交響曲作家ショスタコーヴィチのシンフォニーの中でもとくに有名なのが、この第5番「革命」です!僕がこの曲をはじめて聴いたのは、松田優作主演映画『
野獣死すべし』の中ででした。戦場カメラマンとして惨い戦地を渡り歩いたインテリの主人公が、日本に戻ったのちに高級なオーディオシステムでこの曲のレコードを聴くシーンはなんとも印象的でした。日本のインテリがこぞって共産主義に憧れた時代を表現したものだったのでしょうが、あのレコード針を落とした後に続く「ジャジャーン」が、この曲の第1楽章冒頭でした(^^)。
ショスタコーヴィチって、声楽を含んでいたり単一楽章だったり伝統的な機能和声法をちょっと離れた和声法を使ったりと、シンフォニーでもいろんなものがあります。そんな中で、第5番は直球ど真ん中のクラシック交響曲。楽式も和声法も古典派時代からの王道な形式を使った4楽章のシンフォニーでした。1楽章は悲劇的かつ勇壮な曲想を持つソナタ、2楽章はおどけたスケルツォ、3楽章は悲愴的なラルゴ、4楽章は曲想が最初に戻って悲劇的かつ勇壮。もう、教科書に書いてあるシンフォニーの作り方です。ところがこのコテコテ王道が素晴らしかったです!変化球使ったり駆け引きしたりでなく、3球とも直球ど真ん中を投げ込んできて三振を取ってきた、みたいな。
何がそんなに良かったのかというと、細かい事を捨てて大局を大事にして、とくに勢いを重視したところじゃないかと。一気に書き上げたような曲でしたが、この「細かい事はええんやで」の精神に僕はノックアウトされました。
1楽章の第1主題なんて、ベートーヴェンの運命のそれを越えてるんじゃないかというほどで、しかもこういう部分をカノンにしてくるところがもう…。 で、この迫力を見事に伝えたのが演奏と録音でした。バーンスタイン&ニューヨーク・フィルの演奏がスピード感があって素晴らしかったです!こういうアタッカの強烈な直線的な表現って、ドイツよりアメリカの指揮者やオケの方が合ってる気がします。しかもこの演奏、79年の東京文化会館でのものなんですよね。リアルタイム世代の方には、このレコードに特別な思い入れがある方もいるんじゃないかと。
旧ソ連の作曲家で、政治に翻弄された事もあって、この曲は音楽以外のところで色々と言われる事があります。それも分かるんですが、スターリンの太鼓持ちと言って評価が下がったり、体制に対する実直さと言って評価があがったりする事には疑問を感じる部分もあります。たしかに音楽って音そのもの以外のものを指す使い方もするので、一概にそれが悪いとは言えないですが、だったら僕が「ウクライナ戦争の戦死者に捧げるシンフォニー」なんていう曲を書いたら、それだけで評価が3割増しになるとでもいうのかよ、とか思っちゃうんですよ。
だからそういう音楽外のところに生まれる意味は横に置いといて、このシンフォニーの
音楽部分だけを取り出して語るとすれば、これは間違いなく名作。むしろ、これを名作と言わずに交響曲の王道なんてあったもんじゃないというレベルと思うんですよ、奥さん。クラシックのシンフォニーって、
チャイコフスキー6番「悲愴」とか、
ドヴォルザーク9番「新世界より」とか、典型的な形式の中に生まれたいい曲ってあるじゃないですか。ショスタコの「革命」も、間違いなくこうしたクラシック交響曲の代表作のひとつに入るものだと思います!
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