
で、その細密極まりないバルトークの作曲技法を解明しようとした本が、レンドヴァイという人の書いたこの本。半音階や全音階というラインからの分析は、作曲科をマジメに修めた人なら、バルトークの響きを聴いら最初にやってみたくなる分析の手がかりだと思うのですが、この本は更に「中心軸システム」という着想なんかも用いてバルトークを分析しようとしています。この発想がすごく面白くて、ジャズ的な考え方だなあと思いながら、むさぼるように読んでいたことがあります。「
リディアン・クロマティック・コンセプト
」とかも、中心音から旋法組織を捉えるというものでしたしね。
更にすごいのは、「黄金分割」なんていうものまで分析に持ち込んでます。僕は数学的テクニックとしての黄金分割ってよく知らないんですが、絵画の世界なんかだと、例えば木の枝の分岐の仕方がもっとも美しく見える黄金比、みたいなものがあるらしいですよね。作曲なんかでも、音楽の演奏時間が10だとすると、クライマックスは7から8のあたりに持ってくると最も良いものになるなんていいますが、これも一種の黄金比なのかと勝手に想像しています。というわけで、作曲学のオーソドックスから外れながらも、しかし数学的な視点みたいなものを使ってロジカルに作曲技法を解明するという本に出会ったのは、僕はこれが初めてでした。そうそう、意外なことに、友人のジャズ・プレイヤーがこの本を読んでいました。やっぱり、ジャズ寄りの本なんだろうか。。
この本、知的好奇心を満たしてくれることは確かで、メチャクチャ面白いんですが、褒められた事ばかりではない気がします。まず、この本に書かれている事がバルトークの作曲に実際に使われていたかというと…いやあ、ちょっと違うような気がしちゃいます。というのは、じゃ、この本で言っている論理から、ミクロコスモスや弦チェレの微細構造を作曲しうるかというと…たぶん、無理でしょう。というわけで、この理論はあくまで後付けな気がする。いや、それでも解明の切っ掛けにはなると思うし、理論自体が面白いんでいいんですけどね。しかし「バルトークの作曲技法」といってしまうと嘘になっちゃうので、「バルトーク作曲の分析」みたいにしておけばよかったのに。そうしないと、バルトークの作曲技法を修めたいと思ってこの本を買う人に対して詐欺になっちゃうんじゃなかろうか。それに付随していうと、このレンドヴァイという著者、他にも「
音のシンメトリー
」なんていう本も書いてるんですが、これも似たようなコンセプト。で、ですね…オリジナルな理論は構わないんですが、それを過去の作曲作品を説明する道具にするのは、ちょっと論理が飛躍しているというか、さすがに無理があるとおもうんですよ。この自説の技法をもとに自分で作曲をすれば何の問題もないどころか、素晴らしい事になると思うのに…そのあたりだけが、ちょっと残念ではありました。あ、でも本当に面白い本ですよ!バルトークの分析云々より、ちょっとカッコいいことをやりたいと思っているジャズプレイヤーなんかが読むといいんじゃないかと。
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