・ω・`)。そんなある時、「少ししか聴いてないのに分かろうとするのが間違ってる。たくさん聴いてるうちに繋がってくる事もあるだろう」と、開き直りました。すると気が楽になり、またしても本丸ネーデルランド楽派を後回しにして面白そうなところから手を出し、このCDにたどり着いたのでした。だって、中世とかルネサンスといったら、ミケランジェロやダヴィンチがいたイタリアから手をつけたくなるのが人情ってもんじゃないですか(^^)。

 このCD、14世紀イタリアの音楽が、僕みたいな初心者にも分かりやすく整理されている点がとっても良かったです。なんで分かりやすかったかというと、ふたつ理由がありまして…
 分かりやすかった最初の理由は、色んな作曲家を均等に並べるのではなく、14世紀のイタリア人作曲家ランディーニを中心にまとめてあったところです。19曲中7曲が、ランディーニの曲です。残りは作者不詳が7曲、他の作曲家が1曲ずつ計5曲。ルネサンスは14世紀のイタリアに始まって、他の地域に波及していくのはもっと後。そんなルネサンスの口火を切った14世紀イタリアの最重要作曲家がランディーニですが、ここを中心に聴く事が出来たので、すごく分かりやすかった!たくさんの作曲家のオムニバスだったら、僕は掴み切れなかったかも。
 分かりやすかったもうひとつの理由は、当時の音楽の代表的な形式3つを、分かりやすく何曲かずつ取り上げてくれたことです。14~15世紀のイタリアの世俗音楽は、マドリガーレ、カッチァ、バラータ(バッラータ)の3つに分かれるそうですが、曲タイトルの下にこれを明記して、マドリガーレ4曲、カッチァ2曲、バラータ5曲が入ってます。
 このCDに入ってるマドリガーレはいわゆる中世マドリガーレ(他にルネサンス・マドリガーレがある)。3行の詩が2節、そして最後に2行の締め句がつくスタイルです。音楽的にはA-A-コーダ、みたいになるんですが、こういうのが、本を読んでるだけだとなかなか分からなかったんですが、本を読んだあとでこういう実際の音楽を何曲かまとめて聴いたら理解できました(^^)。ちなみにランディーニが書いた中世マドリガーレの一部は、これを3声カノンにしたりして、なかなか見事でした。
 カッチァは、楽器のテノールの上で2人が同度のカノンを使って歌う、狩りや釣りの様子を歌った歌。きっと、何人かでカノンを歌って遊んだんでしょうね。
 バラータ(バッラータ)は、後のイギリスのバラードとはぜんぜん違って、「AbbaA」という形式の曲。このCDに入ってるバラータは、器楽伴奏に単声の歌、器楽伴奏に多声の歌、器楽もありました。もしかしたら、「AbbaA」という形式以外はかなり自由なのかも。詩がついた場合は愛の歌ばかりで、まさに世俗曲といった感じ。曲も短いし構成もシンプルなので、すごく聴きやすかったです。ランディーニはバラータを書くのが得意だったそうです。

 このCDに入ってる曲は、厳格な宗教音楽は少なくて、世俗音楽が多いので楽しいです。当時の狩りの様子を歌った歌とか、恋の歌とか、14世紀のイタリアに生きている気分になれます(^^)。このCDで指揮をしているマンロウは中世~ルネサンスあたりの古楽リバイバルの中心のひとりで、リコーダーを演奏するのですが、これがまた当時の雰囲気を醸し出してて、とってもいい(^^)。本当の木で作られた木管の音って、素朴でいいですねえ。4曲目バラータ「愛よ、この乙女を」は木管2重奏のインストですが、メッチャよかった。。

 というわけで、14世紀イタリア音楽を聴くなら、古楽リバイバルの偉人マンロウが企画したこのCDはおすすめです!…って、僕も14世紀の音楽をたくさん聴いたわけじゃないんですが、僕個人はすごくいいCDだと思いました(^^;)>。。


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『十字軍の音楽 マンロウ指揮、ロンドン古楽コンソート』

Jyuujigun no ongaku_Munrow ルネサンス以前12~14世紀あたりのヨーロッパ音楽のCDで、僕が1枚だけ選ぶとしたらこれかも知れません。21世紀に十字軍遠征時代のヨーロッパ音楽を聴く事が出来るって、すごくないですか?同じジャンルのCDを何十枚も買うより、自分の知らない世界にふれた方が絶対楽しいと思ってるもんで、「十字軍の音楽」と題されたこのこのCDを見つけた時は狂喜乱舞、速攻で購入しました (^^)。

