ヒンデミットではこんな音楽も聴いたことがあります。音大生の頃にピアニストの
グレン・グールドに狂った時期がありまして、バッハやシェーンベルクだけでなくて他の作曲家のピアノ曲の演奏も聴いてみたい、出来れば近現代で…と思っていたところに出くわしたのがこのCDでした。だから、近現代の作曲家ならヒンデミットでなくても良かったわけで、偶然の出会いだったんですね(^^)。
正直に言うと、最初にヒンデミットの3曲のピアノ・ソナタを聴いた時の印象は良くありませんでした。だから、どういう曲だったのかすら覚えていない始末(^^;)>。。ところが久々に聴いたら…
なんだこの音楽は、調は感じるけど従来の調性感覚と違う、半音階作曲ってこんなことも出来るのか?!すげえ、度肝を抜かれたよ…。 半音階法といっても、ヒンデミットの場合は別の作曲法を構成したわけではなく、従来の全音階な機能和声法を拡張してそこにたどり着いているので(ヒンデミット著『作曲の手引』を読むとそれが良く分かります)、古典派以降のクラシックのような音楽も作れてしまいます。問題は、そこから踏み込んで経過音や付加和音というレベルでないところで半音階を使うとどうなるか、という所。3つのピアノ・ソナタは、それが堪能できる曲でした。
ピアノ・ソナタ1番は5楽章で出来ていましたが、1楽章はかなり普通の調性感覚。2楽章の途中で少しだけ「あれ?」って思い始めて、3楽章では完全に「これは凄いだろ」、4楽章の冒頭は無調に近い(感覚上の話です)、みたいな。どんどん深く入っていきました。ちなみに1番の2~4楽章は全部好き、名曲だと思ってます。
ピアノ・ソナタ2番は4楽章で、
冒頭から独特な調性感覚、すべての楽章が素晴らしい!特に最終楽章のロンドが…いや、ぜんぶ素晴らしいです。これも名曲。
ピアノ・ソナタ3番も4楽章制、これも独特の音楽…なんという音楽だろう、素晴らしすぎる。特に1楽章が好きです。ところで、1番から3番まで、ちょくちょくアジア音楽的に感じる場所があるのは4度の使い方なのかな…ちょっとよく分かりませんが、アナリーゼしてみたら絶対に面白いはず(^^;)。
面白いのは、最初に聴くと「あれ?」って思うのに、面白くてもう1度聴くと、不思議な調性感覚だと思っていた部分が、そう感じられなくなっていた事でした。1度目で不思議に感じるのは他の音楽と比較してそう感じ、2度目はこの音楽の調性感覚の中での感じ方なのかも。
若い時に苦手だと思ったのは、前衛にしては従来の西洋音楽の調性感が強すぎ、従来の音楽にしては音痴に感じたところだったのかも。あと、グールドが構造を感じやすくする見事な解釈の演奏をしているんですが、若い頃はそれがゴツゴツした演奏に感じて、もっとレガートに歌うように演奏したらいいのに、と思ったのかも。そういう演奏も聴いてみたいですが、この曲、あんまり録音がないんですよね。ただでさえ難しそうな曲だしな(^^;)。
ヒンデミットはシェーンベルクとはまた違う角度から西洋音楽に出来る事の可能性を広げた偉大な作曲家だと思います。ドミナントを耳で感じられて、構造が捉まえられないと、「なんだこれ」で終わってしまう可能性もあると思うんですが(19の頃の僕がきっとそうだった^^;)、半音階法以上の作曲の勉強をした人とか、そういうところを越えてきた人は感覚的にも知的にも相当に興奮を覚える音楽と演奏じゃないかと。ピアノ・ソナタ3曲は、音楽の文法の拡張という面から見たヒンデミットの傑作のひとつじゃないかと感じました。
これは室内音楽に並んで推薦!!
- 関連記事
-
スポンサーサイト