
70年代、ツイストや
矢沢永吉さんと並んで好きだったロックっぽい歌謡曲が、谷村新司さんと堀内孝雄さんのいたアリスです。フォークギターをジャカジャカかき鳴らすツインヴォーカルのフォークロックで、エレキギターやベースのバックバンドがついている編成でした。
僕がアリスに痺れたきっかけは、少年野球チームの合宿の宴会の席で、中学生になった先輩ふたりがフォークギターを持ってきて「チャンピオン」を演った事。これがカッコよくて、人生で初めて「ギター弾き語りってかっこいい!」と思った瞬間でした。
どこに痺れたかというと、男くさかった事。お兄さんへの憧れというんでしょうか、もしその時の歌が「神田川」や「関白宣言」だったら僕はたぶん痺れなかったと思います。眉間にしわを寄せて、威嚇するような太い声で、「リングに向かう長い廊下で~」…まだ幼児性の抜けなかった僕はこれに痺れたのです。
でもって、このアリスのベスト盤です。たぶんシングル曲は全部入っていて、全16曲。ガキの頃の僕が痺れた男くささが思いっきり前に出た曲は「
冬の稲妻」「
チャンピオン」「
今はもうだれも」、この3曲です。曲もそうですが、谷村さんも堀内さんも恫喝するような声で歌うんですよ、くぅ~カッコいい。子どもの頃、男くさい喋り方の恰好よさに痺れた初体験はたぶん「あしたのジョー」でのあおい輝彦さんですが、その次ぐらいがアリスだったかも。
そして、
詞に痺れたのが「遠くで汽笛を聞きながら」。この曲をはじめて聴いたのは、松田優作主演のテレビドラマ『
探偵物語』の第19話「影を捨てた男」のラスト。ドラマの内容と合っていた事もあるんでしょうが、涙が出ました。
悩み続けた日々が まるで嘘のように忘れられる日が来るまで 心を閉じたまま
俺を見捨てた人を恨んで生きるより、幼い心に秘めた空しい涙の捨て場所を探して こんなの泣くでしょ…。ここ数年、ちょっとポピュラー系の仕事をして、最近の男性ヴォーカルのJポップを何曲か聴いたんですけど、「君に伝えたい事がある、大好きだ」とか、「僕らが出会った日は2人にとっての記念日」とか、詞がとんでもなく子供っぽいんですよ。センスが中学生か高校生ぐらいに思えちゃう、庶民はすっかり白痴化して、まんまと飼いならされちゃってる感じ。大学生がアニメ見てるなんて普通になっちゃいましたしね。とはいえ、アリスも自立した青年っぽい曲ばっかりじゃなくて、このCDの半分以上は演歌と紙一重、良かったのは最初の方だけでしたけど(^^;)。
70年代の男性像って、今より強さを押し出していて、もっと強い男性像でした。ヒーローと言えば
アントニオ猪木、江夏豊、
松田優作、
矢吹丈、ミュージシャンでも矢沢永吉に世良正則。男は強くてなんぼでした。アリスの
谷村新司も、いつも笑わず眉間にしわを寄せていて、後のにやにやしたスケベ親父からは想像がつかないカッコよさでした。堀内孝雄さんだって、今みたいな処世術にたけたユーモアたっぷりみたいな人じゃなくて、男らしかった。そしてそういう「男らしさ」みたいな美感を僕は今でもどこかに持っています。アメリカの風下に立ち続ける事が決定した安保闘争の時代、男は強くないととても生きていけない時代だったのかも。
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