『グレン・グールド(pf) / J.S.バッハ:ゴールドベルク変奏曲』(1955年録音盤)

Gould_goldberg55.jpg 現代のクラシックピアノの天才・グールドの実質的なデビュー作であり、出世作であり、一般的にも大名盤と言われている1枚です。「グールドって有名だけど、ものすごくたくさんCDが出ているので何から買っていいのか分からない」みたいな方がいましたら、多分最初に買うべきCDはこれ!

 しかし私、音大まで出たクセに、グールドの凄さがイマイチわかっていない人間でして^^;、まあそういうグールド信者ではない人間としての感想なんぞを。まず、クラシックのピアノ界で「天才」というと、パッと聴きでもものすごい数の音符をものすごい勢いで、しかも情熱的に、劇的に演奏するのが普通。そうなるとショパンとかリストとかのロマン派音楽を劇的に演奏するのが普通だと思うんです。僕の大好きなアルゲリッチは完全にこういう方向で、僕が末席を汚しながらもヒーコラいっていた音大の同級生の多くも、この方向の人が多かったです。ところがグールドと言ったら、そういうロマン派音楽が大嫌い(^^;)。で、デビュー作に選んだ曲が、バッハの中でもよりによってゴールドベルク。バッハの音楽というのは、ベートーヴェンやリストなんかのクラシックや、現在のジャズやポピュラーと違って、かなり数理的な音楽で、その音楽はなんというのかなあ…素晴らしい構造の背景に音の構造の神秘を見るような、なんかそういう非人間的というか、神秘的な感じがあると思うんですよ。だから、ジャズやポピュラーの人がバッハを好き勝手にエモーショナルに演奏するのとは違って、クラシックの世界だと「バッハが何をしたかったのか」を深く考えて、それを実現しようとする。人によっては、楽器まで当時の古楽器で再現しようとする人もいるほどです。ゴールドベルク変奏曲は、2度、3度、4度…と、厳格な規則の中で変奏される、バッハ曲の中でもけっこう厳格な作品のひとつという感じで、こういう曲を演奏したら、普通は「バッハ」とか曲そのものとかに注目が集まるんじゃないかと。ところが、このレコードで名も知らぬプレイヤーが一気に注目されることになったというのは、実はとんでもない事なんじゃないかと。だから、僕や僕の旧友みたいに「グールドはよく分からん」という人が一定数出るのも、ある意味では自然かも。

 しかし、話はここで終わらない(^^)。このゴールドベルク、とんでもないスピードで、えらく数理的な曲をクールに演奏し切ってしまう場所がいくつかある。しかしその疾走感というのがロマン派音楽的な感情的な表現というのではなくて、すごく正確かつ端正に一気に行ってしまう!つまり勝手に解釈したでたらめバッハじゃなくって、ちゃんとバッハしている上でものすごい疾走感なのです。これがセンセーションだったんじゃないかと。また、それが普通とはちょっと違う、あたらしい物だったので、そこが天才的に映ったんじゃないかと。

 でも、僕らの世代の、しかもクラシックの専門教育をしている所に入ってまでヒーヒー勉強していた僕や級友の多くが、なぜ「アルゲリッチは凄いけどグールドはよく分からん」となったのか。第1に、この録音がでてから、ゴールドベルク演奏の基準のひとつがこの録音になっちゃったから、この演奏の斬新さを斬新と思わなくなっていた。第2に、聴いている僕たちが、ロマン派的な感情爆発のわかりやすく凄い演奏に走っちゃって、このレコードで起こっている事の意味とかぜんぜん考えてなかった(笑)。第3に、グールド自身が後年にやるようになったように、クラシックの人もスタジオで何十テイクも録音してそれを編集できるようになっちゃったから、これほど高い技術のものでも凄いと思わなくなっちゃった。なんというか…超絶的な技術を要求する器楽のリサイタルに行くと分かると思うんですが、ピアノとかギターみたいな間違えないのがムズカシイ楽器だと、ノーミスなんてまずない。歴史的録音なんて言われる古い録音を聴くと分かりますが、安全なテンポで、表現もある程度抑えてミスしないように演奏している物か、危険領域でトライして幾つか傷があるというのが普通です。ところが、ミスしてもあとで編集というのが当たり前の時代になっちゃったから、ここまで凄い速度の演奏の一発録音を凄いと思わなくなっちゃった。今となっては、修正しまくった録音に慣れすぎちゃって、聴衆の人は、高いお金を出してリサイタルに行って、間違い探しをしている状況になっているわけです(笑)。。結果、ピアノを演奏しない人よりはノーミスの大変さが分かる僕ですら、このすごい技術の演奏の録音に感動できなくなっちゃった、という事なんじゃないかと。

 それでも、クラシック・ピアノの歴史を揺るがす決定的なレコードであったことは間違いありません。好き嫌いではなく、これを聴かずして他のクラシックピアノのCDを買うのは順序が違います。確実に持っておきたい1枚だと思います!


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Bach Bach

Author:Bach Bach
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プロでも評論家でもありませんので、たいした事は書けないかも知れませんが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば、大変嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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 今月号のintoxicateに載っていた1枚。「Vyacheslav Artyomov」、ロシアの作曲家は名前が読めなくってムズカシイ。。「ヴャチェスラーフ・アルチョーモフ」と読むらしいです。伝説の「フレンニコフの7人」のひとりとの事ですが、それって何かすら僕は知らず(^^;)。作風的には初期は新古典的、後に民族的な様式、十二音技法や、複調性、ミニマルなんかも用いたみたい。ロシアの前衛は強烈なものが多いので、聴いてみたいです。アマゾンで買おうと思ったらダウンロード版しかなかった(;_;)。 少し前に取りあげたエリザベス・コットンですが、ライブ盤なんてあるのか?!これは聴きたい… オスマン時代から現代までのトルコ音楽のガイド本みたいです。おおお~、これは絶対に読もう!! レコ芸に載っていた近藤譲さんの新譜、室内楽作品集みたい。好きな作曲家なんで聴きたいんですが、持っている2枚のALM盤と4曲かぶってるので悩み中…
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