僕がチェット・ベイカーに熱狂したのは、死の直前に記録されたドキュメンタリー映画『レッツ・ゲット・ロスト』を見てから。あの退廃的なリリシズムにやられたんです。そしてやっぱり晩年のスティープルチェイス盤のドラムレス・トリオ『The Touch of Your Lips』やポール・ブレイとのデュオ『Diane』に魅了され、50年代のアート・ペッパーとの共演盤『Playboys』あたりのコマーシャリズムに幻滅して、「チェット・ベイカーは晩年のリリシズムに限るな」な~んて思ったのでした。つまり、味の人だと思ったわけです。ところがこのアルバムを聴いてびっくり。このアルバム、チェットさんはトランペットだけで勝負してるんですが、めっちゃうまい!出音も晩年のスカスカした音じゃなくてすごくきれい。『Dig』やブルーノート盤の頃の初期マイルス・デイヴィスと比べても、単純に楽器の扱いとしてはチェット・ベイカーの方がうまいんじゃないかというほどの素晴らしさ。なるほど、これはチャーリー・パーカーが認めたというのも分かるわ。。