"Stand by Me"があまりに有名すぎるので、ベン・E・キングはピンのイメージがありますが、まずは彼の在籍していたドリフターズが素晴らしい!昔の黒人コーラス・グループというと、お金がないので歌だけでハーモニーを作り出して、路上で3コースや4コースのコーラスを作り出して歌っていた「ドゥ・ワップ」をやっていた集団からプロ化したものがいくつか出てきた…というイメージがあります。戦後アメリカの市民労働者の路上コーラスというと、僕は真っ先に映画「ロッキー」の冒頭のコーラスを思い浮かべてしまいますが、実際にはあの30~40年前ぐらいのハーレム版の文化がど真ん中という感じなんでしょうね。で、ドリフターズはそうしたグループの中の上位ランカーですが、そこでリードヴォーカルを取っていたベン・E・キングは、まさにコーラスグループのリードヴォーカルにうってつけな声の持ち主だったんじゃないかと。例えば、ドリフターズには「ラストダンスは私に」というヒット曲があるんですが、 ここでヴォーカルは、立ってもいるし、ハーモニーに溶け込んでもいる。出しゃばりすぎず、埋もれ過ぎずという絶妙のところを行くんですよね。これがフォー・トップスやサム・クックあたりだと混ざりすぎる感じがあって、逆にジャクソン・ファイブになるとリード・ヴォーカルが浮きすぎる。こんなにコーラス・グルーブ向きのヴォーカリストがピンになったら、逆に大人しすぎてどうなのかな…とも思ったんですが、「スタンド・バイ・ミー」でヴォーカルがハーモニーするのは、人の声だけでなく、ストリングスともハーモニーします。結局、ベン・E・キングという人は、このハーモニー的な視点が個性であって、だからアトランティック・レコードのソウル系のレコードだと思って、オーティス・レディングやリトル・リチャードのようなシャウト系のソウル・ミュージックを期待すると、痛い目にあいます。絶対にシャウトしてぶっ飛ばしたりはしません。常に丁寧。だから、超ハードロックなレッド・ツェッペリンの"We're Gonna Groove"がベン・E・キングの曲だと知った時にはビビりました(^^;)。しかしこの「ハーモニー至上主義」なキャラが本作のコンセプトと絶妙にマッチしていて、リズム隊も完全に抑え目、あの印象的なベースも、ウッドベースを指で弾いての非常に柔らかい音。リズムではなく、ハーモニーの心地よさを前面に押し出したオーケストレーションを目指しています。いやあ、これは気持ちいい…。 スタンド・バイ・ミーのあの美しいストリングスって、全部右チャンネルから聞こえるんですよね…。で、ウッドベースやピアノやギターといったリズムセクションは、プレスリーの時代以来変わっていないというか、メロコード譜だけを渡されて一発で演奏しているような感じなんですが、このストリングスと男声ハーモニーは綺麗にアレンジされている。これはアルバムを通して言える事ですが、"stand by me"を例に挙げると、ハーモニーは2コーラス目まで溜めてから出てきて、以降はストリングスと男声コーラスは互いを補うようにアレンジされている。この曲で一番印象に残るだろうベースのリフレインと、それをベースにメインとなる主旋律があり、これを彩るようにストリングスが出てきて、これを受けて男声コーラスが出てストリングスが背景に回る。そしてストリングスのメロ・パートがいよいよ登場、ここで男声コーラスは背景に回り…要するに、ストリングスとハーモニーが入れ子細工なんですよね。このふたつがフィギュアスケートのようにハーモニーと構造を作っていく。ここの計算されたアレンジが良かったんじゃないかと。
間違いなくフォード式のポピュラー音楽大量生産システムから生まれた音楽であるとは思うのですが、しかしそのシステムは悪いところばかりではなくって、手作りの傷を消すという良い面もある。そうして作られた数多くの作品の中から生まれた奇跡の名作が、「スタンド・バイ・ミー」だったんじゃないかと。元は路上から生まれたコーラス音楽、しかしそれがラジオ向けの商業音楽の生産ラインに乗り…つまり、アメリカの市民音楽と商業音楽の間に花開いた名作なんじゃないかと思います。このロマンティックな詞と響きを聴きながら、当時のアメリカの若いカップルがうっとりしていたんだろうな…と思うと、それも微笑ましい光景だし、ちょっとうらやましくなるような独特の文化だったんだろうな…。。あ、そうそう、アルバム冒頭曲"Don't Play That Song"のベースパターンが"Stand by Me"とまったく同じ。「お、スタンド・バイ・ミーだ!!」と大騒ぎしていたら違う曲で、みんなで大爆笑した中学生の日は、今となってはいい思い出です(^^)。。