フォーレの書いたピアノ五重奏曲をコンプリートしたCDです!これが、フランス音楽というよりもドイツの世紀末音楽のような退廃的でぼんやりした情熱にあふれているような音楽で、とてつもなく好きなんです。
ピアノ五重奏曲第1番op.89 は、1891年に書き始めていったん完成させ、イザイのカルテットが演奏してその完成度に興奮したものの、フォーレがこれを気に入らずにお蔵入りにして、再度着手したのは12年後の1903年だったんだそうです。で、完成は1906年。苦心した作品だったんですね。でも僕は、速書きの人より、徹底して完成度にこだわる人の曲の方が圧倒的に好き。
ブラームスのシンフォニー1番なんて、悶絶必至じゃないですか。この曲も、細部まで丁寧に仕上げたのが一聴して分かります。こんなに調がたゆたう音楽、感覚だけで書けるはずがないと思いますし。3楽章とも素晴らしいんですが、個人的に
好きなのはモルト・モデラートの1楽章と、アダージョの2楽章。1楽章は面白い計画を含むソナタ形式っぽいんですが、再現部が短調から長調になってたりして。いや、そんな事より、
連続した部分転調が独特の色彩感を生んでいる所に僕は感動してるんだな、きっと。それは第2楽章も同じです。3楽章は楽式が面白くて、ちょっと変わったロンドと言えばいいのか、とにかく変奏パートからの展開が激烈に面白いですが、最後が大団円なのがちょっとひいた(^^;)。それにしてもこれは素晴らしい曲、聴いている時間は、ずっと音楽の悦楽に飲み込まれていました。すばらしい…。
ピアノ五重奏曲第2番op.115 は、4楽章形式。そしてこの4曲がまったく違うキャラクターを持っていて、しかもすべてが魅力的なのが凄かったです。楽式でいうと、1楽章がソナタ、2楽章スケルツォ、3楽章はロンド、4楽章は複合ロンド…かな?自信ないのであんまり信用しないで下さい(^^;)。。でも、口でこう言っても、
ベートーヴェンのピアノソナタみたいに分かりやすく楽式をバクッと把握できるような代物ではなくて、
和声展開や再現分に至るからくりなど実に緻密で、かといって頭でっかちにならずにものすごく色彩に溢れていて感覚だけで聴いていても持って行かれてしまう音楽でした。
1楽章はそのたゆたう色彩に魅了されるばかり。2番はスケルツォだけあってものすごいテクニカル、ちょっとこれはマッタリで深い音楽を得意とするフォーレとは思えないカッコよさ!
3楽章は緩徐楽章で、美しいんだけどどこか人口の楽園的というか、旋律を引き渡していくさまはカノン的でもあり、かといって部分転調の連続は後期ロマン派のような眩惑的な響きでもあり、その退廃的なところが素晴らしい…。アレグロ・モルトの4楽章はABCを変奏したり凝縮したり互いに乗り入れたりしながら進行していく変形ロンドいった感じ。曲想は力強く、やはりマイナーとメジャーの交換が激しく簡単にその色彩を言えない感じ。やっぱりフォーレのピアノ五重奏曲はこの世紀末的な色彩と、構造の緻密さが素晴らしいと僕は感じるみたい。本当に素晴らしいんですよ!
僕が「退廃的だな」と感じるのは、ヴィア・ノバ四重奏団の演奏にもあるのかも。古いストリング・カルテットって、ヴァイオリンがどちらもヴィオラのような音を出して、ヒステリックでなくまったりとあったかい音を出す時があるじゃないですか。このカルテットはそう言う音を出すので、聴いていて第1次大戦以前のヨーロッパにタイムスリップした感覚になるんです、これがほの暗い不健康な快楽みたいな感じがして、すごく好きなのです。映画でいえば、リリアーナ・カヴァーニの『愛の嵐』の後半みたいな。馬鹿テクでガシガシ押すんじゃなくて、音色を重要視して、全体でフワーッとつつんでくるような演奏で、すごく好きです(^^)。
というわけで、「素晴らしい」の連発になってしまいましたが、本当に曲も見事、演奏も大の好みというお気に入りのCDです。フォーレをシシリエンヌとレクイエムだけの作曲家なんて思ったら大間違い、ピアノ四重奏も五重奏も音楽の悦楽に満ちあふれた大傑作だと思います。このCD、ちょっと手に入れにくいかも知れないけど、見かける機会があったらぜひ手にして欲しい大推薦盤です!
- 関連記事
-
スポンサーサイト