グリゼー と並ぶスペクトル楽派を代表する作曲家が、トリスタン・ミュライユさんです。このCDは、ミュライユの初期代表作「ゴンドワナ」のほか2曲を含んでいるので、ミュライユを聴くならまずはこの1枚じゃないかと。
スペクトル楽派とか電子音楽とか現代音楽というのは、なぜそういう作品を作曲したかという制作背景が重要になるところがありますが、そういうのを知らずに聴いたとしても見事な音楽でした。ものすごく静かなところに正弦波がピーッと鳴るだけの音楽とか、そういう理念ばかり先行したような音楽はひとつもなく、どの瞬間も見事にサウンドして音楽が展開していって、いくつかの山場を迎えていく構造で、伝統的な西洋音楽の美感の上に成立している音楽と感じました。電子音楽とかスペクトル楽派とか関係なしに、音楽として素晴らしかったです。というわけで、最初は予備知識や先入観なしで聴いた方が、この音楽の価値をダイレクトに楽しめそう。こうした感想を前提に、一応曲の背景などを備忘録として書いてみると…
「ゴンドワナ gondwana」 (1980)は、オーケストラのための曲で、ダルムシュタット市のコミッションで製作されたもの。演奏はフランス国立交響楽団。現代音楽ではかなり有名な曲で、ミュライユさんの初期代表作なんて言われています。冒頭部分は鐘の音をスペクトル解析して作っているそうです。でもって、曲全体は、このCDのライナーによると、地球が乾いた土地だったところから、今のような状態にされていった様を映し出しているんだそうです。なるほど、だから劇的な展開を音楽の中に感じるんだな…。
「崩壊 Désintégrations」 (1982-3)は、IRCAMの委嘱による作品で、アンサンブル・イティネレール演奏による17人13の生楽器と電子音による作品。この曲はミュライユさんにとって初の楽器と電子音のミックスとなった曲だそうです。生楽器や電子音そのものもありましたが、中盤のグロッケンあたりは生音の演奏のほかに、その音を変調した電子音もあるように聴こえました。あと、「情報理論をもとに作曲」したそうですが、純粋にきちんとアンサンブルの勉強もしてると思うなあ。。
ちなみに、
アンサンブル・イティネレールは、ミュライユやグリゼーと言った当時の先鋭的な作曲家たちが、既成のアンサンブルでは演奏しきれなくなった新しい音楽を演奏するために作ったグループ だそうです。
「time and again」 (1986)はオーケストラ作品。このCD ではボン・ベートーヴェンホール交響楽団の演奏ですが、元々はバーミンガム市交響楽団の委嘱で書かれた曲だそうです。何も書いてないけどモジュレーターのような音が冒頭から入っているので、実質的には生楽器と電子音楽の中間ぐらいかも。ミュライユはセリーに否定的だと聞いたことがありますが、この曲を聴くと本当にそうなのかと疑ってしまいました…って、伝統的ともいえるほどしっかりした構造を感じつつ、それがどういう法則に則っているのか分からないから、というだけなんですけどね(^^;)。それにしてもこれは刺激的でありつつもけっこう聴きやすい音楽でした。
グリゼーの「音響空間」もそうでしたが、「スペクトル楽派」なんていうと、なんか無機質でピコピコ言ってそうな音楽とか、頭の中だけでこねくり回したような音楽かと思いきや、伝統的な西洋音楽の延長で音楽を作っているように感じられて、作曲部分は比較的理解しやすく、また素晴らしく感じました。でも僕は現代音楽系の電子音はあまり好きじゃないみたい。ノイズ系やロック系の電子音は説得力があって好きなんですけど、現代音楽系は音がチープというか、美しくもヤバくもないんですよね…。
1980年代の現代音楽の代表的な作品のひとつ の代表的な録音ですが、一般の音楽ファンはあまり聴かないらしく、CDはアマゾンで2万円クラス!!こと音楽に関しては、資本主義がいい事なのかはちょっと疑問ですね。すごくよく出来た作品だと思うんですけど、聴く人がいないと歴史のかなたに消えていってしまうというのがね…。
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