
実は齋藤徹さんの音楽は、2000年ごろを最後にしばらく離れていました。別に嫌いになったわけじゃないけど手に入りにくいし、離れている間にいつしか疎遠になっていた、みたいな感覚。それが最近になってまた聴くようになったのは、JazzTokyo というジャズのネットマガジンで
すごいライブがあったという記事を読み、後にその時の演奏がCD化されたと知ったから。それがこのCDで、2016年のコントラバス・ソロです。
タンゴの
ピアソラ、ショーロのピシンギーニャ、ジャズの
ミンガス、バロックの
バッハ、そしてオリジナル。ついでにコントラバス独奏というわけで、むかし聴いた
『コントラバヘアンド』とほとんど同じコンセプト。ところがこれがすごかった!15年の間にここまで遠くまで来てしまったのか、驚きました。齋藤さんは、若いころの演奏でも表現力はものすごいと思っていたんですが、リズムやピッチやアクセントといった基礎的なところがアレだな、と思ってたんです。それだって、リズムやらなにやらがしっかりしていてクソ面白くない演奏や選曲をしているクラシックの人なんかより全然素晴らしいと思ってたんですけど、でもこれは…いやあ、
背筋が凍りつく感触、神がかった演奏に震えてしまいました。
楽器演奏というのはこうやって一生をかけて磨き上げていくものなんだな、と思わされました。本当にすごかった。
リズムやピッチがアレだけど、表現力や超絶技巧が爆発的にすごい人だから、齋藤さんはフリージャズみたいなのが合うんだろうな、なんて思ってた時期があります。でも、そのフリージャズだってこういうバッハとか他の音楽なんかを丹念に探求しつづけたからインチキくさいデタラメなフリージャズにならなかったわけですよね。コントラバス奏者なら、コントラバスに物を挟んでのプリペアド・ベースとか、弓を2本同時に使っての演奏とか、いろんな超絶技巧の教科書にもなりそう。でもそんな事は僕にはどうでも良くて、演奏者が楽器と一体化したようなこの演奏はすごかった。でも、このCDの内側に集合写真がレイアウトされてたんですが、あのどっしりした体格だった齋藤さんの顔がげっそりやせ細っている…この時にはもうガンだったんじゃないでしょうか。もしかすると、音楽家としての自分の人生を総括するつもりで、このCDを作ったんじゃないかという気すらしました。これは、
楽器の演奏表現というものがどれほどのものなのかをガツンと教えてくれたような、すごい演奏でした。とにかく入手しにくい1枚ですが、こういう演奏を聴いたことのない人だったら吹っ飛ばされること間違いなし、大推薦です。
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