
アバを聴くと、いつも続けて聴きたくなるのが、僕の場合はなぜかカーペンターズです(^^)。気持ち良いポピュラーという繋がりなんでしょうね。しかし、アバと違うのはセクシャルなものをまったく感じないというか、PTA推奨みたいな世界観の中にある印象があります。若い頃の僕は、こういう平和な音楽があまり好きではなかった。好きになった切っ掛けは、何十年も前にカーペンターズのドキュメンタリー番組を見てから。もう、ポピュラーなんてまったく聞かなくなった時期でした。
カーペンターズというのは、実の兄と妹で結成されたポピュラー音楽のユニット。で、平和で楽しげな曲、あるいは美しい曲ばかり。更にタイミングの悪い事に、当時の僕はかなりハードなジャズにハマっていて、そういう所からはカーペンターズは余計に遠い。これが、なにげなく見ていたテレビ番組でカーペンターズの特集で、ヴォーカルのカレンお姉さんが若い頃に叩いたというドラムプレイを聴いて一変。…う、うまい、思いっきりモダンジャズじゃないか!!なんでこれほどのプレイヤーが牧歌的なポピュラーなんてやってんだ?というわけで、いつの間にかドキュメント番組に目が釘付け。
カーペンター家では、お兄ちゃんが小さいころからクラシックピアノのコンクールで受賞したりして、興味はすっかりお兄ちゃんに。で、この家族中に漂う空気の中、妹のカレンさんはあまり目立つわけにはいかなかったんだそうな。しかし、実はこの妹さんが兄以上の才能を持っていたようで、ドラムを叩いても何をやらせてもスゴイ。しかし空気の読めるカレンさんは「兄より目立つわけにはいかん」と一歩引いてしまい、常に自分に求められる役割を演じ続ける事に。これが、「音楽全体をコーディネートする作曲は兄、全ての表現が兄の作った枠組みの中で行われる妹の歌」というカーペンターズの構図に収まった、みたいな感じの話だった気がします(間違ってたらごめんなさい!)。で、カーペンターズが売れると、カレンさんは拒食症に陥り、それが原因で死んでしまうという悲劇(・_・、)。で、この拒食症にもこうした家族関係が影響していたというハナシだった気が。で、こういう事を知った後に、あまりに有名なカーペンターズの歌の数々を聴くとですね…もう、聴こえ方が全然違いました。
"Why do birds suddenly apper everytime you are near?"
なぜ鳥たちはいつも急にあらわれるの?あなたの傍にいたいから?
ここで歌われている"birds"って、いったい誰の事なんでしょうね。また、なぜこういう事を歌うのか。これ、字面通りに受け取ったら、やっぱりおめでたいというか、つまらない歌なんだと思うんですよ。ただ、家族関係や現実はそうじゃないのに、なぜカレンさんはこういう詩を書き、歌い続けたのか。これは、現実がどうあるかというリアリズムではなくって、現実はそうではないけれども、こうあってくれれば…といったような一種のユートピア幻想なんじゃないかと思ってしまいました。で、自分はもう死と直面しているのに、死の直前まで、同じようなユートピア論が歌い続けられる。
カーペンターズ自体は、レコード会社からヒットを嘱望されたユニットです。そういう意味でいうと、ここにある音楽も言葉も、「望まれて」書かれた商売品でしかないので、本当の作者の心情が反映されていたものかどうかは確認のしようがありません。しかし、カレンさんの人生とそこで貫かれてきた行動を見ていると、僕には、少なくとも半分ぐらいはカレンさんが思い描いた理想の世界が表現されていたんじゃないかと思えてしまいます。そして、お兄さんのアーノルドさんの作曲も素晴らしい。戦争が続き、冷戦に突入し、市民には生きにくい時代にロックが生まれました。ロック興隆期は、今の商売ロックとはかなり違う感触のプロテスト的な側面が出ていた市民音楽的な様相を呈していて、世界の欺瞞を断罪するかのようなその力強さは大変に素晴らしかったと思うし、今でも大好き。しかしそういう中でユートピア世界を提示するというのも、それは美しい事だし、言葉とは裏腹に非常に強い行為だったんじゃないか。ポップ産業という安い外套を纏ってはいますが、それでも美しいカーペンターズの音楽を、僕は今では大好きになりました。で、これも妻が結婚とともに持ってきたアルバムで、ベスト盤。う~ん、素晴らしいとしか言いようがないです。洋楽ポップスを聴かない人にこそ、ぜひおすすめしたいです。
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