
クリスマスです!ということで、寒い地域の音楽を(^^)。日本のビクターから発売された、ロシア民謡の2枚組オムニバスです。日本製の編集盤と侮るなかれ、日本のコーラスグループが演奏しているとかのチープなものではなく、すべてがロシア国立合唱団とアレクサンドロフ赤軍合唱団の、本家本元の無伴奏合唱です!!
「ロシア民謡」というのはなかなか曲者の言葉で、日本で知られている「ロシア民謡」というのは、ロシアの民謡という訳では全然なくって、ある一時期のロシアの歌謡音楽の事なんだそうで。で、このCDはというと、「ロシア民謡」と「ロシア歌謡」の両方が取り上げられている感じです。あと、「ロシア民族歌」も。これらの音楽って、ここ80年ぐらいの西洋の流行音楽と違って、録音されたレコード/CDが基準となっているわけではないので、どの有名な歌も、だれかの持ち歌ではありません。ロシアの歴史上の色々な過程もあると思うのですが(例えば、旧ソ連体制下では、政治歌が禁じられていたり、そもそも音楽というものが人を堕落させるものという事で否定的に扱われていたり)、
誰という訳でなく、みんなが歌い継いできた歌というものが多いみたいです。つまり、英米のポピュラー音楽になじんできた僕の耳にとっては…商売っぽいところが全然なくって、本当にロシアの人たちが思ったり感じたりしたことが、そのまま歌になっているように感じてしまう。これが、心を揺すぶられます。例えば、「トロイカ」という有名な曲も入っているのですが、内容は日本に伝わったあの歌詞とは全然違って、「恋人がいたのだが、異教の村長の横恋慕で遠くに追いやられてしまう」という内容。その悲劇を聞いた郵便配達人は、それでも自分になすすべがなく、そりをひく馬に鞭を打つしかない。他には、圧政に苦しむ農民が起こした暴動の首謀者であったステンカ・ラージンを歌った史歌とか、有名な「ともしび」なんかも、戦争に行く恋人に送った歌であったり。歌の最後は「若者よ、憎き敵を倒せ、祖国ソヴィエトのために」なんていう締めくくりだったりします。これらの歌、僕が慣れ親しんできた西洋のポピュラー音楽とはリアルさが違いすぎます。もう、魂の叫びという感じ。
詩だけでなく、音楽も素晴らしいです。ロシアと言えばキリスト教ではあるけれども、プロテスタントでもカトリックでもなく、正教系です。正教系の音楽と言えば、無伴奏合唱。これが民衆音楽にも影響していて、無伴奏で歌われているものが多いです。これが正教系合唱のあのものすごいハーモニーをそのまま流用していて、ものすごいコーラス!!たまに楽器が出てきても、西洋の商音楽に毒されたものではなくて、バラライカとか、そいうロシアの家庭にありそうな楽器だったり。これは「ロシア国立合唱団」の特徴で、「赤軍合唱団」のほうになると、マーチングバンドが入って相当に戦闘的になるというか、コサックの音楽とかに近づく感じです。「道よ道」という曲なんて、暗さと同時にえらく強靭というか、ほとんどモリコーネの西部劇の音楽みたい。実はモリコーネ音楽の着想って、こういう所ら来たんじゃないかというような叫ぶような男声合唱のユニゾンとか。
また、東ヨーロッパ文化圏という事もあるのか、舞踊音楽の要素もチラホラ感じることが出来ます。非常にゆっくりしたところから、まったく同じ音型を繰り返しながら、徐々に速くしていき、最後にはとんでもなく速くなって、いきなりブレイクする。これは明らかに東ヨーロッパの舞踊音楽と共通するところです。しかし、音楽は(歌詞を抜きにしても)暗いものが多く、例えば単純なところでも、
長調よりも短調の方が圧倒的に多いです。短調の方が多いという西洋文化圏を、僕はロシアのほかに知りません。やっぱり、厳しい自然環境下、また政治的に抑圧されてきた人たちの心情をあらわすカタルシスとしての音楽という事になると、ロシアの場合はどうしても暗いものになってしまうのかも知れません。
この抒情性、ほのぐらい悲しさのような情感、僕はこういうところに独特な感慨を覚えてしまいます。そういう世界観の中で、
とてつもなく美しいコーラスが聞こえてくると…もう、あの世で響いている音なんじゃないかというぐらいの感じ。このCD、解説は素晴らしいし、全部日本語訳はついているしで、文句なしの丁寧な作りです。冬、心を落ち着けて、こういう一面雪世界といったような音楽を聴くというのも、素晴らしい体験なのかも知れません。本当に素晴らしいCDだと思います。なんか、今はプレミアついちゃったみたいなので、安く見かけたらぜひ!!
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