
名盤扱いされることの多い
『My Favorite Things』と同じセッションから、ブルース曲だけを集めたのがこのアルバムです。というわけで、これも60年の録音。
ブルースって言葉はなかなか使い方が難しくて、音楽ジャンルでいうブルースは合衆国の黒人音楽のアレだし、日本の戦後歌謡でいうブルースはアンニュイな曲をブルースと呼んだりしますが、ジャズでいうブルースは、ブルース進行するかブルース・スケールを使ったら、ブルースと呼ぶ事がほとんどです。黒人音楽ブルースやその派生系のロックを聴いたりやったりしていると、こんなに簡単に演奏出来る音楽もない…な~んて思ってしまうんですが、これがドミナントの動きを中心にしたモダンジャズの世界で演奏しようとどうなるか。深く書くときりがないですが、一例をあげると、たとえばCメジャーのスリーコード曲を想定すると、ふつうはトニック構成音がC,E,G,H じゃないですか。でもこれを一番ポピュラーなブルース・スケールで演奏すると、EじゃなくってEs、HじゃなくてB、ついでにF#なんて音も出てきちゃう、とっても斬新な音楽になります。これをロックやブルースみたいな少ない音で処理するなら、「細けえことはいいんだよ」精神で押し切れたりするんですが、ドミナント・モーション基調に発展したジャズの世界でアドリブしようとすると…それがこのアルバムの価値なわけです(^^)。メジャーブルースとマイナーブルースでも違うし、それぞれにモードも使えてしまいますしね。面白いのは、どちらもペンタ・スケールが使える事です。これは管楽器には嬉しいでしょうが、ピアニストには迷宮の入り口。
後年のコルトレーンは「フリージャズの闘士」みたいなイメージもありますが、実際にはアドリブのためにひたすら研究を繰り返した学者肌の一面を感じます。例えば、4曲目に入ってる「Mr. Day」なんて、僕にはG♭sus とB♭sus の交換に聴こえます。5曲目「Mr. Syms」は、マイナーブルースとメジャーブルースの交換。どっちも、通常のブルースチェンジだけでない可能性を追求してるんですよね。
ロックやモダンジャズのリスナーには「ブルースかよ」と思われてしまうかも知れませんが、ジャズ屋にとってブルースは鬼門のひとつ。特にピアニストは、うまく処理しないと和音とスケールがきたなく衝突して聴こえたりするので、バップ系統ジャズとは別に「ブルース」というジャンルをマスターしないといけないほど。アール・ハインズや
マル・ウォルドロンあたりの演奏するブルースでいる間は良かったんでしょうが、
モダン以降のジャズ・ブルースをやりたい人は、このアルバムを聴かずに済ませることは不可能というほどの超重要作。ただ音楽を聴いて楽しみたい人にも、ちょっとでもボっとしてたら
これが全部ブルース曲なんて信じられないほどバラエティに富んだ面白い音楽に聴こえると思います(^^)。「『My Favorite Things』のアウトテイク集でしょ?」な~んて軽く見たらいけない、なぜか評価が低いけどムチャクチャ素晴らしい1枚だと思います!
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