
戦後日本を代表する作曲家のひとり、
黛敏郎さんのCDです。前回の記事で、仏教を題材とした「曼荼羅交響曲」の感想を書きましたが、黛さんのこっち系の作品では、涅槃交響曲の方が有名かも。そして、どちらの作品もすばらしかったです!
涅槃交響曲は、日本の仏教思想を音楽に取り組んだ作品で、実際に
声明が交響曲の中に取り込まれていました。僕は声明のCDをいくつか持っていて、実際にも比叡山なんかで生の声明を聴いた事がるあるんですが、NHK合唱団の声明は本物より綺麗、さすがです(^^)。ただ、音楽と声明が溶け合っているという感じではなくて、ダイナミックな現代管弦楽の中に、別途声明パートがついてる感じでした。武満徹の
「ノヴェンバー・ステップス」もそうですが、日本音楽と西洋音楽のミックスってそう簡単じゃないんですね。対比させる方が単純にやりやすいのかも。
黛さんの音楽って、仏教思想とか日本性とか言われますし、また学究的というよりもショー的。それらが時として中傷の対象になる事すらありますが、そんな事より先に僕の耳に飛び込んでくるのは、音楽のパレットが豊かな事です。音色もデュナーミクも幅が広いんですよね。
涅槃交響曲で最初に耳につくのは、まぶしいほど色々な音色が出てくる事。これは和声の色彩もそうですし、それまでの西洋音楽では使われてこなかった楽器や奏法といった具体的な音の場合もあります。涅槃交響曲の場合、鐘の音がすごく魅力的。同じ現代音楽でも、無機質で音の歓びに欠けるブーレーズの
「リチュエル」あたりの打楽器の使用とはまったく対照的、これぞ音楽の悦楽というもんじゃないでしょうか?!
そして、デュナーミクの広さ。ピアノからフォルテッシモまでの対比が見事で、楽曲がドラマチックに構成されていて、しかもシンプルなので考えすぎずにただ音を浴びているだけでも感動してしまいます。
さらに、和声の合成理論がすごく面白かったです。黛さんは古い寺の鐘の音に惹かれるとして、その音をフーリエ展開(音色というのはすべて正弦波の合成として表現できて、これを逆に色んな音色を正弦波に分解すること)して、寺の鐘の音の音色構造をそのまま和音にしてしたとの事です。しかもこれが実にカッコいい音になるのでびっくり。そして、この倍音列の結果がライナーに書いてありますが、まったく意外な結果であって、そこから倍音列を導き出してこの交響曲が出来ているんだそうです。いやあ、バッハからシェーンベルクという流れにある線の音楽は和声面でけっこう自由で、そういう音楽にどういう和声を当てるかをぜんぶ作曲家のセンスに頼たっり、任意の理論で自動的に生成するなんて事でいいのかというのは僕の大きな疑問のひとつだったんですが、こういう求め方があるのかと目からうろこでした。創造力がすごい。
涅槃交響曲を聴くと、「うわ、これはすごいな」といつも感じます。
武満徹さんや
三善晃さんの知的で幽玄な感じではなく、もっとストレートにズバッと来る感じ。あまり理屈にとらわれ過ぎずに、そのパレットを存分に活かした音楽の躍動感は、音楽の魅力にあふれていると感じました。これは超おすすめ!
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