ルネサンス音楽からバロックへの移行期の作曲家の代表といえば、間違いなくモンテヴェルディ。
バッハはすごいと思うんですが、学者肌というか秀才型に感じるんですよね。でも16~17世紀にかけて活躍した
モンテヴェルディは天才的!
オルフェオは、オペラが始まったころの代表的作曲家として名を馳せたモンテヴェルディの有名なオペラで、
モンテヴェルディの書いたオペラ最初期のもの(スコアがフルで現存しているものでは一番古い)、音楽史の中でも重要作と言われてます。なんてったって、最初期の作品なのに今でもたびたび上演されてるのがすごい。
「最初」という歴史的な価値だけでなく、音楽自体が素晴らしいのです(^^)。
このオペラは神話をモチーフにしたもので、アポロの息子で音楽の名手オルフェオが主人公です。森も動物も音楽で癒すオルフェオですが、妻エウリディーチェが蛇に噛まれて死に、
オルフェオは冥府世界に彼女を迎えに行きます。しかし彼女を連れ戻すには条件があって、絶対に振り向いてはいけない…有名な話ですよね、僕は子どもの頃にこの話を大場久美子主演「コメットさん」の見た記憶が(^^)。僕がオペラ作家なら、エウリディーチェは「なに振り返ってんだこのボケェ!!生き返れなくなったじぇねえか!!」と怒り狂うセリフにしますが、そこはさすが400年以上も上演され続けている名作オペラ、エウリディーチェは怒るのではなく悲愴感ただようメロディに乗せて「ああ、私の夫であるひとよ」と嘆くのです。。
このCDだと、アポロがオルフェオを天上に召すエンディングになってますが、
初演時の結末はバッカスの巫女たちがオルフェオを八つ裂きにして饗宴を繰り広げるというものだったんだそうで…ギリシャ神話恐るべし。付属している解説を読むと「オルフェオ」には第5幕があるっぽいんですが、インデックスには第5幕はないです。でも、物語は第4幕でオルフェオが天に召されて終わってるっぽいし、どうなってるんだろ。
音楽は…パッと聴きの印象だけをいうなら、ルネサンスとバロックの中間どころか、ルネサンス&バロック&古典派のチャンポンで、バッハやハイドンが登場する向こう200年ほどの新しいスタイルの音楽が、いきなり完成しちゃってる感じ、これは天才の音楽なんじゃないかい?なんでルネサンス&バロック&古典派と感じるかというと…まず、ルネサンス音楽的な対位法的なポリフォニー感が薄れていること。技法的にもうルネサンスじゃない…のですが、楽器の使い方はルネサンスっぽいので、音色的にルネサンス音楽の色がのこってる感じ。
技法はモノディーです。モノディーというのは、旋律&伴奏的和音という様式の事で、このうち伴奏的和音は、この時代は
通奏低音(コンティヌオ、またはゲネラルバス)という書法が取られていて、低声部の旋律を低弦楽器が演奏して、その上に数字で示された和音を鍵盤楽器がつけられます。このCDの場合、チェンバロやオルガンが和音を鳴らしてるのですが、これがメッチャ古風でカッコいい。この通奏低音という技法はバロック音楽の特徴のひとつなので、バロックも感じる、というわけです。古典派を感じるのは、ハイドンやモーツァルトを通り越して
後期ベートーヴェンのような不完全協和音や不協和音が思いっきり有効活用されてるのです。美的に完璧なルネサンス音楽にこういうのは少ないし、バロックになると逆にこういう所をどんどん整除していくので、古典派後期か?!って感じるのかも。この時代に不協和音程を使いこなすって、モンテヴェルディという人はかなりサイケな人だったんじゃないかと(^^)。
通奏低音を用いた音楽って、いってみれば今のポップスのコード譜みたいなもので、略号を用いて和声を示してあり、演奏によってかなり変わってきます。リアリゼーションの時にメジャーとマイナーすら入れ替わるので、そのバラつきは今のメロコード譜以上かも。400年後にジャズの録音を聴いた人が、そのスコアを見て24小節ほどのメロディとコードネームだけが書いてあるものだったら驚くでしょうね。でも、オルフェオのスコアはジャズのリードシートどころじゃなくて、
マジでこれだけの楽譜からこの演奏を作りだしたのかと驚いてしまいました。ピケットとニュー・ロンドン・コンソート、すげえ。。ピケット指揮のこのオルフェオですが、録音も演奏もすごく綺麗なのに、印象がけっこうダークです。ライナーを読むと…「この時代の音楽を演奏する際に短和音が使われ過ぎだ」時代があって、それを反省して今度は長和音ばかり使われる演奏が増え、そしてピケットはスコアと内容を吟味して、またマイナーコードを増やしたみたい。それを総譜で調べようと思ったら…こんなの読めねええええ!!!
そして通奏低音を随所に活用して作られた「オルフェオ」ですが、もういきなり完成形、すげえ。通奏低音って、モンテヴェルディが編み出したんでしょうか。仮にそうだとしたら、徐々に技法が移行していったんじゃなくて、初期作品にしていきなり前の時代の音楽と断絶してガラッと書法を変えたことになります、しかも新しい書法が初期作にして完璧。う~ん天才的だ。モンテヴェルディの音楽を聴いた事がない人は、彼の音楽に似たものを体験した事が無いはず。それぐらい独創性な唯一無比の音楽だと感じました。
そして、CD2枚にビッチリ入った壮大なこのオペラの構造が、とっても面白かったです。最初がトッカータ、最後がモレスカ(ルネサンス期にあったダンスで、仮面をつけて脚に鈴をつけてエキゾチックに踊る)。これを除いたら、後のオペラでいうところのアリアやレチタティーヴォや合唱といった歌部分以外に、繰り返し出てくる
リトルネッロ(何度も出てくる主題)、そして
シンフォニア(器楽合奏部分)、こういうものを使って全体の形を整えていました。お~なるほど、オペラの中のリトルネッロって、こうやって使うんだな(^^)。頻繁に出てくるけど、出てくるたびに調やリズムが変わるので飽きることなく、それでいて統一感が出て良かったです。このおかげで、物語なんですが、一直線に進んでいくというよりも、全体が巨大な建造物のように感じました。、
このCD、演奏も録音も素晴らしいです。ロマン派以前の音楽って、劇場作品であっても巨大編成ではないので、楽器のバランスがいいものが多いのかな…。そして
このCD、指揮をしているフィリップ・ピケット本人が書いた解説書がすごくて108ページ!単にオペラの日本語訳がついてるだけじゃなくて、初演時のいきさつ、リトルネッロの解説、「オルフェオ」での通奏低音の和声解題、通奏低音の楽器配置(!)まで、ものすごく細かくこの曲や当時の音楽についての解説が入ってます。読んでて「う~んなるほど…」な~んて感心しきりで夢中になって読んでいたら、解説を読むだけで3日もかかってしまいました(^^;)。
そのへんにある古楽関連の本の10倍は詳しいです。あ、そうそう、ピケットという人は、
デヴィッド・マンロウの弟子筋だそうです。バロック以前にも数えられるモンテヴェルディぐらいの古さの作曲家の音楽って、なかなか情報が少ないので、この解説はメッチャありがたかった!!というわけで、買うならメッチャ素晴らしい解説書のついた日本盤がオススメです!
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