デューク・エリントンの音楽のあのアメリカ音楽的なエンターテイメント性が趣味に合わず、若い頃はどうも苦手でした。でも、「エリントンは他のビッグバンドとは違って、芸術性が高い」「エリントンが好きなクラシック作曲家もたくさんいる」なんて話をチラホラ聞くものだから、もしかしたら音楽性の高い作品に出会ってないだけなんじゃないか…と思って『極東組曲』に手を出したら、これまたエンターテイメント(>_<)。娯楽音楽だと割り切って聴けばオールドジャズ特有の気持ちいい音楽だし、もうエリントンにヴォイシングとかのビッグバンドライティングの技術以外のものを求めるのはあきらめよう…と思った時に出会ったのが、このレコードでした。59年から72年にかけて録音された作品で、
邦題は『女王組曲』。これが起死回生の満塁ホームラン!
ゾクッと来るほど素晴らしかったです!!
このアルバムには、3つの組曲が入っています。「女王組曲」(全6曲)、「グーテラス組曲」(全6曲)、「ユーウィス組曲」(全2曲)です。
白眉は何といっても女王組曲。この組曲はエリントンとビリー・ストレイホーン(エリントンとずっと一緒に仕事をした作曲家アレンジャーで、エリントンの懐刀とも言われてます。実は、本当にすごかったのはストレイホーンだったなんて言う伝説があるほど)が作曲とアレンジを担当していますが、まさかビッグバンド・ジャズを聴いて「美しい」と思う日が来ようとは思いませんでした。「女王組曲」は、エリントンがエリザベス女王に会った感激を音楽にしたもので、自費で1枚だけレコードを作って女王に送ったというもの。エリントン生前はエリントンが認めなかったためにリリースされませんでしたが、エリントンの死後、こうして世に出たというドラマチックな経緯があります。
ミディアムからスローというゆったりしたナンバーが多く、その美しさとロマンチックさは鳥肌もの。20分弱に過ぎない「女王組曲」全6曲を聴いただけで、エリントンに対する僕の感想はまったく変わってしまったのでした。かなりクラシカルな要素があるので(第4曲「Northern Lights」なんて、ロマン派のクラシックピアノの歴史を知らないで書けるとはとうてい思えません)、元々はクラシックの作曲家を目指していたストレイホーンの仕事も大きかったんじゃないかなあ。
エリントンやビッグバンドが苦手な方にも、「女王組曲」は間違いなく推薦できます。 「
グーテラス組曲」は、エリントンが、フランスの田舎にあるグーテラス城の修復落成式に呼ばれた時の印象を音楽にしたもの。ファンファーレ的な1分とか30秒とかの小曲が並ぶ中、中核になってるのは郷愁ただよう第4曲「Something」でした。フルートをはじめとしたクラシック木管とピアノが交互に演奏し、それが合流したところで美しくヴォイシングされたジャズホーンが全体を支えます。これも良かった(^^)。
エリントンはアレンジの達人であったけど、同じぐらいの重さで職業音楽家だったんでしょうね。自分の好きな音楽をやる以前に、音楽でメシを喰う事が先行する人、みたいな。そもそもジャズって、立ち上がりからして職業音楽でしたし、まして黒人という社会的マイノリティで、バンドマスターでもあったエリントンにとって、金を稼ぐ事は何にも優先する事だったんじゃないかと。「女王組曲」だけがなんで他のエリントンのビッグバンド曲と違って美的かというと、女王ひとりのために作る音楽だったから、大衆受けをまったく考えなくて良かった唯一の作品だったからじゃないかなあ。
セールスや大衆受けを考えず、音楽だけににこだわったエリントンの音楽は、本当に見事でした。アーリータイムジャズの雰囲気と美的感覚と芸術性の3つが同居した素晴らしい音楽。
僕にとってのエリントン最高傑作は、間違いなく「女王組曲」です。
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