さて、先に文句を言ってしまいましたが(^^;)、でもぼくはこのアルバムを何十回と聴きました。理由は、ジャズ・ピアノの勉強のため。このアルバム、"Come Rain or Come Shine"とか"Autumn Leaves"とか、ジャズのスタンダードばかりを取りあげてて、いわばビル・エヴァンス版のスタンダード集。で、和声やプログレッションのアプローチがモダンなのです。今、このまま演奏しても通じちゃうんじゃないかなあ。エヴァンス以前のジャズ・ピアニストでいえば、例えばケニー・ドリューとかレッド・ガーラントなんかの50年代録音でいえば、和声はせいぜいテンションまで、メロディは片手でスケールと5度のオルタード、みたいな感じです。でもビル・エヴァンスとなると、和声上の技法が一気に増えるどころか、和声面からの曲の構成方法まで変わってしまいます。ジャズ・ファンの人がこのアルバムを愛聴している「音が綺麗」は、音が綺麗なんじゃなくって、和音やプログレッションの色彩感覚が綺麗と感じているんじゃないかと。
最後に、好き過ぎて、死ぬほど聴きまくった曲がひとつ。アルバムの最後に入っている"Blue in Green"、これは前に書いたマイルス・デイヴィスの"カインド・オブ・ブルー"で決定的名演を聴くことが出来ますが、ピアノのアプローチとしてはこちらの演奏も素晴らしい!パッと聴きの印象としてはメロウなのですが、よく聴くと、もの凄い弾いているんですよね。メロディラインでも、あまり1本にすることはなくって、和音まで行かなくても重音にはしていたり。こういう気配りされたサウンドが美しい(^^)。また、この曲はジャズである事に加えてモードでもあるので、しかも10小節でひと回りという変な構造でもあるので、始まりも終わりも分かりにくくて、えらく単調になってもおかしくないと思うのですが、ビル・エバンスはスタートから盛り上げていって山を作って美しく閉じる…という、クラシックのようなドラマを見事に作ります。「その時に感じたインスピレーションに従って思うがままに演奏する」という演奏ではなく、もの凄い理性的なものを感じます。演奏時間は5分程度ですが、この5分の演奏の組み立て方、その背景にあるものの深さと言ったら、並大抵ではありません。最初に聴いた時には普通のジャズに思えたのですが、聴けば聴くほど…いやあ、この"Blue in Green"は、ものすごい。。