『Bill Evans / Portrait in Jazz』

BillEvans_Portrait.jpg ジャケット写真だけでも有名すぎるぐらいに有名なジャズのレコードです。ビル・エヴァンスのピアノ・トリオです。で、ジャズファンの人に言わせると「3者のインタープレイが凄い」「ピアノの音がもの凄く綺麗」「斬新なアプローチだ」…な~んて、美辞麗句がこれでもかとばかりに続きます。このレコードを批判でもしようものなら、袋叩きにあいそうなぐらいの勢いです。この美辞麗句は、ジャズファンだけじゃなくって、ジャズ評論家も、ビル・エヴァンス・トリオの演奏を褒める時に良く使われています。
 で、僕にはこれらの褒め言葉が到底信じられないのです。せっかくの素晴らしい肉料理があるのに、「この魚は実にうまいですね!これが分からないなんて素人ですね!」みたいな感じで、まったく見当違いのところが褒められているような気分。僕はまず、この美辞麗句を批判するところから始めたいです。

 まず、「3者のインタープレイが凄い」ですが…まあ、ジャズのトリオというのは、一定水準以上の1流どころになったら、どのグループだってこのぐらいのインタープレイは普通だと思います。評論家が、エヴァンスのトリオというとやたらと「インタープレイが~」というものだから、聴いている方もそう言えば通っぽく聞こえるから、そういっているだけなのでは?と思ってしまいます。
 次に「ピアノの音がもの凄く綺麗」。スコット・ラファロというベーシストの参加したビル・エヴァンスのトリオの録音は、リバーサイドというレーベルから発表されたものが大半だと思います。本作もそうです。で、リバーサイドから発表されたビル・エヴァンスのレコードを僕はかなり大量に聴いているのですが、ピアノの状態にしても、録音の状態にしても、グッド・コンディションのものを僕は聴いたことがありません。エヴァンスがタッチを変化させているように思えるところも、全部音が潰れて、正直のところ聴けたものではありません。更に、ビル・エヴァンス自体のピアノのタッチも…別に格別とは到底思えないんですよね。音色表現としては、色々な音をピアノから出すのはあまり得意な人ではないというか、むしろ下手な人だと思います。つまり…どこをとっても、ピアノの音は悪いんですよ。
 最後の「斬新なアプローチだ」。いやあ、これはジャズ・ピアノの歴史から穿り返さないと何とも言えないのですが…これって、ジャズの王道中の王道のアプローチではないでしょうか?ただし、ビル・エヴァンス以前のジャズ・ピアノの歴史というものを、僕はあまりよく知りません。例えば、アッパー・ストラクチュアのようなアプローチがビル・エヴァンス辺りから始まったのだとすれば、それ以前のジャズ・ピアノとの比較の上で斬新、という事はあるかもしれません。しかし、現時点の評価で「斬新」はありえないと思うのです。

 さて、さんざん文句みたいな事ばかり書いてきましたが、しかしぼくはこのアルバムを何十回と聴きました。理由は、ジャズ・ピアノの勉強のため。このアルバム、"Come Rain or Come Shine"とか"Autumn Leaves"とか、ジャズのスタンダードばかりを取りあげています。いわば、ビル・エヴァンス版のスタンダード集。で、和声アプローチがモダンなのです。エヴァンス以前のジャズ・ピアニストというのを僕は詳しく知らないんですが、例えばケニー・ドリューとかレッド・ガーラントなんかの50年代録音でいえば、和声はせいぜいテンションまで、メロディは片手でスケールと5度のオルタード、そしてツーファイブのストックフレーズ、みたいな感じです。しかし、ビル・エヴァンス以降となると、和声上の技法が一気に増えて、和声面からの曲の構成方法まで変わってしまいます。で、それは現在まで続いているという。で、ビル・エヴァンスのピアノは、これが実にオーソドックスというか、分かり易くアプローチしてくるので、凄く勉強になるからなのでした。ジャズ・ファンの人がこのアルバムを愛聴しているのは、評論家の弁に惑わされた「インタープレイが~」ではないんじゃないかと。また「斬新な」というのは、適当な麗句を挙げただけなんじゃないかと。で、「音が綺麗」は、音が綺麗なんじゃなくって、和声が綺麗と感じているんじゃないかと。きっと「よく分からないけど、この音楽が気持ちいいと僕は思うんです!」でいいんじゃないかと思うんですよ。分かってもいないクセに能書きばかりを垂れ流し、しかもそれが間違っているというクズみたいな日本のジャズ評論家の真似なんかしなくていいと思うんです。ジャズのリクツが分からなければジャズは聴いてはいけないとか、そういう事は全然ないと思うんです。でも、ジャズのリクツが分からないのに分かったような物言いを評論家やリスナーが押しなべてするというのは、日本の「聴く」ジャズ文化の悪い風習だと思えて仕方がないんです。分からないのであれば、知ったような理屈をこねくり回すよりも、「ジャズ・ピアノが現代的な響きを持つようになった最初期の録音、ビル・エヴァンスが精魂込めて弾き切ったスタンダード集」というだけで、この素晴らしいアルバムへの賛辞は十分じゃないでしょうか。

