
ひとつ前の記事で書いたアマリア・ロドリゲスと印象がダブるのが、シャンソンの代表的歌手のひとりである、エディット・ピアフです。僕にとっては、もうこの辺りは西洋の歌音楽を個別に分割する意味があまりなくって、「20世紀初頭のヨーロッパの歌音楽」という感じで括りをつけています(^^)。
で、ファドのアマリア・ロドリゲスとダブるというのは、その声とか歌い回しとかに滲み出ている、独特のやさぐれた感じなんだと思います。貧しい家庭に育った不良少女的な匂い。しかし、そこはパリ、ポルトガルという場末の斜陽な街ではなく、ヨーロッパの中心といってもいい街です。しかも、色んな国から色んな人が来る、文化の交錯する街。ポピュラー楽団も、結構あったみたいです。そんなわけで、エディット・ピアフの方が、プロ楽団お抱えの歌姫といった感じ。だから、音楽そのものはファドよりもジャズに近い感じです。オケもストリングスが入っていたりで、実に豪華です。で、オリジナルは録音がとにかく古いので、弦楽器の音が古くさいったらないんですが、しかしそれが実にいい!!シャンソン、って感じがするんですよね。で、誰もがそうだと思うんですが、「ラヴィアンローズ」とか「愛の賛歌」なんて、本当に大名曲、大名演、大名唱だと思います。「愛の賛歌」なんて、あのストリングスのイントロ、それが落ちてエディット・ピアフ独特のヴィブラートの利いた歌が始まる瞬間…聴いていて、素晴らしいと思ってしまいます。
第1次世界大戦が始まる直前までは、ヨーロッパでは大きな戦争はなく、市民も裕福で、永遠に続くのではないかという「ヨーロッパ・コンセンサス」と呼ばれる時代があったそうです。しかし、それは植民地主義という犠牲の上に成り立っている偽りの平和で、ヨーロッパはやがて1次大戦から2次大戦という地獄を味わう事になります。この本当の悪役が誰であったかはさておいて、そこに生きている市民というのは、本当に辛い時期を過ごしたのではないかと思うのです。それは歌にも反映されていて、同じフランスにあるミュゼットという音楽も、とても明るい音楽とは言えない。で、こうした背景の上で、貧困層の不良少女から上り詰めた歌い手であるエディット・ピアフという人の歌う「愛の賛歌」を聴くと…もう、ジ~ンと来ちゃうんです。
このCDは日本編集のベスト盤。現在デザインで生計を立てている身としては、こんなにダサいジャケットデザインでいいのか?と思ってしまいますが、しかし音楽の特性上、日本語訳のついたCDを手に入れる事をおススメします。昔は、これぐらいしかなかったんですよ。今ならあるのかなあ。輸入物の安い10枚組セットとかも悪くないんですが、日本語訳がないとフランス語が分からん!という点と、大事な曲が収録されてなかったりもするので、この手のベスト盤を買うときは、ちょっと慎重に選んだ方がいいと思います。このCDは、ジャケットのダサさにさえ目をつぶれば、あとはパーフェクトではないかと。
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