 僕的なこのCDのいちばんの感動ポイントは、やっぱりトルバドール、トゥルヴェール、ミンネゼンガーという中世の吟遊詩人の音楽を聴く事が出来た事。中世の吟遊詩人の歌って、本にはやたら出てくるのに、実際の音をまったく聴く事が出来なかったんです。いずれも単旋律の短い歌で、トルバドールは3つの中では一番古く最盛期が1200年前後、南フランス発祥多くのトルバドールが騎士階級の詩人音楽家で、マルカブリュとか名前だけは知っている人がいますが…おお~このCDにはマルカブリュの曲が入ってる!「このスペインの地の異邦人の苦しみ」なんて詞が出てきますが、それってウマイヤ朝とかイスラムによるスペイン支配の事ですよね、たぶん。いや~それがリアルタイムの詩って、すごいです。吟遊詩人の歌が新聞代わりだったというのも、なんとなく分かりました。
 次に古いトルヴェールは、トルバドールの音楽を引き継いで北フランスで広まった音楽。トルバドールよりもかなり洗練されて、20世紀のイギリスあたりのフォークロアと言われても信じてしまいそうなほど美しいです。中世の有名な世俗曲にアーサー王物語の歌がありますが、あれがトルヴェール。このCDに入ってるギョ・ド・ディジョン「私は心のなぐさみに」は、愛人が十字軍遠征に赴くのを嘆いた歌で、詩が「あの野蛮な地から戻った人を私は知らないのです」…いつの時代も戦争は悲劇です。そして、十字軍がリアルタイムの歌って、すごい。
 これらフランスの吟遊詩人の歌がドイツに飛び火したのがミンネゼンガー。トルヴェールの歌が飛び火したのはイギリスやスペインやイタリアもそうだったらしいですが、圧倒的に繁栄したのはドイツで、残っている曲の量も圧倒的だそうです。このCDに入っているフォーゲルワイデ作「パレスチナの歌」はミンネゼンガーの名作として名高い曲で、これだけは僕も知ってました。フォーゲルワイデがフリードリヒ2世と十字軍遠征でパレスチナ入城した時に作られた曲で、フリードリヒ2世が十字軍遠征史上唯一の戦争なしでの交渉となった時の歌。フォーゲルワイデさんはそれにメッチャ感動。あまりの感動に、フリードリヒ2世を神扱いでした (^^;)。ドイツのマイスタージンガーはミンネゼンガー直系ですが、15~16世紀の音楽だし十字軍の音楽ではないというわけか、このCDには入ってませんでした。

 もうひとつ、僕がこのCDを有り難く思ったのは、ヨーロッパの初期の多声楽を聴く事が出来た事。中世の多声楽といえばアルス・ノヴァが有名ですが、それより前のオルガヌム、モテトゥス、コンドゥクトゥスはアルス・アンティクアなんて呼ばれます。オルガヌムは宗教音楽に使われる形式なので、古い声楽を聴いているとそれなりに聞く事が出来るんですが、コンドゥクトゥスがなかなか聞けません。そんなコンドゥクトゥスを僕がはじめて聴けたのも、このCDでした(^^)。あ、モテットも入ってます。
 モテットミサ曲以外の多声部宗教曲(モテトゥスは世俗の多声宗教曲)…という事は知っていたのですが、久々にこのCDを聴いていて気づいた事が。たとえば9曲目に入っていた2声モテット「自然の摂理では」ですが…あ、あら?声部ごとに違う詞を歌ってないかい?いやあ、外国語なので詩は全然聴いてなかったのですが、同時進行でこれが成立するってすごい。モテットってみんなこうなのかと思って他の曲を聴いてみたら…同じ歌詞のものもあるみたい。ものによるんですね。
 コンドゥクトゥスは多声だけど、どの声部もリズムが同じだから声部書法というより和声に聴こえる音楽…と昔本で読んだんですが、このCDに入ってるものは単声のものもあって混乱…このCDの解説によると、12~13世紀のラテン語の歌はコンドゥクトゥスというみたいです(^^;)。その上で多声だとリズムが同じで今の合唱みたいになるという事なのかな?

