ワーグナーといえば「ワルキューレ」をはじめとした指輪4部作が有名ですが、個人的には『トリスタンとイゾルデ』と『パルジファル』が傑作なのだと思ってます。そんなわけで、トリスタンは「クラシックは同じ曲の録音をあれこれ聴かない」という自分に課した禁忌を破って、色々と買ってしまった若い頃でした(^^)。これは、1966年ベーム&バイロイト祝祭管弦楽団による『トリスタンとイゾルデ』で、ライブ録音。僕が持っているCDは日本盤の1998年にリリースされたもので、
なんと解説書が全訳を含む156ページ!しかも、動機まで楽譜付きで解説されてます。買うなら絶対に廉価版じゃない日本盤だー!! この録音は、1960年の
ショルティ&ウィーンフィル、1971~2年録音の
カラヤン&ベルリンフィルのちょうど中間。
ベーム&バイロイトによるバイロイト音楽祭でのトリスタン上演は1962年から始まってまして、伝説的公演といわれてます。たぶん、
ヴィーラント・ワーグナー(リヒャルト・ワーグナーの孫)の演出が斬新だったことが一番の理由で、超時代的にするためにセットを簡素化、歌手の身振りも減らしました。こういう演出をしたトリスタンは
「新バイロイト様式」と呼ばれています。で、
1966年のパフォーマンスは、62年から始まったベームのトリスタン演奏の頂点ではないかと言われている、みたいな。ちなみに、この演奏でワーグナー指揮者として名声を得たベームは、以降「ニーベルンクの指輪」をはじめとしたワーグナーの楽劇をバイロイト音楽祭で指揮していく事になったそうな。
驚くのは、グラモフォンの録音の見事さ。音が太くて、それでいて音は明瞭。はじめて聴いた時、僕は「マジでこれが66年のライブ録音か?66年と言ったら、
フランク・ザッパのデビュー作ごろでしょ?信じられない」みたいに思ったのでした。なるほど、この録音をされたから、後発のEMI録音のカラヤン&ベルリンフィルはあそこまで頑張ったんだな。
でもって、演奏が凄まじかった!まず、主役のふたりが凄くて、トリスタン役の
ヴォルフガング・ヴィントガッセンの感情爆発な熱気に引きずり込まれました。ヴィントガッセンは2次大戦後最高のワーグナー・テノールと言われてますが、その理由がまさにここにありました。僕はクラシックの声楽は、合唱以外ではあまり感動した経験がないんですが、テノールでこんなに心を持っていかれたのははじめてかも。
そして、
第2部のクライマックスでのベーム&バイロイト響の劇的な演奏が凄かった!ものすごい迫力で、崩壊寸前じゃないかという突っ走り方。これ、無難なところで演奏を止めてしまう80年代以降のこぎれいで指先ばかりが目立つクラシック界のプレイヤーにこそ聴いて欲しいです。そして、その後の第3部の前奏曲の演奏の深みと言ったら…。ロマン派音楽に求めているものって、こういう演奏なんじゃないかと。ベームもバイロイト響も主役ふたりもおそるべしです。
この演奏をした時、ベームさんはもう70歳を越えていたはずですが、それでこの激烈な表現は何なのでしょうか。身も焦がれるほどのトリスタンとイゾルデに自分を反映させたのか、それとも見事なテノールやソプラノに引きずられたのか、残り僅かの人生の決算として、この楽劇と心中するつもりだったのか…。たしかに、これを名盤と呼ばずに何が名盤かというほどの、曲よし、物語のテーマよし、演奏よし、録音よし、試みたことはなお良しという、
傑作中の傑作じゃないかと。大推薦です!
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