1970年代のフランスで、音響のスペクトルに注目した作曲を始めた人々がいて、彼らは
スペクトル楽派 なんて呼ばれています。
その嚆矢になったのがジェラール・グリゼー で、これはその
代表作「音響空間 Les espaces acoustiques」 全6曲を収録した2枚組CDです。好き嫌いに関わらず、フランス現代音楽を専攻していたのにこれを聴かないのはまずいと思って手を出したCDでした。リリースされたのは、もう現音の作曲をとっくにあきらめた後だったんですけどね(^^;)。演奏は、ガース・ノックス(viola)、ASKOアンサンブル、4曲目以降の大オーケストラ部分はケルン放送交響楽団。2000~2001年録音です。
この作品は、
6曲すべてがミの倍音を元に作っている そうです。昔、音響工学の本で読んだ程度の知識しかないんですが、音のスペクトル解析って、基本は倍音列のはずですが、どの倍音が優勢かで三角波とか矩形波とかいろいろ変わってきますよね?それをフーリエ展開していくと、すべて正弦波の合成に出来るんじゃなかったでしたっけ?うろ覚えだ(^^;)。まあそれはともかく、倍音列をベースに作ったらけっこう調性力の強いものになりそうなものですが、古典派やロマン派のような耳慣れた三和音な響きにはならないものの、セリー音楽のような複雑さには至らずに、どこかで音が見事に溶け合っている感じ。でも、スペクトル解析したら純正律に近づくと思うんですが、それを普通の管弦楽器用のスコアにするというのはどういうからくりなんだろう…興味は尽きることがありません(^^)。それでも、同じスペクトル楽派でもミュライユの音楽はさらに聴きやすかったりするので、このへんは
スペクトル解析どうこうだけじゃなくて、取り出した音をどう構成するかという作曲家の個性がかなりありそう だと感じました。
でもって、この6曲は、徐々に楽器編成が大きくなっていきます。1曲目はヴィオラ独奏だったものが(実は、1曲目の時点では退屈に感じてしまった^^;)、切れ目なくつながる2曲目「Periodes」では管弦合わせた7人のアンサンブル。このへんからかなり面白くなっていって、3曲目では18人、4曲目では33人、5曲目では大オーケストラ、終曲では4人の独奏者と大オーケストラ。
まったくの僕の勝手な誤解だったんですが、「スペクトル楽派」というぐらいだから、電気的に音響スペクトルを解析して…みたいな感じでなので、電子音楽家と思ってたんですよ。でもスペクトル楽派の作品って、純然たる器楽音楽もいっぱいあるんですよね。なにせ、スペクトル楽派の先駆者グリゼーの代表作のこの作品も、グリゼーと並ぶスペクトル楽派の巨人ミュライユの代表作「ゴンドワナ」も、生楽器による演奏です。そんでもって、戦後からの現代音楽というと難解なイメージもあると思うんですが、これは聴き手に合わせて分かりやすく作ったわけではなさそうですが、しかしものすごく把握しやすいというか、素晴らしい音楽だと思いました。3曲目なんてカッコよすぎて必聴ですが、コンバスがミ音を連打しながら、上に音がドバっと重なっていき、さらに同じ音型を木管がそれぞれに吹き鳴らして、ここまで来るとスペクトル解析なんて言うのは要素の抽出部分と全体を統一するものとして使っているだけで、作曲部分は完全に自由作曲だろうとしか思えず、カッコいいとしか言いようがないっす。
たぶん、純粋な倍音だけでなく、いろんな堆積音を使っているのだと思いますが(弦楽隊が揃ってグリッサンドしている所まである!)、これはクラシック界のサイケ系プログレだと思ってしまいました(そんな安直な感想でいいのか)。。これはクラシックファンというより、フリージャズとかサイケロックあたりのファンの方が食いつきがいいかも。スペクトル楽派を代表する傑作は、実際に素晴らしい作品でした、おすすめ!!
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