
1962年録音、
ジョン・コルトレーン黄金のカルテットによるバラード集です。僕が初めて手にしたジョン・コルトレーンのアルバムはこれでした。ついでに言うと、最初に手にしたジャズのアルバムのひとつでもありました。音楽誌に、「中古CD2枚と好きなCD1枚を交換」なんていう中古レコード店の広告が出ていて、それでまとめて何枚かゲットしたんですよね。のちにコルトレーンに大いにハマった僕ですが、最初に手にしたのが異色作だったという(^^;)。
このアルバムを聴いた事のある人なら、僕と同じように感じた人も多いと思うんですが、僕は
1曲目の「Say It」の最初の1小節でもうメロメロ。「ああ、なんと素晴らしいバラードに、なんていい音のする演奏なんだろう、ジャズってすごい」と思わされたのでした。
ところが、インパルス移籍後のジョン・コルトレーンといえば思いっきりジャズの闘士で、バラードどころかハード・バップですらなく、インプロヴィゼーションの鬼。モードからフリー、そして死へと向かっていく中で熱く燃え続けていた時期です。インパルスに残された膨大なコルトレーンの録音の多くが、当時のジャズ自体をけん引していたかのような、インプロヴィゼーションによる自己表出の進化過程を記録していましたが、そんな中でこのアルバムは例外的。ところが、まだジャズをまったく知らない僕は、コルトレーンの事なんてほとんど何も知らない状態で、バラードという曲想の良さがすべて詰まったようなあの「Say It」に、完全にやられたのでした。
もちろん、曲もアレンジも演奏も素晴らしかったと思いますが、本当に感動したのは録音だったのかも知れません。ドラムのブラシで軽くたたくスネアやシンバルの分厚く美しい音、マッコイ・タイナーのジャズならではのテンションを含んだ美しいピアノあたりに特に痺れたんですが、それってどちらもサウンドそのものじゃないですか。当時、僕は高いオーディオ・アンプとスピーカーを手に入れたんですが(でも部屋は狭かった^^;)、このアルバムの美しい音に唖然。体験してない人は分からないでしょうが、オーディオって良いものを揃えると、圧倒的に良い音がするんですよ!それは「これだけ素晴らしい体験をしたら、それだけでも生まれてきたかいがあったよ」と思ってしまうほどの悦楽。でもそれってオーディオや演奏が良いだけでは駄目で、録音も良くないといけないんですよね。ジャズのアルバムで、はじめてこういうオーディオ的な悦楽を思い知らされたのが、僕にとってはこのアルバムでした。バラード系では、マイルス・デイヴィスの『My Funny Valentine』も鳥肌ものだったなあ。。ちなみにこのアルバムの
録音エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダ―です。う~んさすがに名を成した人は、それだけの事をやってるんですね。
普通のジャズ・ミュージシャンなら、バラード集を出したって当然中の当然ってなものでしょうが、インパルス時代のジョン・コルトレーンとしては異色作。コルトレーンって、インパルスにはこういう異色アルバムを他にも出していて、
デューク・エリントンとのデュオもそのひとつですが、あれも背筋が凍りつくほど素晴らしかったです。どちらもレーベル側の企画だったのでしょうが、どちらも大当たりです。ただ、このアルバムが素晴らしかったせいで、僕はしばらくジョン・コルトレーンの事を「メロウな人なんだな」なんて勘違いしていたんですよね。ジャズを代表するほどの闘士だというのに(^^;)。。
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