カザルス演奏の、オケの音が全然聞こえないチェロ協奏曲の古い録音を聴いた事があります。それ以降、古い録音は買う前にビビりまくってました。それが以前に書いた
フルトヴェングラー&ウィーンフィルの録音を聴いて以降、古い録音への苦手意識が減りました。むしろ
本当にすばらしい空間録音は古いものにある、みたいな。と言っても、ノイズ問題があるので買うのに慎重になるのは変わりませんが(^^;)。
ある時期、
クラシックのCDの世界で、古いモノラル音源を「ブライトクランク」という方式で疑似ステレオ化して、ついでに音質も向上させて発売する事が流行した事がありまして、その中のひとつとして登場したのがこのCDでした。ユーディ・メニューインとフルトヴェングラーによるベートーヴェンのヴァイオリン・コンチェルトも、聴いてみたかったけど古い録音なので躊躇してたんですが、音の心配さえなくなれば聴くべきでしょ!というわけで、いよいよ挑戦したのでした(^^)。
まずは録音。
「なんだかんだ言って宣伝文句ほどのものじゃないでしょ」と思っていたのに、音の深みや管弦の楽器の再現性が本当に素晴らしかった!ものっすごく立体的に聴こえるんですが、これってどうやってるんでしょう、ステレオになってるだけでなく、それぞれの楽器がすごくしっかり聴こえます。う~ん科学ってすごい。そういう音楽的なところは実に素晴らしい録音ですが、やっぱりマスターテープが53年録音である事に変わりはないので、「サー」って言ってるノイズはけっこう大きいです。スピーカーで聴いている分にはちょっと気になる程度でしたが、ヘッドフォンだと耐えられないレベル。ヘッドフォンで聴きたい人は、歴史的録音というのを差し引いても、ちょっとしんどいかも。
そして演奏。まずはヴァイオリンの
メニューインさん。神童の走りみたいな人ですがこの時は37歳、それでも素晴らしい演奏でした!カデンツァとかの持ってく所は驚異の演奏でガッツリ持っていき、それ以外のところは表現力が高い(ボウイングの表現とか、マジですげえ…)!オケとのマッチングも素晴らしい!いや~発言やルックスからして、もっと独善的な人なのかと思ってましたが、強烈な個性や表現力と同時に、全体を見渡す能力もめちゃ高かった。昔の人なので話が大きくなっているだけでそこまですごくないだろうと思っていたんですがとんでもない、マジで伝説の人だった!これは恐れ入りました。
そして、
フルトヴェングラー&フィルハーモニア管弦楽団の演奏。これまた先入観で「古いオケだから表現過多で必要以上にたっぷり演奏しちゃってもたったりしてるもんかと思ってたんですが、全然そんな事ない、
表現はたっぷり目でしたがめちゃ機敏だし、オケ全体でひとつの人格持ってるぐらいの統率力、これも素晴らしかった!いや~これもお見事でした。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、「3大ヴァイオリン協奏曲」のひとつに挙げられるほどの名曲です。解説には「そこまで技巧偏重でない抒情的な協奏曲」なんて書いてありますが、ヴァイオリンを弾かない僕にとってはとんでもない技巧を使う所がてんこ盛りに聞こえます(^^;)。ほぼ同時期に書かれた「運命」とかに比べれば、たしかにシリアスじゃなくて抒情的と言えるかも知れません。あと、オケとソリストが競い合うようにどんどん登りつめてくところは、まさしく協奏曲の王道という感じ。全体で40分超えの堂々たる音楽です。
いま、将棋のソフトって、プロより強いそうです。そのソフトで江戸時代に指された将棋の解析をすると、江戸時代の名人って今の最新鋭将棋ソフトと同じ手をバシバシ指してるんだそうです。それに似ていて、「昔の人だから、言っても話ばかり大きくなっていて実際には今の人の方が技術は高いだろ」な~んて思ってたのに、実際には昔の達人は今でも達人で通るほどの凄さでした。僕は若い頃、「ベートーヴェンの管弦楽曲聴くなら、カラヤンばかりじゃなくてフルトヴェングラーも聴いたら」なんて年上の人に言われたんですが、その意味が分かったような気がした1枚でした。
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