
ウエストコースト・ジャズのスターのひとり、
チェット・ベイカーの初ヴォーカル・アルバムで、ジャズ名盤ガイドにはまず間違いなく出ている1枚。このアルバム、イタリアの三色旗のような配色のジャケットデザインが有名ですが、元々の10インチ盤はラス・フリーマンも写り込んだ2色刷ジャケットで、3色デザインじゃなかったんですよね。。録音は、1954~56年。これは、
元々モノだったアルバムを後にステレオしたステレオ盤です。このステレオ化が問題でして… チェット・ベイカーが世に出るきっかけはふたつ。ひとつは、トランぺッターとして
チャーリー・パーカーに抜擢されたこと。もうひとつは、伝説のジェリー・マリガンのピアノレス・カルテットにトランぺッターとして起用された事です。つまり、トランぺッターとして実力を認められたんですよね。ところが幸か不幸か、チェット・ベイカーはハリウッド・スター顔負けのイケメン。これで商売っ気丸出しのレコードレーベルが「歌を歌わせてひと儲けしてやれ!」と托卵で制作されたのがこのアルバム…というのは僕の想像ですが、多分当たらずとも遠からずではないかと(^^)。
そんなわけで、教育を受けたプロのヴォーカリストではないので、音痴です。音痴なんだけど美声ですし、ヴィブラートも横隔膜じゃなくて喉元で掛けるからちりめんヴィブラートになっちゃっていて汚いけど、それはそれで味があって良かったです。歌ってこういう事があるから、アマチュアでもタレントでも侮れない(^^)。
音痴なのに歌として感じる最大の理由が、オケじゃないかと。特に素晴らしいのがラス・フリーマンさんのピアノと、
ジョー・パスのギター…だと僕は思ったんです。ラス・フリーマンはチェット・ベイカーがジェリー・マリガン・カルテットを脱退した後に長くパートナーを組んだピアニストで、、チェット・ベイカー・カルテットにも参加したいわばチェットの片腕です。伴奏させれば見事にフロントを立てるおぶりを挟んでくるし、ソロになれば美しいタッチでジャジーで洒落たフレーズを紡ぐし、じつはラス・フリーマンが素晴らしいんじゃないかと。
さらに、ボーナストラックが素晴らしかったです。僕が持っているCDはボーナストラック8曲入りなんですが、このボーナス・トラックはドラムレスでギターとベースだけで歌伴をやってるんですが、デヴィッド・ホイートという人のギターが素朴で良かったです。ジャズ・ギターではなくアコースティック・ギターのような音で演奏してるんですが、ジャズ調の演奏をすると、こういう音でもジャズに響くんですね。ジョー・パスもこういう音で演奏する時があるけど、昔はむしろジャズもこういうギターのトーンが普通だったのかも。
そして問題のステレオ版。若い頃、僕はステレオ版ボーナス8曲入りというCDを買ったんです。どうせならモノよりステレオの方がいいし、曲はいっぱい入ってる方が嬉しいじゃないですか。ところがこのステレオというのがくせ者。
ステレオ化自体はいいんですが、ミックスがひどい。風呂場みたいなボワボワしたエコーがヴォーカルにかかっていて、センスない事この上なかった(^^;)。こんなひどいステレオ化をするならモノのままで良かったんじゃないか…なんて思ったわけです(^^;)。
そして、先ほど「いい演奏だ」といったギターのジョー・パスですが、なんとジョー・パスはステレオ版を作る時にオーバーダビングしたんだそうで、モノ版にはジョー・パスは入ってません。「My Funny Valentine」なんて、ジョー・パス入りのバージョンじゃないと許せないぐらいに好きになってしまったんですが、元々は入ってなかったのか。。
というわけで、ヴォーカルにつけられたボワンボワンのエコーが許せないレベル、でもダビングされたジョー・パスの演奏と、ボーナストラックのギターとベースだけで伴奏した8曲が素晴らしくて、一長一短なアルバムなのでした(^^;)。ではオリジナルのモノ版がどうだったかというと…また次回!
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