ヒンデミット『作曲の手引』以外の本で旋律論を述べた本では、こんなものもありました。トッホ著、その名もずばり『旋律学』!トッハは19~20世紀のオーストリアの作曲家で、戦争の時にナチから逃げて後にアメリカに亡命しています。旋律そのものの作曲法で1冊を費やした本って、僕はこの本しか知らないです。そして、すごく勉強になりました!
クラシックをベースにした旋律の教科書ですが、ほとんど機能和声について書かれているので、普通の西洋ポピュラーやジャズでもまったく問題なく使えると思います。章の構成はこんな感じでした。
1章:序説/2章:旋律の概念/3章:直線/4章:波状線/5章:旋律と律動の弾力性/6章:和声法の支配下にある旋律/7章:旋律構成手段としての非和声音/8章:連打と阻止・旋律の視点/9章:律動雑考
かなり
基礎的な事からセオリー化していました。例えば、「旋律にとっては音高よりも律動の方がはるかに重要」とか、「スケールを直線に登るときは主音から始めない」とか。こういう所から丁寧に書いてくれている所が素晴らしかったです。さらに、参考として引用されている実際の曲の多さも素晴らしいです!やっぱり実際のスコアを見せられると「ああ、なるほど」と思えていいですね(^^)。
言われてみれば「なんだ、そりゃそうだよな」と思うかもしれませんが、基礎的な事をきちんとセオリー化できるかどうかが重要だと思うんですよね。例えば、「スケールを直線に登るときは主音から始めない」って、当たり前と言えばそれまでですが、知らない人にとっては金言のはず。僕だって、ジャズのアドリブの勉強をしてなかったら、これを当たり前だと思えたかどうか…。また、この本を読んで「あ、僕の作曲は音高ばかりに気をとられて律動が作曲できてないんだな」と思い知らされることにもなりました。マジで読んでよかったと思います。
いずれの点にしても、知らない人は他の曲を分析し、何十曲と書く中で「主音から始めない方がいいんだな」と、相当な時間を使ってからそれぞれのセオリーにたどり着くと思うんですよ。セオリー化の大切さは、音楽以外のものも同じと思います。プロ野球を見ていても、セオリーを知らない監督や選手がかなりいて、セオリーを知っている選手が多いチームが明らかに強い事が観ているだけでも分かるので、どの世界のプロだってセオリーを言語化して押さえることが出来ているかどうかで雲泥の差だと思うんですよね。
古い本なので、日本語訳がちょっと古めかしい事と(でも旧仮名遣いはなかったはず)、原文自体が例え話が多くて、例えられるとむしろ分かりにくくなってしまう所もありましたが、
要点を抑えて読めば実はシンプル、しかも金言の宝庫!掲載されている楽譜を見ればさらに素晴らしい!
「いいメロディが書けないなあ」という方、あるいは作曲をする方は、けっこうサクッと読める本ですので、ぜひご一読を。これも大推薦です!
(追記)備忘録として、超重要と思った所だけメモを残しておこうかと(^^)。
■2章:旋律の概念・旋律には音高線(音程)と律動(リズム)のふたつの要素がある。そして、
律動が重要■3章:直線・旋律にとってもっとも
効果的な直線は、ある傾斜角で昇る(あるいは下る)直線もの(例えばドレミファソラシ、など)。
その時に、主音で始まっても主音で終わってもいけない・旋律を作るときの5つの基礎
1. 調を決定する基礎音の選択
2. 和声上の支点の選択(1度と5度を律動的に強いところに置く事)
3. 拍節(拍子)の選択
4. 各小節における律動の選択
5. 音階の進行を完成させるように律動を続けていく事・
強拍の上に和声音が来なければならないという事はまったくない・ある律動から
ほかの律動に移るとき、速いパッセージ(装飾音を含む)を作ると、前に出てきた律動の印象を消すことが出来るのでスムーズに移行できる■4章:波状線・波状線とは、ある音階を上下に動くもの。この幅は広すぎてはいけない
・
大きな波を作る場合のセオリーは3つ
1. 音としての頂点は1回だけ
2. 音高線がひとつの頂点に達した後にもう一度上昇する場合は、前の頂点に近づく事を避けるか、それを超えてしまうかの2択 3. 頂点は曲の終わり1/3か1/4ぐらいで出す事
■5章:旋律と律動の弾力性・追加でふたつ
4. ある方向(上向きまたは下向き)への比較的長い順次的な進行の後では、反対方向へ跳躍がある
5. 反対方向へ一度跳躍した後は、その反対方向への順次進行が続く・ここでいう「順次」や「跳躍」は和声法でいうそれとは違い、曲中での相対的なもの
・
順次進行と跳躍進行はかわるがわる出す事が重要(旋律の弾力性)・
旋律の弾力性はふたつのパターンがある
a. 跳躍の後に順次進行が続く場合 (*モーツァルトは10度の跳躍の後に順次進行を作る癖がある)
b. 順次進行の後、その反対方向に跳躍が続く場合・
律動においても、音価の長短で律動が作られる■6章:和声法の支配下にある旋律・
旋律にとって、オクターブ違いの音は同じ音ではない・レーガー以降では、旋律は全音階の音だけでなく半音階の音も出てくる
・シェーンベルクは三度和声ではなく四度和声の体制で旋律も作っている(62514♭7、など)
■7章:旋律構成手段としての非和声音・
ある音が非和声音であるかどうかは理論ではなく、曲中の相関関係で規定される・和声音を強く感じる旋律は男性的に、非和声音を強く感じる旋律は女性的に感じる
■8章:連打と阻止・旋律の視点・同じ音を速く連打すると躍動感が出る
・
連打の場合、旋律が何度も帰ってくる音(旋律の支点)がある。そしてその音はほとんど主音と属音に限られる■9章:律動雑考・
律動は繰り返す事によってはじめて力を発揮する
・
律動的な動機の連続のさせ方の形式は3つ
a. 同一の律動(aaaaなど)
b. 並行の律動(abab)。これが最も多く用いられる
c. 十字形連接の律動(abba)
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