
ひとつ前の日記で感想を書いた義太夫節の
豊竹山城少掾の門弟となったのち、最終的には八代目を襲名するまでになった竹本綱太夫(たけもとつなだゆう)の録音です。八代も人間国宝だそうです。
演目は「一谷嫩軍記」(いちのたにふたばぐんき)という五段ものの中の三段目「脇ケ浜宝引の段」(わきがはまほうびきのだん)の中の一部。三味線は十世竹澤彌七(たけざわやしち)でした。なんでも、八代目竹本綱太夫さんと十世竹澤彌七さんは名コンビとして知られていたんだそうです。
「一谷嫩軍記」は、平家物語によく出てくる熊谷次郎直実と平敦盛、そして岡部六弥太と平忠度のふたつの物語を題材にした演目。ああ~熊谷次郎直実と敦盛の話は、
薩摩琵琶の演目で聴いたことがあるからちょっと知ってます。敦盛は平家の幼帝で、これを源氏の武将である熊谷が討つんですが、熊谷が心ある武将で、必死に逃れる子供の敦盛を哀れと感じるんですが、しかし最後は涙ながらにその首を切るんですよね…。で、この「脇ケ浜宝引の段」は敦盛逃亡中の話で、敦盛の母をかばおうとした百姓たちがあやまって追っ手を殺してしまい、だれが弁解に行くかをくじで決めるという、みたいなシーンでした。
おお、これは
師匠の豊竹山城少掾とは全然違う、まるで落語みたいな語り方だ!豊竹山城少掾の「蘆屋道満大内鑑」は常に語りに節がついていて、語りとはいえもうこれは立派な歌じゃないかと思ったほどでしたが、八代目竹本綱太夫の「一谷嫩軍記」は完全に落語調。節回しだけでなく、「敦盛ちゃん」と言ったりして(^^)。これは演目自体がそうなのか、それとも太夫の個性なのか…。
三味線も太夫の語り口に合わせているのか、粋でいなせでテクニカルなんてものの正反対で、かすれた音で無骨に「ズドン!」みたいに演奏してました。いや~これも演目に合わせているのか、それとも十世竹澤彌七さんがそういうプレイヤーなのか、浄瑠璃に疎い僕には分かりませんでしたが、それにしても音楽って個性が出るもんだなあと思いました。
考えてみれば浄瑠璃は、素浄瑠璃だろうが歌舞伎や人形浄瑠璃で使われようが、見世物小屋に人を集めて楽しませる大衆演芸だった事には変わらないので、こういう面白おかしい演目や太夫がいたって不思議じゃないですよね。少なくとも元々は伝統を守る事が目的じゃなくて、人を楽しませて大当たりを出すのを目指してたんだろうし。それにしても、題材は平家物語でもかなりの悲しい物語を扱ってるのに、こんな落語に近い形でやっちゃうなんて、ちょっと驚かされました。でもこれは勢いだけで押す林家こん平の落語に通じるものを感じて、僕にはちょっと合わなかったかも(^^;)。。
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