このアルバムで有名な曲といえば、パンク・バンドがこぞってカバーした「1969」とか、タイトルにヴェルヴェッツ並みの性的倒錯を感じる「I wanna be your dog」とか、ファズの歪み方が半端じゃない「No Fun」あたりが有名かと思いますが、そういうロック・ナンバーは、あの凄まじい勢いとエネルギーのMC5に比べるとショボい、ショボすぎる…というのが若いころに聴いた第1印象でした。グランド・ファンクやキャプテン・ビーフハートやZZトップ同様、60~70年代前半のアメリカン・ロックのスタジオ録音ファースト・アルバムの音のショボさがストゥージズにも当てはまってしまった、みたいな(^^;)。演奏も決してうまい方じゃないから、なおさらショボく感じてしまって…ロックって圧力が重要だと思うんですよね。
でもこのアルバムがダメかというと、そういう有名なロックンロール・ナンバーじゃない曲に独特な面白さがあって、その面白さこそストゥージズの色だったんじゃないかと僕個人は思うほどでした。その面白さは、それこそガレージやパンクと形容したくなるものです。 たとえば録音。プレート・エコーが過剰にかかった(聴きようによってはヘタクソな)録音が、別の聴き方をすると独特のガレージ感やサイケデリック感を醸し出していました。メロトロンとワウギターのはるか彼方でプレートエコーまみれのヴォーカルが聞こえる「Ann」なんてその典型で、ガレージが裏目に出た時のこの安っぽいミックスが半周まわって意味深に聴こえたり。 こういうガレージ感やサイケデリック感を通して感じる「ヤバさ」は、曲作りやアレンジにも感じるものがありました。10分ほど続く「We will fall」はドローンに乗った鎮魂歌のよう。なるほどこれは50年代の明るくぶっ飛んだアメリカの楽観主義ロックンロールとは違う、完全に泥沼化したベトナム戦争の通して変質した病んだロックだな、みたいな。この病みは意図した節もあって、「Real cool time」「Not right」「Little Doll」というロックナンバーは、いわゆるコード進行というものをさせず、リフなり何なりで曲想を作ったら、それを延々に続けてドローン効果を生み出し、その上にワウやファズを過剰に聴かせたギターを這いずり回らせ…ね、いかにも「あ、これはヤバいな」と感じさせる意図を感じますよね。