
地歌の端歌ではなく、江戸時代の庶民文化の端唄(江戸端唄)の名曲・名演者の録音を集めた2枚組CDです。
端唄は三味線伴奏でちょっと小粋に歌う日本の短い歌で、江戸中期から末期に流行。流行の理由のひとつは天保の改革で庶民の三味線の手習いが禁止されたもんで長唄をやるだけの技巧が失われてしまい、代わりにあまり技巧も必要そせず、短いので覚えるのも簡単な端唄が流行ったのではないかという事です。
このCDには4人の
鶯芸者(芸者兼歌手)の端唄が入っていました。昭和に入ると、ビクターやコロムビアといったレコード会社が、新人歌手を育てるより最初から歌がうまくて人気がある人に歌わせた方が速いという事で、人気芸者に目をつけてスカウト合戦したそうで、それが鶯芸者。このCDで歌っていた4人は、昭和初期に活躍した
藤本二三吉、
小唄勝太郎、
市丸の3人と、現代の代表的な歌い手の
栄芝(全員女性)というメンツでした。
「かっぽれ」みたいなお囃子の入ったどんちゃん騒ぎ系もありましたが、個人的には三味とデュオのしっとりした曲が好み、メッチャ粋なんですよ!歌い方にちょっと色気を出した節まわしを作ってるところはさすが芸者(^^)。三味線も浄瑠璃みたいな技巧はないけど、逆に淡々としたところが粋に感じられてこれはこれでいいなあ。お座敷で芸妓のしっぽりした歌を聴いている時に三味線をバシバシやられても困りますもんね。
音楽だけでなく、詞も良かったです。
天保の改革で風紀の乱れる娯楽が禁止されたからか、もろに言わずに比喩でぼかした表現が多用されるんですが、これがむしろ表現に深みを与えているようで、すごくよかったです。たとえば、「春雨に、しっぽり濡れる鶯の~」みたいな詞は、ぜったいに文字通りの意味じゃないですよね(^^)。こういうところが粋だなあ。そうそう、能は言うまでもなく浄瑠璃ですら言葉が古すぎて解説を読まないと何言ってるのか分からない部分がけっこうあるんですが、端唄は聴いているだけで普通に言葉を聴きとれるのが嬉しいです。
歌と三味線は、みんなよかったです。さすが芸妓、訓練されてるなあ(^^)。
ルックスは市丸が抜群の美人でしたが、歌そのものは藤本二三吉や小唄勝太郎の方が色気があるかな?ついでに、クレジットを見ると、もしかして藤本二三吉と小唄勝太郎は三味線も自分で弾いてるのかも…だとしたらすごい。現代の録音のものはダメなんじゃないかと思っていたんですが、意外とよかったです。子供の頃はロックにハリウッド映画にと英米文化とそれを真似したものばかりに親しんできた僕でしたが、大人になってから触れるようになった江戸から明治大正にかけての日本の芸能ってメッチャ面白いです。端唄のような軽めの大衆芸能ですら深いんですよ!端唄の伝説的な歌い手3人の録音を聴けるこのCDは、にわかな僕には最高の2枚組でした。これから江戸は歌を聴こうという人には、間違いなくおすすめのCDです!
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