
クラシック・ギターの福田進一さん演奏による
武満徹作品集の第2弾で、武満さんの曲と、武満さんにちなんだ曲が収録されていました。
福田さんの武満作品集の第1弾には「
フォリオス」「すべては薄命の中に」「エキノクス」という武満さんのギター作品の代表作が入っていました。でも、よく考えたらこれらの曲が武満さんの代表作になったのは、福田さんのような影響力の強いギタリストが取り上げてきたからなんですよね。クラシックの名曲って、有名プレイヤーが取り上げることが第1段階、それを誰かが評価するのが第2段階、そうやって徐々に認知されていくんだと思うので、まずはプレイヤーが拾わないとどうにもならないのですよね。僕がこのCDを買ったのは、武満徹さん音楽が好きなのに、まったく知らない曲がいっぱい入っていたからでした。武満さんクラスの作曲家の曲でも、取り上げられず音盤になってないものがいっぱいあるんですねえ。
武満さんは、思いっきり硬派な芸術音楽を書く作曲家という一面だけでなく、フォークミュージックのような映画音楽を書くこともあるし、
ビートルズのギターアレンジなんかもやった事があるもんで、僕は全面的に信頼しているわけではないんですが(^^;)、このアルバムもそういう色んな顔を持った武満作品を取り上げていました。でもやっぱり惹かれるのは芸術音楽方面の曲で、3楽章からなる
「森のなかで」(1995)は、冒頭のアルペジオのサウンドを聴いただけで引きずり込まれてしまいました。ちょっとフォリオスに似ているところがあって、悪い言い方をすると過去の自分の作品の焼き直しを作ってしまうという作曲家が陥りやすいところにハマった気もしますが、それでもこの思いっきり武満なサウンドが僕は好きです。う~ん、こういういい曲だと楽譜を買わないわけにはいかないじゃないですか、お金ないんです助けてください。。
同様にして、「
キターのための小品~ブソッティの60歳の誕生日に」(1991)も素晴らしいサウンドでした。ただこれはサウンドイメージだけで、学識を形成するところまで来ていなくて、まだ曲になっていない感じかな?
武満さん以外の曲では、ブローウェル作曲の「ハープと影~武満徹への讃歌」が、なかなか良かったです。ただ、
ブローウェルのギター曲は、ある時期からどれも彼が書いたギター曲「ソナタ」のバリエーションのようで、似ていますね(^^;)。。ほかには、北爪道夫さん作曲の「青い宇宙の庭」の2曲も、なかなか面白かったです。なんでこの曲が武満作品集に入っているかというと、第2番が武満さんに捧げられているんですね。そういうだけあって、要所要所に武満さんっぽい音型や和音が出てきていました。
そして、ポピュラー系の曲で意外に感動したのは、アルバムタイトルにもなっている「翼」の、福田アレンジのギター二重奏版。なんだか古い日本の名画のハッピーエンドでかかるような曲で、自分が死ぬ時は「いい人生だったな」と思いながら、こういう曲が頭の中で流れてくれたらうれしい曲に思えて、泣けてしまいました…。考えてみたら、僕が青春時代に心を震わせた武満さんは、もうとっくに故人なんですよね。武満さんも、死ぬ時にそんなことを考えたのかなあ。
このCDが出たのは2006年。僕が武満さんの音楽から離れてしばらく経った頃でした。そして、このCDを僕が買ったのは2018年ごろ。80年代以降の武満作品には興味を失っていたので、安くなるまで買うのを控えていたんですよね。ところがいざ聴いてみると、素晴らしい曲と演奏が何曲か入っていて、やっぱり買ってよかったなと思いました。曲自体は素晴らしいので、これらの曲がギター音楽のスタンダードになるかどうかはプレイヤー次第。人気曲ばかりでプログラムを構成しがちな日本人ギタリストの皆さん、ぜひとも知られていないけどいい曲というのをどんどん取り上げて、いい曲をスタンダードの地位まで持ち上げてほしいです!