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Category: アート・本・映画 etc. > 本(文芸・科学・哲学)   Tags: ---

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小説『闇の奥』 ジョセフ・コンラッド著、藤永茂訳

Yami no Oku_Conrad コンゴザイールの音楽を取りあげてきましたが、このへんの土地の歴史を知る上で読まないわけにはいかない小説をひとつ。「世界の英語圏諸国の大学で、教材として、20世紀で最も多く使用された文学作品」(本文まえがきより引用)という近代イギリス文学屈指の名作…というより、僕的には衝撃だった作品、『闇の奥』です。1899年発表で、欧米諸国が植民地支配を行っていた時代の小説です。小説というものの、これがほぼノンフィクションだという事が、色んな文学者の研究で分かってるみたい。

 舞台は19世紀末のベルギー領コンゴ。マーロウは、うまいこと貿易会社の蒸気船船長の座に潜り込み、意気揚々とコンゴへ向かいます。しかしコンゴはヨーロッパ人だったマーロウには想像以上の地で、奴隷政策のむごい惨状、灼熱のアフリカの厳しさに圧倒されます。現地に着くと、川を遡ったさらに奥地に赴任し、知る人皆から称賛される天才クルツの話を聞かされます。クルツは、コンゴに赴任した白人全員をあわせたより多くの象牙を奥地から送ってきますが、現地から帰ってこようとしません。マーロウはクルツの赴任先まで、蒸気船でコンゴ川をのぼっていくのですが…

 未開のジャングルの奥地に行ったきり帰ってこない怪人物を追って、地獄の様相を呈するジャングルを川で遡っていく…最初に読んだ時の僕の感想は、「なんだこれ、『地獄の黙示録』そのものじゃないか!」というものでした。しかも『地獄の黙示録』と違ってこれはほぼノンフィクションらしいし、文章の表現が強烈で生々しくて、その衝撃は『地獄の黙示録』の比ではありませんでした。「イギリス文学の名作」なんて言葉で想像するような生易しいものじゃなかったのです。
 そんな『闇の奥』ですが、僕的には3つ重要な事が書かれてると思いました。ひとつは、ベルギー領コンゴの植民地政策の惨状。ひとつは、クルツのいう異形の人物に迫る小説としての側面。もうひとつは、人が人を支配する植民地支配の資料、この3つです。

 ひとつめのベルギー領コンゴの植民地支配の惨状。実は、この小説には地名やら何やらはほとんど書いてありません。でも、後のイギリス文学研究家たちの調べで、マーロウ(これが作者コンラッドの事)が就職したのは「北部コンゴ貿易株式会社」で、遡った川はコンゴ川…な~んてことも今では分かってるそうです。で、植民地の惨状が強烈。コンゴ領に着き、森を散歩したマーロウは、捨てられた奴隷たちの地獄の光景を目にします。

「彼らはゆるりゆるりと死につつある―それはもうはっきり分かった。」彼らは敵じゃなかった。罪人たちでもない。もはや、この世のものではない―この緑がかったうす暗闇の中に雑然と横たわっている病苦と飢餓の黒い影以外の何ものでもなかった」(P.47)

「もう一方の幽霊は、あまりの疲労に打ちひしがれたかのように、その額を膝の頭に押し当てていた。そして、そのあたり全体に、同じようなのが、大虐殺か悪疫の惨状図さながらに、あらゆるポーズに体をよじ曲げた姿で、ごろごろ散らばっていた」(P.49)


