『フロラン・シュミット:サロメの悲劇・詩編47番 / ヤノフスキ指揮・フランス放送響』

Schmitt_Salome.jpg 近現代のクラシック界というのは重層的な展開をしていて、新しい作曲規則に則った作品、作曲規則自体を生み出す作品、西洋音楽とは全く違うルールや価値基準を持っている「非西洋音楽」的な地域音楽作品、みたいなものが、ある意味で現代を象徴しているかのような印象があります。しかし実際のところでは、昔から続いている(ベートーヴェンのような?)機能和声的なルールにのっとった音楽が、実は一番数多く作られている気がします。今年、悪い意味で話題になった佐村河内さんがらみの『広島』なんかもそう。で、僕は長らくこういう保守的な傾向にある近現代の作品を軽視していたわけですが、ところがどっこい、こういうものの中にも「いやあ、これは素晴らしい」と思えるものが結構ある事が判明。このCDも、そんな中の1枚として出会ってしまったわけです。

 このCD、そんな近代音楽の中で保守的な傾向を示した、あるフランス人作曲家の作品集です。気をつけなくてはいけないのは、この作曲家の名がフロラン・シュミット Florent Schmitt である点。実は、同世代の作曲家にフランツ・シュミット Franz Schmitt という人がいまして、僕はず~っと長い事、この二人を混同していました(´・ω・`)。というか、「シュミット作曲」とあったら、全部フランツかと思っていたのです。ああ恥ずかしい、死にたい気分です。いやあ、どちらも音楽がロマン派的な傾向にある(フランスとはいえ、シュミットという名前から察するにドイツ/オーストリア系なのかな?)し、このCDの表紙も"Schmitt"とは書いてあるけど、ファーストネームなんて書いてなかったし…。で、多分このフロランさんの方がマイナー。マイナーなんですが…いやあ、このロマン派ならではの官能性の中に、フランスならではの色彩感、またこの作曲家特有の感傷的な描き出しなんかもあって、これがなかなか素晴らしかった! このCDには、フロランさんの代表作2曲が収められているんですが、またその中でも代表的名演と言われている物だそうです(他のオケの演奏を聴いた事がないので、僕には判断できない^^;)。どちらも、題材が面白い!

CaravaggioSalomeMadrid.jpg ひとつは"La Tragedie De Salome"。サロメって色々と有名人がいますが、新約聖書の福音書に描かれているヘロディアの娘のサロメです。聖者ヨハネの首を持っている、あの美女の絵画のサロメです。カラヴァッジョの絵のサロメは凄かったな。。ところでカラヴァッジョって、首を切る絵が多い気がする…。おっと脱線、そのサロメ物語が2楽章形式で音によって描かれるんですが…いやあ、機能和声の官能性ここに極まれりという感じで、各シーンでの色彩感も素晴らしければ、ドラマ展開も素晴らしい!この作品、テキストは全く使われていないんですが、音楽を聴いているだけで物語の筋が解ってしまうからすごい(あ、もちろんサロメ伝説を知っているとしての話しですが…)。ポピュラーもジャズもクラシックも、片っ端からオクターブ7音の3度積み和音の機能和声音楽オンパレード状態に反吐が出そうだった若かりし頃の僕でしたが、そうでない音楽をたくさん聴いてから、こういう西洋音楽の中心的作風に戻ってくると、やっぱり西洋のクラシック音楽の伝統は偉大だと言わざるを得ない気分になってしまいます。あの精緻なインド芸術音楽ですら、ここまで緻密で、響きが多彩で、ドラマ展開に柔軟な語法には辿りつけていないわけですから。ベートーヴェンの『田園』の記事で同じことを書きましたが、音を使って絵画的な描き出しをするというこの西洋クラシックのロマン派限定の技術というのは、本当にすごいと思います。もう、この凄すぎる時間に沿って動く音的絵画を堪能するだけでも、このCDは買いです!!

 もうひとつ収録されているのは、デュミエールの詩をテキストとして用いた"Psaume 47"。冒頭からいきなり打楽器的展開、"Gloire au Seigneur!!"(神の栄光!!)の大合唱で始まります。それにしてもこのパーカッシヴな展開、ヴァレーズの現代曲ほどとは言いませんが、少なくともストラヴィンスキーの"春の祭典"あたりからの影響は受けていそう。こういう「既にある伝統のバリエーションの大量生産」的な所が保守的作曲の残念な所なんだよなあ…な~んて思いながらこの作曲年を見ると…1904年?!うおおおお、、信じられない、春の祭典より先じゃねえか!!!!これは驚き、もしかするとストラヴィンスキーの方がこのシュミットの詩篇から影響を受けたのかも。思いつきですが、このシュミットの「詩編47」が、ストラヴィンスキー「春の祭典」の原典となった可能性もあるんじゃないでしょうか?!そして…この打楽器的で祝祭的な展開の合唱が終わった途端にマイナー転調するその瞬間の落差が、これまたロマン主義的な悦楽。そして、ソプラノの独白パートをハープで支えるシーンでの美しさと言ったら…いやあ、これも素晴らしい作品でした(^^)。

 近現代の保守派クラシック作の中にも、これほどの名作がある事を思い知らされた素晴らしい作品でした。響きの上面だけを追ったら「よくあるクラシック的な作品だな」と思われてしまうかもしれませんが、真剣に聴いていると随所に光るところがある。上に書いたのはこの作品から僕が感じたほんの一握りの事であって、この記事を書いている間にも何度もこの作品を聴いているのですが、そのたびに色んな発見があります。あるひとりの作曲家が、職業意識ではなくって、自分のライフワークとしてその智慧のすべてを注ぎ込んだかの如き作品。これは素晴らしい…。


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ずっとつきあってきたCDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。
プロでも評論家でもありませんので、たいした事は書けないかも知れませんが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば、大変嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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 今月号のintoxicateに載っていた1枚。「Vyacheslav Artyomov」、ロシアの作曲家は名前が読めなくってムズカシイ。。「ヴャチェスラーフ・アルチョーモフ」と読むらしいです。伝説の「フレンニコフの7人」のひとりとの事ですが、それって何かすら僕は知らず(^^;)。作風的には初期は新古典的、後に民族的な様式、十二音技法や、複調性、ミニマルなんかも用いたみたい。ロシアの前衛は強烈なものが多いので、聴いてみたいです。アマゾンで買おうと思ったらダウンロード版しかなかった(;_;)。 少し前に取りあげたエリザベス・コットンですが、ライブ盤なんてあるのか?!これは聴きたい… オスマン時代から現代までのトルコ音楽のガイド本みたいです。おおお~、これは絶対に読もう!! レコ芸に載っていた近藤譲さんの新譜、室内楽作品集みたい。好きな作曲家なんで聴きたいんですが、持っている2枚のALM盤と4曲かぶってるので悩み中…
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