 このCD、「中世の音楽って素朴で味わい深いなあ」な~んて聴くだけでも楽しいですが、本気で聴くとめっちゃ深い、すごい情報量です。モテットやコンドゥクトゥスは音楽史を勉強したことがないとみんな一緒に聴こえてしまうかも知れませんが、分かってくるとメッチャ面白い。ルネッサンス以前の中世ヨーロッパ音楽を聴きたいなら、修道院ものの声楽とこのCDを持ってるだけでかなりの範囲をカバーできてしまう優れものです。それもこれも、マンロウさんの監修がとんでもなく優れているからなんでしょうね。14世紀のイタリア音楽もマンロウ指揮の古楽コンソートの演奏で体験した僕ですが、それより前の11~13世紀のヨーロッパ音楽も、マンロウさんのおかげで聴く事が出来ました。マンロウさんに大感謝、発掘の情熱に頭が下がります。なんでこんな素晴らしい仕事してる人が自殺しちゃったんだろうな(・_・、)。


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『Juliette Gréco / Recital』

Juliette Gréco Recital フランスのシャンソン歌手ジュリエット・グレコのライブ録音です。もしかしたら日本オリジナル盤かも知れなくて、僕が買った日本盤CDのタイトルは『枯葉~ジュリエット・グレコ・ライブ』。ジュリエット・グレコは来日の多かった歌手ですが、これは81年、東京草月ホールでのライブ録音。というわけで、日本盤なのかな?レーベルはフィリップス…フィリップスってシャンソンとかアルゼンチン・フォルクローレとか、渋いところのいい音楽をいっぱい紹介してましたよね。音楽ファンにとっては本当にありがたい素晴らしいレーベルでした。

 81年ということは、グレコさんは54歳ぐらい。もう高い音域が出ません。声量もありません。全盛期のグレコにはほど遠かったです。それでも、表現が素晴らしかったです、これはちょっと胸を打つものがありました。そして、「枯葉」「アコーディオン」「パリの空の下」「聞かせてよ愛の言葉を」「街角」などなど、代表曲のオンパレードで全19曲!これはもうベスト盤だと思って聴いてもいいぐらいでした。
 ただ、ライブ盤なのに音がやたらデッドで迫力がないし、バンドは傷一つないプロの演奏ながら無難に済ませてる良くも悪くもない伴奏という感じで、音楽自体がイマイチ面白くなかったです。というわけで、もし『メルシー』みたいな素晴らしいベスト盤を持っているなら、あえて聴く必要もないのかな?


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『Juliette Gréco / Merci』

Juliette Gréco Merci シャンソン歌手ジュリエット・グレコの2枚組ベスト盤です!僕が思っているシャンソンのイメージに一番近い歌手って、エディット・ピアフよりもジュリエット・グレコやダミアバルバラなんですよね。エンターテイメントというより、フランスの小説家や画家なんかの文化人が集まる場所で知性あふれる歌を歌っていた人たち、みたいな。僕が持ってるのは日本盤で、解説はものすごく丁寧だし、すべての歌の日本語訳はついてるしで、本当にすばらしいCDでした。第2次大戦後まもなくから年から2015年まで(グレコは2016年に引退)というグレコの全時代からの選曲だった点もよかったです。

 最初に心惹かれたのが、2次大戦直後の50年代の歌詞です。ドイツに占領される地獄を見た後で本国を奪還した当時のフランスの風潮もあったか、グレコ本人がナチに強制収容所に入れられた経験者という事もあってか、戦争を感じさせる詩が多かったです。「戦争が終わってできた場末のダンスホール」とか、パリをいつくしむような歌とか。そして、詞と音楽が劇的で、ひとつの歌がまるで短編小説のよう。シャンソンって、イヴェット・ギルベールほどではないにせよ、語るようなレチタティーヴォで歌う所が多いじゃないですか。あれって、詩自体がほとんど物語で、半分はセリフみたいなもんだからだと思うんですよね。そんなわけで、歌を聴いているというより、役者のセリフを聴いているような気分でした。そうした傾向は、エディット・ピアフの何倍も強く感じました。

