
第一次大戦前後のヨーロッパ文化は、すごく面白いです。もしその時代に録音がたくさんされていたら…と思ってしまいます。特に、1次大戦前のコンサート・オブ・ヨーロッパの時代の音楽は最高です。貴族ではないけれども、比較的に裕福になって自由を享受できる中産階級という市民層が誕生して、その「余裕」の部分に新しい文化が生まれます。クラシック系の音楽にもそういうものが誕生し始めて、貴族文化に属するものではないクラシックまで生まれ始めたそうです。市民革命を起こしたフランスなんかはその最たるもので、サティのような音楽が、(仮に片足を突っ込んでいるにしても)決して貴族文化の机上だけでは捉えることが出来ない音楽であることは間違いないでしょう。
そして、このCDの主人公である、作曲家のモンポウです。このCDの日本タイトルにある「カタロニア」というのはひとまず忘れて、その音楽だけを追うと…もう、サティとかのフランス音楽の影響をもろに受けているのが分かります。作曲者を伏せてこの曲を聴かせて「どこの音楽でしょうか?」とクイズを出したら、ほとんどの人はフランスと答えるのではないかと。リラックスしたフランスの印象派サロン音楽…僕がこのCDを初めて聞いた時の印象も、それでした。しかしモンポウって…スペインはカタロニア(カタルーニャ)の出身なんですよね。そして、これが第1次大戦前のコンサート・オブ・ヨーロッパの状況に被るのです。
カタルーニャといってすぐに思いつくのは、あのぐにゃぐにゃでしかしやたらとリアルな絵を描くダリ、奇抜な建築物を建てたガウディ、音楽でいえばカザルス…もう、そういった超個性的な芸術家を思い浮かべてしまいます。カタルーニャ自体がスペインの中でもかなり「俺たちはカタルーニャ人であってスペインじゃねえ」みたいな気骨のある地域らしいです。しかし、英仏の2強が作り上げた世界構造の端に追いやられていくに従い、その周縁地域は、中央への憧憬と反発を同時に膨らませていく…という構図があったんじゃないかと思います。今でこそそうでもなくなりましたが、ブッシュ政権の時のアメリカに対して、多くの国が(たぶん日本も)アメリカに反発しつつ、しかしその圧倒的な1強的な所に憧れがあった時代がありました。実際にそのころの日本の音楽と言ったら、クラシックもポピュラーもジャズも、そのほとんどが西洋音楽を一生懸命に追っていたことは事実なわけで…。で、こういう中央/周縁という構図は、1次大戦前のヨーロッパにもあったんじゃないかと。これは、ロシアの音楽やスペインの音楽を聴くと、特にそう思います。「何言ってんだ、スペインにはフラメンコみたいな音楽があるじゃないか」という方もいらっしゃると思うんですが、あれも元々は民族復興運動として、意図的に立ち上げられたものらしいんですよ。
で、そういった時代に、フランス音楽を吸収しに行ったスペインの音楽家のひとりが、モンポウだったんじゃないかと。こんなふうに書くと、「なんだ、2番煎じじゃないか」と思われるかもしれませんが、しかしなかなかどうして、これが実に良く出来ていました。モンポウはギターにもいい曲を残していますが、僕はやっぱりフランス印象派的なピアノ小品が好きです。最近、大変忙しい日々を送っていたもので、ずっと神経が張り詰めているような状態でして、夜も心が落ち着かなくって眠れなかった。色々と薬も飲んでみたんですが、ダメ。そこで、何か心の落ち着く音楽でも、とCD棚をゴソゴソと漁ったところで出てきたのが、これ。いやあ、これは本当にいいものだ。観客相手の大道芸でもなく、貴族相手の芸術披露でもなく、人の心を落ち着かせるためだけに書かれたような曲の数々。無論、そうじゃない曲だってたくさんあるんですが、例えば「郊外」の第4番「盲目の少女」という曲の響き、これを聴いているだけで、神経が張り詰めてピリピリしていた僕のイライラなんて、あっという間にどこかに消えてしまうのでした。
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