シャンソン歌手
ジュリエット・グレコの2枚組ベスト盤です!僕が思っているシャンソンのイメージに一番近い歌手って、
エディット・ピアフよりもジュリエット・グレコや
ダミアや
バルバラなんですよね。エンターテイメントというより、フランスの小説家や画家なんかの文化人が集まる場所で知性あふれる歌を歌っていた人たち、みたいな。僕が持ってるのは日本盤で、解説はものすごく丁寧だし、すべての歌の日本語訳はついてるしで、本当にすばらしいCDでした。第2次大戦後まもなくから年から2015年まで(グレコは2016年に引退)というグレコの全時代からの選曲だった点もよかったです。
最初に心惹かれたのが、2次大戦直後の50年代の歌詞です。ドイツに占領される地獄を見た後で本国を奪還した当時のフランスの風潮もあったか、グレコ本人がナチに強制収容所に入れられた経験者という事もあってか
、戦争を感じさせる詩が多かったです。「戦争が終わってできた場末のダンスホール」とか、パリをいつくしむような歌とか。そして、詞と音楽が劇的で、ひとつの歌がまるで短編小説のよう。シャンソンって、
イヴェット・ギルベールほどではないにせよ、語るようなレチタティーヴォで歌う所が多いじゃないですか。あれって、詩自体がほとんど物語で、半分はセリフみたいなもんだからだと思うんですよね。そんなわけで、歌を聴いているというより、役者のセリフを聴いているような気分でした。そうした傾向は、エディット・ピアフの何倍も強く感じました。
次に感じたのは、曲とオケの変化。オケに関しては、僕は古い曲ほど好きでした。というのは、古いほどバンドに管弦が入っていたりと楽団がデラックスなのです (^^)。グレコがミュージックホールに出演していたタイプの歌手だったという事なんでしょうが、管弦を入れて音楽を聴かせるのが常だった当時のフランスの大衆音楽文化って、今よりぜんぜん豪華ですよね(^^)。音楽も単純なリート形式ではないものが多いぐらい(最低でもヴァースぐらいはついてる感じ)で、作家陣も素晴らしかったんだと思います。
ドビュッシーや
プーランク直系とは言わないまでも、そういう音楽も聴いてきた人が作ったオーケストレーションというかというか、少なくとも
ミヨーぐらいの雰囲気はありました。そうそう、
作曲家を眺めても、ジャック・プレヴェール(「枯葉」の作曲者)、ジョルジュ・ブラッサンス、シャルル・アズナブール、レオ・フェレ、セルジュ・ゲンスブール…ある意味でこのCDを聴く事は、グレコだけでなくシャンソンの歴史を聞いているようなもの(^^)。
有名な曲がいっぱい入ってますが、アレンジや歌唱も含めて個人的に好きな曲は、ゲンスブール「アコーディオン」、
ボリス・ヴィアン「脱走兵」、レオ・フェレ(ランボーやボードレールの詞に音楽をつけて「文学的シャンソン」の巨匠と言われている人です)の
「時の流れに」。
ジャック・ブレルの「行かないで」は、アレンジが相当に前衛的で、こういう曲が普通に大衆歌謡に食い込んでいる所がフランス音楽のレベルの高さだと思います。こういう曲が技術的に書けるかどうかより、こういう曲を聴ける聴衆が育っているから「書くことが赦される」と思えるんでしょう。日本だったら、前衛舞台か何かという特殊な状況を想定しないと、ちょっと無理ですよね。。そして、
詩が好きなのは「老夫婦」。
いまの西洋の軽音楽は完璧に英米音楽の焼き直しになっちゃってるもんで、わざわざ英米音楽以外を聴く気にもなれないんですが、戦後しばらくまでのフランス音楽は、こういう大衆音楽ですらフランス的なものを保っていて素晴らしいです。しかも、内容がいい。そしてこのCD、作りが丁寧で本当にすばらしいです。音のマスタリングも丁寧、音楽の背景や作曲の経緯の紹介、すべての曲の歌詞と日本語訳がついている、デザインも美しくて愛情がある!いい仕事をしていると思います(^^)。いま、こういう古い音楽のCDって10枚組ぐらいで何でもかんでもぶっこんであって、解説も歌詞もなにもついてないものが廉価で出てたりしますが、せめて訳や曲の背景ぐらい説明してくれないと、まったく分からないと思うんですよね。素晴らしいCDだと思いました!!
- 関連記事
-
スポンサーサイト