新譜を買うなんて5~6年ぶりのご無沙汰。そんな僕が
JazzTokyoに載っていたPV を見てひとめぼれしたのがこれ、日本のタンゴ系ピアニストの
青木菜穂子 さんの新作、2022年発表です!僕は古い人間なのでストリーミングやダウンロードは苦手で、レコードやCDみたいにフィジカルがあって欲しい人なもんで、CD発売というのも良かったです(^^)。
タンゴ・ピアニストと聞いていたし、実際にも半分ぐらいはタンゴの作曲家の曲を取りあげていましたが(でも僕が知っていた曲は1曲しかなかった^^;)、聴こえてくる音が
僕のイメージするタンゴとはぜんぜん違って、クラシックのピアニストが西洋ポピュラーを演奏したかのよう に感じました。タンゴ自体がそういう知性面を持っている音楽ではあるんでしょうけど、それがライト・クラシックやイージーリスニングにいくんじゃなくて、かといって形だけのなんちゃって洋楽かぶれ日本人ミュージシャンになるんでもなくって、もっとレベルが高いというか。
とくに演奏表現がメッチャクチャすばらしかったです!インテンポのところでも常に歌っていて、それが繊細でゾゾ~ッとくる、みたいな。僕の趣味よりはちょっとロマンチックすぎるきらいがあるけど、でもこれだけロマンチックで繊細だからこそ感動したのかも。この切なさ、女流ピアニストならではなんじゃないかなあ。
個人的には、タンゴやフォルクローレの曲(少し前に書いた
アリエル・ラミレス の曲をやってる!)よりも、青木さんのオリジナル曲が素晴らしかったです。僕がPVを観て
一瞬で心を奪われてしまった曲は、ヴィブラフォンとの二重奏「Florece en la madrugada」、青木さんのオリジナル曲 です。メゾピアノから徐々に上げてクライマックスに達する構成力と表現がもうね…。僕はたいがい仕事をしながら音楽を聴いてるもんで、普段は小さな音で音楽を聞くんですが、この曲ばかりは大きな音で聴いてしまいました。録音も込みなのかも知れないけど、大きい音で聴くと音が美しすぎ。魂を持ってかれてしまいました。
音楽の道で生きてきたピアニストが、自分の言葉で語った自伝か私小説のように感じました。ミュージシャンって、独学で楽器弾いて作曲して…みたいなタイプもいますが、その手の人は実際のところ音を言語的に使う事が出来ず、本当の音楽家とはちょっと違うと思っています(それが悪いとは言ってません)。一方で、音感を持ち、
音楽を音の言語として理解できる人、これが僕が思うところの本当のミュージシャン。このCD、一聴して「これはミュージシャンだわ」と分かるレベル でしたが、こういう正式に音楽教育を受けてきた人って、プロ・ミュージシャンになって、音楽の仕事で呼ばれて演奏して、いつの間にか情熱をうしなって自分の音楽を作る前に歳をとって…みたいなことも多いと思います。ミュージシャンとアーティストであることは別なんですよね。
青木さんもそういう人生を送ってきた人の気がしますが(あくまで僕の勝手な想像です^^;)、そういう人生の中で、自分を音でしっかり語ったのがこのアルバムな気がしました。「いつか私の人生も終わっていくけど、こんな風に私はこの世界を感じていたんですよ」、みたいな。私小説みたいな作品なので、大名盤みたいに言われる事はないかもしれないけど、音だけで語れるレベルの人ならこのアルバムの素晴らしさは分かるんじゃないかと。ピアニストの人間そのものが音ににじみ出たような、嘘のない素晴らしいアルバムでした、これは推薦!
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