『菊地雅章 / アタッチト』

attached.jpg 2次大戦直後の日本のジャズ・シーンというのは、80~90年代のアメリカのジャズそのもののうまい人だらけのシーンとは全然違って、キャバレーで演奏しているハコバンとかビッグバンドというイメージがあります。古い日本の映画のキャバレーのシーンなんかでよく聴かれるあれです。かつてクレイジーキャッツの「解っちゃいるけどやめられない~っと」とか石原裕次郎の「おいらはドラマ~~」なんかの、あのサウンドです。ブラスバンドの延長にある、ディキシーランドジャズと日本歌謡がゴチャゴチャに混じっている感じ。実際のところ、ブラバンと古典的クラシックの音楽教育(主に芸大)のミックス状況から、米軍キャンプにあるレコードや進駐軍放送なんかのコピーをしていたからそういう音になったんじゃないかと。で、この状況が変わるのは、日本人の中から実際にアメリカのジャズ学校に行って学んだ人が出てきてからじゃないかと思います。1939年という 戦時中に生まれた菊地雅章さんは、日本のジャズが日本独自の歌謡ジャズから本場ジャズに踏み込んだパイオニアのひとりだったんじゃないかと思います。

 若い頃のプーさん(菊地さんの愛称)の音は、僕はあまり意識して聴いた事がありません。しかし、日野皓正さんとのグループとか、渡辺貞夫さんのバンドとか、銀巴里セッションとか、日本ジャズ黎明期の名盤と言われているものには悉く出演しているんですよね。それらの印象というと、悪く言うと「重い」「考えながら演奏しているみたいで遅い」「時間軸でのアーティキュレーションに乏しい」という感じなんですが、しかしこれが諸刃の剣で、時として「考えた演奏で演奏が流れてしまわない」「1音1音の重みが大きい」という風に聴こえてくる事があります。何故こうなるのかというと…さっき言ったような日本の戦後ジャズの置かれた状況と、プーさんのキャリアを見ると、何となく想像できます。今の恵まれた音楽学習環境から考えれば、いわば独学的な要素がすごく大きかったんじゃないかと思うのです。これは、古い日本人クラシック・ピアニストにも共通するサウンドの傾向。プーさんが真面目に音楽を学んだのは、ソニー・ロリンズの日本公演でピアニストを務めた直後の30歳になってから渡米したバークレーでの勉強が唯一なんじゃないかと思います。40の手習いなんて言いますが、アマチュアでなくてプロの第一線で活躍していた人が、勉強のために学生に混じって音楽を学びに行くというこの決意がスゴイ。もしかしたら、ロリンズの伴奏を務めて、「ああ、ここから先は本気で勉強しないと無理だ」とか、思ったのかも知れません。

 そして、1989年録音の本作です。菊地雅章さん初の無伴奏ピアノ・ソロ作。カーラ・ブレイ、オーネット・コールマン、セロニアス・モンク、デューク・エリントン、チャールズ・ミンガス、そしてオリジナル…なんというセンスの良さ、真剣勝負のストイックさです。綺麗なスタンダードとか女性受けそうな綺麗な曲なんて1曲も選びません。そしてその演奏は…まるで1音1音考えながら弾いているかのような重さ、しかしこの1音1音の深さというか、真剣さに感動してしまいました。この重さのニュアンスって、時々日本の超ホンモノ芸術音楽志向の人の音楽に感じる事があります。魂の演奏、素晴らしい。

 僕が持っているCDは、TRANSHEART という日本のレーベルから出たもの(ジャケットの写真は、アマゾンに出ている奴と違って、上に表示したものと同じ)。僕の記憶では、昔NECが作ったジャズ寄りの音楽レーベルで、ポール・ブレイの作品とか、売れ線狙いではないけっこう渋いレーベルだったのですが、すぐに潰れちゃった気が(^^;)。というわけで、今は凄く入手しにくいCDになっちゃったみたいですが、この深さは素晴らしすぎるので、中古盤屋ででも見かけたら是非手にされる事をおススメする次第です(^^)。


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Author:Bach Bach
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音大は卒業したのですが、成績はトホホ状態でした(*゚ー゚)

ずっとつきあってきたCDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。
プロでも評論家でもありませんので、たいした事は書けないかも知れませんが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば、大変嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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 今月号のintoxicateに載っていた1枚。「Vyacheslav Artyomov」、ロシアの作曲家は名前が読めなくってムズカシイ。。「ヴャチェスラーフ・アルチョーモフ」と読むらしいです。伝説の「フレンニコフの7人」のひとりとの事ですが、それって何かすら僕は知らず(^^;)。作風的には初期は新古典的、後に民族的な様式、十二音技法や、複調性、ミニマルなんかも用いたみたい。ロシアの前衛は強烈なものが多いので、聴いてみたいです。アマゾンで買おうと思ったらダウンロード版しかなかった(;_;)。 少し前に取りあげたエリザベス・コットンですが、ライブ盤なんてあるのか?!これは聴きたい… オスマン時代から現代までのトルコ音楽のガイド本みたいです。おおお~、これは絶対に読もう!! レコ芸に載っていた近藤譲さんの新譜、室内楽作品集みたい。好きな作曲家なんで聴きたいんですが、持っている2枚のALM盤と4曲かぶってるので悩み中…
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