ふたつほど前の記事『サラ・ヴォーン / How long has this been going on?』のレビューで、「ピアノのオスカー・ピーターソンは歌の伴奏をしている時の方がスバラシイ」みたいなことを書きました。というわけで、ピーターソンさんの素晴らしい歌伴をもうひとつ。古き良きジャズ・ヴォーカルの代名詞、ビリー・ホリデイの最高傑作と名高いライブ盤です。日本では、むかしLPで『ビリー・ホリデイの魂』というタイトルで出てました。僕が持っているのはコレ。で、ここがちょっと問題になってくるので、ちょっとだけ覚えておいてください(^^)。
まず、久々に聴いた感想は…感動してしまいました。"Body and Soul" に"Travelin' Light"、"The Man I Love"…ゆったりしていて、バンドもあくまで歌の伴奏に徹してとても音楽的、なによりムードがスバラシイ。なんでジャズは大道芸みたいな小手先ばかりで、しかし歌心ゼロみたいな方向に進んでしまったのか。やっぱり心を動かしてこそ大衆音楽、な~んて思ってしまいました。しかし、僕は若い頃、ビリー・ホリデイがあまり好きでなかったんです。どこが良いのか、よく分からなかったんですよね。今から思うに、彼女について回る伝説とか、それを引用して評価するいろんな批評家の言葉に惑わされず、このレイドバックした雰囲気の音楽そのものにドップリつかってれば、それだけで最高だったんじゃないかと。バックにレスター・ヤングやらコールマン・ホーキンスやら、この手のムーディーなオールドジャズの名手がズラッと。このレトロな雰囲気、最高です。いや~、若い頃に早まって売ってしまわずに良かった(^^)。
さて、例のオスカー・ピーターソンの伴奏はB面に…というところで、ひとつ気づいてしまいました。このレコード、元々は10インチ盤(LPより少しインチが小さいレコードで、LPが出る前のジャズエイジはこちらが主流だった)だったようです。その頃は全8曲入りだったみたい。ところが、僕が持っている日本盤LP『ビリー・ホリデイの魂』は、A面にオリジナル盤収録の8曲を全部入れて、B面は日本のセレクトで別のライブから6曲を収録したものらしいです。いずれもヴァーブ専属の時代からの選曲の模様。ところが今CD化されているものは、オリジナルの8曲だけを収録で、このB面は入ってないようなのです。まあ、この方がオリジナルの意向そのままのわけですし、まとまりもいいかも。問題は…例のLP収録のB面のパフォーマンスがこれまた絶品なのです。"Everything I have is yours "や"My Man" のパフォーマンスは、胸に刺さってしまいました。どちらも1952年録音、つまりプレスリーよりも古い録音ですが、そんなに古い録音とは思えないほどの演奏と録音。で、この2曲でピアノを演奏しているのがオスカー・ピーターソンなんですが、やっぱり素晴らしい。B面では"Stormy Blues"という曲でのトランペットの演奏も絶品(トニー・スコットか、やっぱり名前を残した人の演奏は、それなりのものがありますね~)。ジャズがブルースや他の音楽と分化する前の音楽…というムードが漂ってます。これもレイドバックした感じで、気持ちよくって、でも少しブルーで、いいな~。で、この曲は他のアルバムで聴くのがちょっと難しいそうで(昔のLPに書いてある情報です)。