 ふたつめの、クルツという人物の描写としての小説として。この小説はかなり映画的な書き方がされていて、謎めいた恐怖でも尊敬の対象でもあるようなクルツという人物がいて、彼を追って未知の森の奥へと入って行く…みたいな感じ。マーロウは、クルツの赴任地に向かう途中のコンゴ川上で、人を受け付けない未開のアフリカの自然の驚異を目の当りにします。真っ暗闇の中で鳴り続ける太鼓の音、赴任して数年もすれば次々に病に侵されて死んでいく白人。そんな中、ずば抜けた業績をあげながら、とつぜん本社に背を向けて別の赴任者との交替を拒み、人のいない死の待つ地獄の森の奥へと入って行くクルツ。ようやくマーロウがクルツの元に辿りついた時には、とつぜん闇から現地人たちのやりの奇襲を受け、またマーロウの家には生首が象徴として見せつけてあります。
 コンラッド自身は、クルツをこんなふうに結論付けています。「彼は、原始の大自然から、自由に呼吸のできる空間、どんどん分け入って行けるだけの空間の他には何ものも求めなかった。彼が求めたのは生きている事であり、できる限りの大きな危険を冒し、最大限の窮乏に耐えて、前に進む事だった。」彼の心情は分かる気がしたんですよ。詩人のランボーが、天才と言われながらフランスを捨ててアフリカに入って武器商人になり、アフリカで死にましたよね。ちょっとチープな言い方になっちゃうけど、死んでもいい、ギリギリのところを垣間見たい…そんな思いなんでしょう。
 あと、小説の最後が胸に来ます。クルツの最後の言葉は、「The horror! The horror! (地獄だ!地獄だ!)」なのですが、彼の辞世の句を聴いたマーロウは、クルツの婚約者には、「彼の口に上った最後の言葉は―あなたのお名前でした」と伝えます。婚約者はクルツを分かった気になっていますが、なぜクルツの最後の言葉が「地獄」であるのかは、伝えてもきっと理解できなかったのではないか…そんな気がしました。アウトサイダーなんですよ、クルツはきっと。

 3つめの、植民地支配の資料としての価値。この本が出た時は、まだビデオカメラがない時代なので、こういうルポが植民地支配の実態を訴える唯一の手段だったんでしょう。昔、NHKとABCが共同で作った『映像の世紀』というドキュメンタリー番組がありましたが、その中で、現地人を鎖でつないで強制労働させているリアルな植民地での強制労働の写真を見た事があります。これが人間のすることか…。そして、その地獄絵図の最たるものが、ベルギー王レオポルド二世のコンゴの私有地化で、その人類史の闇を表に出したのがこの本、というわけです。レオポルド2世は自分では一度もアフリカに行かないまま、植民地での実態は現地開拓などせずに現地人を強制労働で600万から900万の人を虐殺(本書あとがきにあった数字)した悪魔のような人間です。しかし、自分が悪魔のような所業を働いているという自覚すらなかったんじゃないでしょうか。ヒトラーのナチが虐殺したユダヤ人の数が800万なんて言われてますが、それ以上の虐殺が行われた事があまり知られていないのは、犠牲者がアフリカ人だからでしょうか。せめてもの救いは、この惨状を伝えたのがヨーロッパ人自身だった事でしょうか。

 さて、この本は何度か日本語訳されたそうですが、これは2006年の藤永茂さん訳。50年代の岩波書店の訳本を元にしつつ、誤訳を訂正し、ついでに時代背景などの詳細をまえがき、あとがき、訳注などにビッシリ。今から読むなら間違いなくこの訳本じゃないかと。ザイールのCDのところで、「モブツ大統領をいたずらに独裁者と言って批判したくない」と僕が書いたのは、ヨーロッパのこういう残虐極まる植民地支配を、アフリカ人当人が軍事クーデターによって独立させたからで、それを西側の論理「独裁国家だ」の一言で悪と信じてしまうのは、事実をちゃんと知るまでは留保しておきたい、という気持ちが僕にあるからでした。いまだに資本主義的帝国主義の続く現代に生きる僕たち現代人は、読んでおきたい本なんじゃないかと。

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Bach Bach

Author:Bach Bach
神戸住まい、奥さんとネコと暮らす音楽好きです。音大は卒業したのですが、成績はトホホ状態でした(*゚ー゚)

ずっとつきあってきたCDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。趣味で書いている程度ですが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば、大変嬉しく思います(ノ^-^)ノ

最近気になってるCDとか本とか映画とか
intoxicateに載っていた1枚。「Vyacheslav Artyomov」、ロシアの作曲家は名前が読めなくってムズカシイ。。「ヴャチェスラーフ・アルチョーモフ」と読むらしいです。伝説の「フレンニコフの7人」のひとりとの事ですが、それって何かすら僕は知らず(^^;)。作風的には初期は新古典的、後に民族的な様式、十二音技法や、複調性、ミニマルなんかも用いたみたい。ロシアの前衛は強烈なものが多いので、聴いてみたいです。アマゾンで買おうと思ったらダウンロード版しかなかった(;_;)。 オスマン時代から現代までのトルコ音楽のガイド本みたいです。おおお~、これは絶対に読もう!!
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