アート・アンサンブル・オブ・シカゴでいちばん有名な作品じゃないでしょうか。4枚目のアルバムで邦題は『苦悩の人々』、1969年発表です!
これは素晴らしかった、このアルバムでAEOCはブレイクスルーしたんじゃないかと!
アルバムAB面を通じて1曲。傾向としてはドッカンバッカンいかずにアンサンブルや構造を大事にしていて、内省的な所からはじまり、展開部もあり、緩徐パートもあり、緩やかな盛り上がりもある見事な音楽でした。
内省的なところは、最初、レコードを再生しても音がなかなか出てこないので、「あれ?ヴォリューム下げたままだったかな?」と思ったほど。徐々にグロッケンの音が聴こえてきて、コントラバスのソロが聴こえ、打楽器の音が聴こえ、4~5分たった頃になった所でトランペットとフルートの2本がテーマを奏でます。このテーマが独特の物悲しさがある上に、これまでのAEOCと違ってユニゾンやトゥッティではなく綺麗なアンサンブル。オープンパートも、「はい、ここからフリー」というのではなく、それまでに作ってきたムードやテーマを生かして発展させていました。ようやくアンサンブルに入るのはA面の最後からで、以降は盛り上がりがあり、あやしいリード楽器での緩徐楽章みたいのが挟まって、
全体の構造が見事。フリージャズにありがちな力押しでなんとかしようとする無駄なパートがありません。アルバム1枚切れることなくつながる音楽なのに、ずっと惹きつけられっぱなしでした。これ、テーマだけでなく明らかに調や構造を先に作ってますが、それをフリージャズと呼ぶのはもったいない。アメリカン・ソングフォーム内で同じプログレッションを何度か繰り返してオシマイという普通のジャズとは違って、構造が完全に芸術音楽でした。いやあ、これは素晴らしい。。
メンバー自身もこのアルバムでついに自分たちの音楽を掴んだ感触があったんじゃないでしょうか。意味深な音楽の構成と表現がついに一致した、みたいな。プレイも、「やってる事はいいけど楽器がコントロールできてないな」と思う所がなくなって、音楽に技術が追いついた感じ。特にトランペットのレスター・ボウイがめっちゃくちゃいい。ここがAEOCのブレイクスルーだったんじゃないかと。
ところでこれも69年発表、僕はアート・アンサンブル・オブ・シカゴが大好きで、中古レコード屋で彼らのレコードを見かけるとせっせと買って聴きまくっていたもんで、AEOCのレコードをけっこう持ってるんですが、自分がデビューから4枚目まで全部持っていたとは知りませんでした。しかも、これら4枚のレコードがぜんぶ1969年に出ているという事にビックリ。狙ったわけじゃないんですが、面白そうに思った作品は初期に集中していたわけですね。そして69年の録音を聴くと、AEOCはデビューから1年で一気に音楽的に進化していったのが分かりました。シカゴで食い詰めてフランスに渡って活路を見出したそうですが、フランスに行って成功したいちばんのフリージャズのグループだったんじゃないでしょうか。
フリージャズと呼ぶのがもったいないぐらいのジャズの中での数少ない大楽節を持つ音楽、間違いなく名盤だと思います!
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