
ストラヴィンスキーと言えば「
火の鳥」や「
春の祭典」という、彼のキャリア前半で発表された作品が有名だと思うのですが、それに並んで大好きなのが、ストラヴィンスキー晩年の作品です。で、中でも一番好きなのが「FLOOD(洪水)」という劇音楽。
変な話なのですが、「春の祭典」はあまりに好きすぎて、聴きまくっていたものだから、何がそんなに良かったのかが分からなくなってるのです(^^;)。で、ストラヴィンスキーに夢中になっている頃に、どんな作品かも良く分からず買ったのが、このCDでした。中古で安く手に入ったんですよ。予備校の真ん前にある中古レコード屋さん。ある時、懐かしさのあまり寄ってみたら、無くなってました。で、買った当初は、この音楽の良さは良く分かりませんでした。が…
「春の祭典」とか「火の鳥」は、けっこう強引に良い音楽にしてる曲だと思うんです。複雑なリズムをガンガン出して、無理やり振り向かせてるというか(^^;)。それがまたカッコいいから手におえないんですが、でもなんか騙されてる気になるんです。それに比べると、「洪水」という作品は、まさにプロの作曲家が書いた作品!という感じで、もう批判のしようがない完成度を感じるのです。精巧極まる、非の打ちどころのない作品という感じ。晩年のストラヴィンスキーというと、「火の鳥」とかの頃とは違って、もうセリー音楽に手を出しています。セリーではあるんですが、ストラヴィンスキー的なダイナミクスが残った音楽になるという所が面白いです。セリー音楽というと、僕が真っ先に思い浮かべるのはヴェーベルンや
ブレーズの曲なんですが、あの幾何学的な手触りは残しながらも、ストラヴィンスキーのセリー曲はもっと音楽的というか…説明不能、とにかく素晴らしいのです(これじゃレビューになりませんね^^;)!!
さらにこの作品、題材も面白いです。タイトルからも想像がつくように、旧約聖書の世界です。聖書の世界って、若い頃は宗教がらみというだけで毛嫌いしていたんですが、物語としても面白いです。特に面白いのが、旧約聖書と黙示文書。非常に暗示的な内容でもあり、芥川賞とか直木賞の小説なんかとは比較にならない面白さです。これがセリー音楽のあの質感の中で、しかも実に見事な構造美の中で進行していって…いやあ、こんなに素晴らしい作品には、なかなか出会うことが出来ないんじゃないかと思います。結局、クラシック音楽というのは人気商売なので、実はポピュラー音楽と同じぐらいに人気のあるなしが重要になってしまう宿命の音楽だと思うのですが、純粋に音楽的な完成度でいえば、「洪水」は人気こそ劣るものの、その完成度は「火の鳥」や「春の祭典」を遥かに上回る
ストラヴィンスキー最高の傑作と僕は信じて疑いません。そうそう、このCDには他に「アブラハムとイサク」(これも聖書ですよね)、「管弦楽のための変奏曲」、
「レクイエム・カンティクルス」(これがまた素晴らしい!現代曲に合唱というだけでゾッとする素晴らしさですが、更にアルトとバスで詩が朗誦されるのですが、ダビデとかが出てくるので、これも旧約の世界ではないかと)なんかも入っています。
そうそう、このCDですが、録音も物凄くいいです。そういう意味では、この作曲作というだけでなく、演奏や録音を含めたこのCD自体が大傑作なんじゃないかと。あと、物語がとても面白いので、日本語訳のついている日本盤を購入する事をおススメします!これ、テキストは聖書からそのまま取ったのか、聖書をもとに新たに書いたのか、ちょっと僕には分かりませんが、英語じゃない部分があるので、輸入盤を買ってしまうと何言っているのか訳わからないと思います。。
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