fc2ブログ

心に残った音楽♪

おすすめCDの紹介のほか、本や映画の感想などを (*^ー゜)v

 

Category: アート・本・映画 etc. > 本(文芸・科学・哲学)   Tags: ---

Response: Comment: 0  Trackback: 0  

詩集『詩と散文』 ステファヌ・マラルメ著、松室三郎訳

Malarume_Si to Sanbun ランボーと並ぶ象徴派詩人マラルメの詩集です。タイトルだけ見るとオムニバス本のようですが、マラルメ本人がこのタイトルでこの詩集を上梓したそうです。自分の仕事が俯瞰できる1冊を作ろうとしたのかも知れませんね。松室三郎さん訳の筑摩書店版は、これに松村さんによるマラルメ詩翻訳にあたっての小論を加えた構成になっていました。

 この本のマラルメの詩の部分は、韻文詩、散文詩、エドガー・ポーの詩の仏訳(この本だとそれをさらに邦訳)、この3つで構成されていました。なるほど、マラルメの生きた19世紀フランスでは、ポーの詩の翻訳は大きな仕事だったのかも知れませんね。

 一番よいと感じたのは、第2部にまとめられていた散文詩でした。中でもいいと思ったのは、具体的な物語があるものではなく(例えば「パイプ」)、抽象度の高い詩や、詩作そのものを綴ったような散文詩でした(例えば「ヴィリエ・ド・リラダン」)。フランス散文詩は、ロートレアモンやボードレールやランボーのものなどを読んできましたが、傾向が似てますね(^^)。で、この傾向が僕はすごく好きです。そして思う事は、抽象度が上がっても良い詞として成立するんだな、という事。エズラ・パウンドが詩作について「なるべく具体的に書く」「細密に描写する」なんて言っていて、たしかに具体的に書かれた素晴らしい詩を僕はいくつも知っているもんで、それはその通りだと思ってもいるんですが、どもこうやって抽象的に書いても素晴らしい詩が出来てしまうんだな、みたいな。例えば…

私の精神が快楽を求める文学はといえば、ローマのまさに滅びようとする時期の、瀕死の詩歌であろう。尤も、その詩歌が、蛮族たちの、若返りを齎す接近をいささかも呼吸せず、またキリスト教初期散文の幼稚なラテン語をたどたどしく語ることがない、この限りでの話であるけれども。(「秋の歎き」)

 韻文詩にも好きなものがありました。日本語訳している時点で韻律の半分以上は失われてるんでしょうけど(^^;)、それでも音楽的なリズムに惹きつけられる市がいくつかありました(たとえば「あらわれ」の終止形とか)。でもって、やっぱり韻文詩の極めつけは「半獣神」

俺の懐疑も 過ぎた夜の堆積か、無数の微細な枝と成り果てて (「半獣神」)

 僕がマラルメの詩で一番好きなのはやっぱりこの詩だなあ。たしか、ドビュッシーはこの詩に感銘を受けて「牧神の午後への前奏曲」を書いたんですよね。

 というわけで韻文詩も散文詩にちょっと近く感じましたが、マラルメやランボーやボードレールのこういう散文的な詩って、何かの比喩なり暗示なりになっている(少なくとも読んでいるこちらがそう感じる)ところに魅力を感じます。あ、もちろん、その比喩なり暗示なりの対象が注目に値するものである点が重要なんでしょうが、同じ近現代でもツェランやミショーより、ランボーやマラルメが扱っている問題の方がより根源的で大きなものと思えるので、僕は好きなんですよね。戦争とか個人の神経質なエゴイスティックな苦しみや、世界の美しさやすばらしさではなくて、実存と世界の問題を扱おうとしている、みたいな。で、そこまで具象を扱わないで素晴らしい詩を書いてしまうトップ2が、僕にとってはランボーとマラルメです。この詩集、20歳ぐらいの頃から何度か読み直してきましたが、年を重ねるごとに内容が分かってきた気がして、どんどん好きになっています。大げさに言うと、若い頃は修辞法の美しさにしか感動していた気がするんですよね。というわけで、機械論とか実存主義といった西洋の近現代の哲学思想や文化潮流が分かったうえで読むと、より面白く感じられる詩集なんじゃないかと。

関連記事
スポンサーサイト




Comments

09 2023 « »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

Bach Bach

Author:Bach Bach
狭いながらも居心地のいい宿で、奥さんとペット数匹と仲良く暮らしている音楽好きです。若いころに音楽を学びましたが、成績はトホホ状態でした(*゚ー゚)

ずっとつきあってきたレコード/CDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。趣味で書いている程度のものですが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば嬉しく思います(ノ^-^)ノ

月別アーカイブ
検索フォーム
これまでの訪問者数
最近気になってるCDとか本とか映画とか
ロシアとウクライナがほぼ戦争状態に入りましたが、僕はソ連解体後のウクライナについて本当に無知…。これは2016年にオリバー・ストーン監督が作ったウクライナのドキュメンタリー映画。日本語字幕版が出たらぜひ観たい このブログをYoutube にアップしようか迷い中。するなら作業効率としては早いほど良いんですよね。。その時にはVOICEROIDに話してもらおうかと思ってるけど、誰の声がいいのか考え中
アド
ブロとも申請フォーム
QRコード
QR

Archive

RSS