 最後に、好き過ぎて、死ぬほど聴きまくった曲がひとつ。アルバムの最後に入っている"Blue in Green"です。これは過去の記事に書いたマイルス・デイヴィスの"カインド・オブ・ブルー"で決定的名演を聴くことが出来ますが、ピアノのアプローチとしてはこちらの演奏も聴き入ってしまいます。パッと聴きの印象としてはメロウなのですが、よく聴くと、もの凄い弾いているんですよね。メロディラインでも、あまり1本にすることはなくって、和音まで行かなくても復音にはしていたり、とか。こういうサウンドに対する気配りというのは、いやあ、美しいです。また、この曲はジャズである事に加えてモードでもあるので、しかも10小節でひと回りという変な構造でもあるので、始まりも終わりも分かりにくくて、えらく単調になってもおかしくないと思うのですが、そこらじゅうにちりばめられている様々なアイデアが活きていて、ものすごく良く構成された演奏になっています。良く出来たとか、そんなものではなく、正直のところ尊敬し、そして感動してしまいました。ジャズというのは、ポピュラー音楽と同じようにコーラス形式になるので、同じコード進行を何度も繰り返すことになります。で、モダンジャズとなると、この範囲の中でアドリブソロをとり続けるわけですが、同じ構造をぐるぐる回っているだけなので、原理的には起伏のないソロの垂れ流しになってしまう可能性があります。実際、プロの演奏を聴いていても、そういう演奏は少なくありません。しかし、ビル・エヴァンスの演奏というのは、この処理が実に見事で、同じコードをぐるぐる回っているとは到底思えないぐらいに、演奏に起承転結が生まれるのです。これは言葉では言い尽くせないというか、間違いなく楽曲をデザインするイメージを作ってから演奏に挑んだしか思えないです。途中で、和声を半音進行するようにリハーモニゼーションし直して、同じモチーフがずれるように移動していくクライマックスの作り方など、これはアドリブというにはあまりに作曲的。絶対に「その時に感じたインスピレーションに従って思うがままに演奏する」とう演奏ではなく、もの凄い理性的なものを感じます。演奏時間は5分程度と短いのですが、この5分の演奏の組み立て方、その背景にあるものの深さと言ったら、並大抵ではありません。最初に聴いた時には普通のジャズに思えたのですが、聴けば聴くほど…いやあ、この"Blue in Green"は、ものすごい。。



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Author:Bach Bach
神戸住まい、奥さんとネコと暮らす音楽好きです(ノ^-^)ノ
音大は卒業したのですが、成績はトホホ状態でした(*゚ー゚)

ずっとつきあってきたCDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。
プロでも評論家でもありませんので、たいした事は書けないかも知れませんが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば、大変嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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 今月号のintoxicateに載っていた1枚。「Vyacheslav Artyomov」、ロシアの作曲家は名前が読めなくってムズカシイ。。「ヴャチェスラーフ・アルチョーモフ」と読むらしいです。伝説の「フレンニコフの7人」のひとりとの事ですが、それって何かすら僕は知らず(^^;)。作風的には初期は新古典的、後に民族的な様式、十二音技法や、複調性、ミニマルなんかも用いたみたい。ロシアの前衛は強烈なものが多いので、聴いてみたいです。アマゾンで買おうと思ったらダウンロード版しかなかった(;_;)。 少し前に取りあげたエリザベス・コットンですが、ライブ盤なんてあるのか?!これは聴きたい… オスマン時代から現代までのトルコ音楽のガイド本みたいです。おおお~、これは絶対に読もう!! レコ芸に載っていた近藤譲さんの新譜、室内楽作品集みたい。好きな作曲家なんで聴きたいんですが、持っている2枚のALM盤と4曲かぶってるので悩み中…
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