
演歌をはじめとした日本的な俗楽が消えていく過程が、70年代以降の日本の歌謡曲であった気がします。以降は西洋ポピュラーと同じフォーマットで歌謡音楽が作られていった訳ですが、中にはどこかに日本的なものを残して歌う凄い人も。…まあそれは置いておいてですね、少なくとも楽曲的には西洋ポピュラー音楽の亜流と化した70年代後半以降の日本歌謡曲の女性アイドルの中で、すごく好きな人がふたりいます。ひとりは中森明菜さん、もうひとりは岩崎宏美さんです。
すごく不思議に思うのは、どちらの人も、いわゆる「うまい」というヴォーカルジャンルの中にいる人じゃないと思うんです。例えば、ジャズ的なヴィブラートのコントロールとか、演歌的なコブシの妙技とか、オペラ的な凄いヴェルカントとか、そういう舞台にはいなくって、普通に西洋亜流のポピュラー。それなのに、なんかメッチャクチャ歌心を感じるんですよね。歌を背負って歌えるだけの一人間としての歌手という生き方を全うして見える所が凄いと思うのです。例えばすごく純情な心を歌っている人が、私生活では煙草スパスパなんだろうな…な~んて思えちゃうと、どうしたって歌に入っていけないじゃないですか。そうじゃなくって、歌の歌詞に説得力が出てくるというのは、歌手という生き方を出来てるんじゃないかという気がします。これって本当にすごいと思うのです。だって、日本の歌謡曲の女性の歌い手で、パッと思いつく人がふたりしかいないんですから。
そしてこの2枚組CD、岩崎宏美さんが50を超えてからのライブ集ですが、岩崎さんの凄いと思うのは、大人の歌を歌える歌手だという所。西洋音楽ベタコピーの日本歌謡曲って、時代が進むたびに大人の歌を歌える人が絶滅していく過程でもあったんじゃないかと。そりゃ、大人が歌を聴かなくなるのも無理ないんじゃないかと。「聖母たちのララバイ」はそんなに好きな曲じゃないんですが、しかしこの歌詞を歌える女性歌手って、ほとんどいないんじゃないかという気がするのです。
岩崎さんは20歳そこそこの頃から、もっと大人が歌わないと本当はおかしいような歌を歌いこなしてきたので、ある意味でこのライブの頃が、実は岩崎さんがついに歌に追いついた頃なのかも知れません。張る、ファルセットを強めながらヴィブラートをかけていく…岩崎さんはこういうヴォーカル上の自分の武器みたいなものを若い頃から使ってましたが、この頃になると、それだけじゃなくって、声の表情をコントロールするようになってます。なんというか…スゴイというんじゃなくって、表現が増しているものだから心にグッとくるのです。聴いていてゾクッとくる瞬間が何度もありました。歌をモノにしているというか、やっぱりすごい人なんじゃないかと思います。
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