高橋アキさんのピアノは、テクニックのレベルが別格です。日本だけでなく世界的に見てもすごいんじゃないかなあ。演奏困難なピアノ曲を書く世界の現代音楽の作曲家が、こぞって「タカハシに演奏して欲しい」というほどですからね。ある指揮者なんて、高橋さんによる石井真木さんの新曲の初演をきいて、「録音したピアノと共演した作品なんだな」と思ったんだそうです…別のテンポのピアノが同時進行していたので、ひとりで演奏できる曲とは思えなかったから、そう思っちゃったんだそうな。このCDの演奏も、高橋さんの凄さ完璧さが見事に出ていて、何となく弾いてしまう所なんてひとつもない、この曲ってたった今即興であふれ出て来たんじゃないかという思うほどの生々しさ。生きた演奏です。これは異次元、完璧でしょう! ただ、カツーンと冷たい響きや神秘的な部分が、武満ピアノ曲の特徴のひとつと思っていた僕からしたら、あのスコアをこんなに人間的に演奏していいのかと、ちょっと戸惑ってしまいました。「遮られない休息」なんて、非人間的なところがゾクッとする音楽と思っていたのに、まるで人の感情表現であるかのような音楽になってるし。ギターの福田進一さんが演奏した「All in Twilight」もそうですが、ある時期から、武満さんの音楽って、こういうプレイヤーの身体を感じる演奏が主流になっていったように感じます。90年代以降って、戦後間もなくの現代曲的な解釈をしなくなってきたのかも。