歌だけでなく、音楽のコンセプトが良かったです。伴奏はビッグ・バンド、ウィズ・ストリングス、スモール・コンボなど多様でしたが、みんなスタジオ録音で良い演奏、そしてどれも「気軽に聴けてほっとする音楽」を目指しているように感じました。コモドア録音は悲壮感あふれる曲やブルースが耳に残って、コロンビアの『Lady in Satin』はストリングス・アレンジが聴きもの。でもデッカ録音はどの編成でもリラックスしてラジオから流れてくる音楽、みたいな。そしてビリー・ホリデイの控え目な表現とあったかい声には、こういうほっとする音楽が合ってると感じました。 たとえば、「ラヴァー・マン」。この曲がビリー・ホリデイに送られた詩で、それを気に入った彼女が作曲家に曲を頼んだ事を、このCDのライナーではじめて知りましたが、劇的なしびれる曲に仕上げる事だってできるラヴァーマンですらサラッとした演奏と歌唱。ああ、ビリー・ホリデイって、日本だと悲劇の人みたいなイメージが先行しちゃったけど、本当はもっとあったかく歌っていた歌手だったんじゃなかと思いました。