
実際には良い仕事をしているのに、張られたレッテルとの差で損をする人というのがいると思います。打率.320/ホームラン13/盗塁28でタイトルなし、みたいなバッターと、打率.240/ホームラン55/盗塁0でホームラン王、みたいなバッターを比較した時、どちらも素晴らしいバッターには違いありませんが、後者の方が目立つかも。しかし、本当に良いバッターは?通になるほど、前者を評価するんじゃないかと。しかし、もし前者が「とんでもないスラッガーだ」と形容されたらどうなるでしょうか。素晴しいバッターなのに、「そんなに凄いスラッガーじゃないよな」と言われてしまうでしょう、だってスラッガーというのとは違うから。これと似たような感じで、素晴らしい音楽家なのに、評価するポイントがずれていて、損をしてしているように見えるジャズ・サックス奏者がいます。
マリオン・ブラウンというサックス・プレイヤーは、「フリージャズ」というフィールドで語られ過ぎて、日本では損してしまった人なんじゃないかと。このアルバムなんて、特にそう思います。1973年作品。
このアルバム、スタイルの上で「ジャズから自由」という意味では、たしかにフリージャズかも。でも、あのフリージャズの典型ともいえる、パワーでゴリゴリ押し込んでいく、または難解な印象を受ける音楽とは全然違います。もしこれを、そうしたフリージャズの典型の上で評価したらどうなるか。…若い頃の僕が、それをしてしまったクチでした。整序されてるし、パワー音楽ではないし、「フリージャズ」という言葉とのずれから、すごくつまらない印象を受けてしまった。しかし、このアルバムを聴いてみると…いや~、
大傑作じゃないかい?アルバムタイトルの"Geechee"というのは現地ジョージアでのガラ人の呼称で、つまりこのアルバムタイトルは「ガラ人の(音楽の)再収集」という事になります。なるほど、アフリカ音楽のカリンバをリズムにしたり、アフリカンアメリカンの詩の朗読を中心に据えた曲があったり、それらの後にアメリカで発展した黒人音楽という感じでジャズを配置したり。こうしたテーマを、ジャズの視点から再構成したという感じなんだと思います。
とにかく素晴らしいアルバムなんですが、特にB面冒頭のイントロダクションから2曲目"TAKALOKALOKA"への繋がりがスバラシイ!!アフリカ系の打楽器を使った複雑なサウンドをくぐり抜けて、サックスの美しいプレイが立ち上った瞬間、そしてその後のソロパフォーマンスの素晴らしさと言ったらもう…。そして、最後はアフリカ的なポリリズムの海に飲み込まれていくのですが、このデザインとパフォーマンスがまた見事。これは素晴らしい作品です。
というわけで、これはジャズとはいえ、ジャズの語法の上でスコアを渡して皆でセッション…なんていうイージーなものでは決してなくって、マリオン・ブラウンというリーダーが、そのコンセプトをバンドに理解させ、またそれが浸透して、見事なひとつの世界を作り出した立派な「作品」なんだと思います。視点がプレイヤーという領域を超えてコンポーザー的なので、ジャズ的な価値観からは評価しづらい人なのかもしれませんが、これは見事。結局、
単純に真っ赤とか真っ青とかの方が分かりやすいし目立つけど、本当に良いものは中間色を使い分けられる人なんじゃないか…そんなことを思わされた1枚。みんなして似たような事を繰り返しているジャズの中にあって、
これほどクリエイティブな事を達成している名盤を聴き逃してはいけない!な~んて、なぜか熱くなっている私なのでした(^^)。
- 関連記事
-
スポンサーサイト
マリオン・ブラウンさん、あまり縁がなくて全く聴いたことないんですが、.320・18本28盗塁や、中間色の使い分けができる画家の喩えはそそりますね。
そういう選手や画家にけっこう惹かれます。