 次に感じたのは、曲とオケの変化。オケに関しては、僕は古い曲ほど好きでした。というのは、古いほどバンドに管弦が入っていたりと楽団がデラックスなのです (^^)。グレコがミュージックホールに出演していたタイプの歌手だったという事なんでしょうが、管弦を入れて音楽を聴かせるのが常だった当時のフランスの大衆音楽文化って、今よりぜんぜん豪華ですよね(^^)。音楽も単純なリート形式ではないものが多いぐらい(最低でもヴァースぐらいはついてる感じ)で、作家陣も素晴らしかったんだと思います。ドビュッシープーランク直系とは言わないまでも、そういう音楽も聴いてきた人が作ったオーケストレーションというかというか、少なくともミヨーぐらいの雰囲気はありました。そうそう、作曲家を眺めても、ジャック・プレヴェール(「枯葉」の作曲者)、ジョルジュ・ブラッサンス、シャルル・アズナブール、レオ・フェレ、セルジュ・ゲンスブール…ある意味でこのCDを聴く事は、グレコだけでなくシャンソンの歴史を聞いているようなもの(^^)。

 有名な曲がいっぱい入ってますが、アレンジや歌唱も含めて個人的に好きな曲は、ゲンスブール「アコーディオン」、ボリス・ヴィアン「脱走兵」、レオ・フェレ(ランボーやボードレールの詞に音楽をつけて「文学的シャンソン」の巨匠と言われている人です)の「時の流れに」ジャック・ブレルの「行かないで」は、アレンジが相当に前衛的で、こういう曲が普通に大衆歌謡に食い込んでいる所がフランス音楽のレベルの高さだと思います。こういう曲が技術的に書けるかどうかより、こういう曲を聴ける聴衆が育っているから「書くことが赦される」と思えるんでしょう。日本だったら、前衛舞台か何かという特殊な状況を想定しないと、ちょっと無理ですよね。。そして、詩が好きなのは「老夫婦」

 いまの西洋の軽音楽は完璧に英米音楽の焼き直しになっちゃってるもんで、わざわざ英米音楽以外を聴く気にもなれないんですが、戦後しばらくまでのフランス音楽は、こういう大衆音楽ですらフランス的なものを保っていて素晴らしいです。しかも、内容がいい。そしてこのCD、作りが丁寧で本当にすばらしいです。音のマスタリングも丁寧、音楽の背景や作曲の経緯の紹介、すべての曲の歌詞と日本語訳がついている、デザインも美しくて愛情がある!いい仕事をしていると思います(^^)。いま、こういう古い音楽のCDって10枚組ぐらいで何でもかんでもぶっこんであって、解説も歌詞もなにもついてないものが廉価で出てたりしますが、せめて訳や曲の背景ぐらい説明してくれないと、まったく分からないと思うんですよね。素晴らしいCDだと思いました!!


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『Mistinguett』

Mistinguett.jpg ミスタンゲットも19世紀末から2次大戦あたりまで活躍したフランスの女性シンガーで、シャンソンのルーツのひとりになった人です。歌だけでなくダンサーや女優としても活躍。新種のアパッシュ・ダンスをいち早く披露してフランスの大衆文化の中心となったり、第1次世界大戦でドイツ軍の捕虜となった恋人を救うために活動家まがいの行動までして恋人を救ったりと(なんとの恋人がモーリス・シュヴァリエ)、日本のタレントみたいにチープで職業的なものではなくて、もっと文化的な視点や思想を持って活動した人であった気がします。だってコクトーやオスカー・ワイルドが谷町だったというんだから、そのパフォーマンスたるや生で見ると凄いものだったんじゃないかと。
 これはEMIフランスがリリースしたオムニバス2枚組CD。ジャケットに「Casino de Paris」という文字が見えますが、実際にカジノ・ド・パリでのパフォーマンスの録音かどうかは分かりません。この画像って他のオムニバスCDにもよく使われるので、ミスタンゲットの有名な公演のポスターだったんじゃないかと僕は睨んでます(^^)。

Mistinguett_pic1.jpg ピアノ伴奏のイヴェット・ギルベールとはちがって、バンドは管弦入りで派手です。あーなるほどミスタンゲットが「ミュージックホールの女王」と呼ばれた理由が分かった気がしました。舞台の中心で歌でもダンスでも芝居でも何でもこなすエンターテイナーだったんですね、きっと。オケ伴奏のシャンソンといういみでは、エディット・ピアフみたいな音楽のスタイルは19世紀末から1次大戦前の時代にもう完成していたんですね。ただ、エディット・ピアフほど音楽的ではないというか、音楽よりもショーやエンターテイメントに近い感じ。だから、ピアフよりチャップリンの音楽に近く感じました。

