
バルカン半島はアドリア海の西海岸線沿い、セルビアの南、
ギリシャの北、
マケドニアの西にある国
アルバニアの音楽です。レーベルはTopic、このレーベルは民族音楽のCDを集めているとたびたび出くわすんですが、解説も詳しいし情熱もすごくて、素晴らしいレーベルだと僕は思っています。
このCDは
アルバニア各地で収録した音楽が収録されていて、その数なんと11か所!ライナーに収録地の地図が載っていましたが、まさにアルバニア全土で録音していました。
アルバニアは、国土の真ん中に流れるシュカンビン川という大河によって南北に分断されていて、大雑把な分け方をするなら、北と南で音楽がかなり違う感じ。歌で言うと、北はホモフォニーで鋭く、南はポリフォニーで優しげ(または神秘的)な感じ。この差は、
北の山岳地帯はオスマントルコ支配の時代にも第2次大戦のドイツやイタリアのが占領に来た時代にもパルチザンとして戦ったことから、英雄叙事詩的なものが多いのではないか、という事でした。なるほど~。
近くにある
ギリシャの音楽もそうですが、アルバニアの音楽も実に多様でした。

まずは
北アルバニアから。思いっきりトルコのサズーのような音楽もあれば(M2, M8)、それに歌の入ったもの (M4, M8)、スラブ系民族的な無伴奏民謡(M3, M5)、牧童の笛(M6)、ユダヤのバカショートのようなもの(M7)、ダブルリード楽器ズマーレによるヨーデルのような歌いまわしのインプロヴィゼーション(M9)。もう、これだけでもその多様性が分かろうってもんです。しかもそれぞれが独特な雰囲気を持っていて面白いんですよ!
続いて
南アルバニア。バグパイプとダールという打楽器(ダラブッカのような音と奏法でした)により中近東風の雰囲気の曲調のダンス音楽(M10, 18)、北の羊飼いの笛とは一味違ったポリフォニーの牧童の笛(M12)、2~4声ポリフォニーで祈りのような雰囲気のある無伴奏合唱(M11, 15)、その独唱のようなもの(M13)、ポリフォニーだけれど祈りではなさそうな雰囲気のもの(M17)、インド古典芸術音楽かイランのダストガー音楽のような撥弦楽器アンサンブル(M14)、ユダヤの
クレズマーか
ギリシャのクラリネット・バンドのような音楽(M16, 19)などなど。南の方がちょっと洗練された文化を持ってるのかと思いましたが、それでも西ヨーロッパにまったく浸食されていない音楽で、スラヴなトルコなどなど、色々な文化を感じました。
バラエティに富んでいて、CDを聴いているだけでヨーロッパやアルバニアの歴史がブワッっと目の前に広がっていく感覚でした。ベースには牧羊文化があって、そこに正教会の文化が重なる地域があって、そしてオスマントルコに占領され、ナチに侵攻され…みたいにして、こういう重層的な音楽文化が出来上がったんじゃないかと。そしてこのCD、録音をしたA.L.ロイドさんによる18ページにも及ぶ解説の見事な事と言ったら…いやあ、この録音を試みたディレクターの熱意がすごい、金儲けややっつけ仕事的な考えでは、こんな丁寧な仕事は無理。音楽も良ければ西ヨーロッパのクラシックや商業音楽に屈しなかった所も見事、そして解説が読んでいるだけで楽しくなってしまう見事さと、これは民俗音楽好きなら絶対に買いの1枚でしょう!
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