 19世紀末から1次大戦前までのヨーロッパは、めずらしく戦争がなく落ち着いた時代で、「ヨーロッパ・コンソート」なんて呼ばれた市民が幸福を謳歌していた時代とどこかで読んだ記憶があるんですが、グーグルで検索してもそんな単語ぜんぜんヒットしない、用語を僕が間違えて覚えたかな…まあいいや、その頃のフランスは帝国主義の頂点。そんな幸福の絶頂にいる国のキャバレーや劇場の音楽に悲壮感が生まれるはずもありませんね。この頃のシャンソンはエスプリは感じても暗い影は感じませんでした。シャンソンが暗い影を帯びて深さを増していくのは、大きな戦争を2度経験してパリが占拠され、人が死に…というのを見てからだったんでしょう。それにしても、ミスタンゲットの全盛期って、生で見てみたかったなあ。


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『Yvette Guilbert / 47 Enregistrements Originaux de 1897 à 1934』

Yvette Guilbert_47 Enregistrements Originaux de 1897 à 1934 フランスの女性歌手であるイヴェット・ギルベールは今のシャンソンのルーツになったような人。1865年に生まれ第2次大戦が終わる前に他界、僕にとってはシャンソンというよりキャバレー・ソングの歌い手というイメージが強いです。だって、キャバレー全盛期のムーラン・ルージュでヘッドライナーだった人ですからね(^^)。キャバレーと言うと日本ではいかがわしい雰囲気が強く感じるかも知れませんが、19世紀末から20世紀初頭のフランスだともうちょっと違うニュアンスがあったようで、画家や詩人がたむろする文化人の交流の場になったところもあったそうです。というわけで、僕はイヴェット・ギルベールは伝説の中の人というイメージだったんですが…うおお、録音が残ってるのか?!この2枚組CDを見つけた時は飛びついて買いました!

 ピアノ伴奏での歌で、ピアノはほとんどアレンジに気を使っていなくて、本当にメロディとコードだけみたいな簡素なもの。だから、クラシックの歌唱レッスンみたいな匂いでした。あそこまでレイドバックしたりポップではないですが、アメリカのミンストレル・ソングにかなり近いかも。

 そして歌唱。すべてではないんですが、あのシャンソンの語るように歌う歌いまわしがけっこう出てきていました。アリアとかレチタティーヴォとはちょっと違うんですよね。ほとんどセリフに近いというか。で、曲によってはモノローグだけみたいなものまであるんですが、それでも節回しとかがどこか音楽的で、実に独創的。ピアノ伴奏のものより、僕はこっちに聴き入ってしまいました。なるほど、もしかしてシャンソンのあれってイヴェット・ギルベールがルーツなのかも知れません。

 古いシャンソンってクラシックと大衆歌曲の愛の子みたいな雰囲気を感じますが、この録音を聴いて、実際にクラシック歌曲がキャバレーに出てきたという事だったのかも知れないと感じました。でもって、フランスのこういうアンダーグラウンドな音楽は、創造力も高ければ知性も感じて、フランス革命を先導した学士や弁護士といった大衆よりながらエリートな匂いをそのまま引きずっているように感じました。これはいいなあ。このCD、本当に1897年録音みたいな信じられないほど古いものまで入っていてびっくり。だって1897年って、フランスのキャバレー常連だったサティでいえば「冷たい小品」発表年ですよね。あれとリアルタイムで同時進行していたシャンソンを今の時代に聴けるって、レコードって本当に凄いと思います。


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Bach Bach

Author:Bach Bach
狭いながらも居心地のいい宿で、奥さんとペット数匹と仲良く暮らしている音楽好きです。若いころに音楽を学びましたが、成績はトホホ状態でした(*゚ー゚)

ずっとつきあってきたレコード/CDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。趣味で書いている程度のものですが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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ロシアとウクライナがほぼ戦争状態に入りましたが、僕はソ連解体後のウクライナについて本当に無知…。これは2016年にオリバー・ストーン監督が作ったウクライナのドキュメンタリー映画。日本語字幕版が出たらぜひ観たい このブログをYoutube にアップしようか迷い中。するなら作業効率としては早いほど良いんですよね。。その時にはVOICEROIDに話してもらおうかと思ってるけど、誰の声がいいのか考え中
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