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『SPIRITUAL UNITY』がアイラーの最高傑作という人は多いと思いますし、私もそのひとりなんですが、あれがアイラーの音楽性の本質を捉えた録音であるかどうかというと、ちょっと違うような気がしています。あれは特異点というか、アイラーっぽくないというか。ある意味で、フリージャズの王道すぎるというか。じゃ、私が何をアイラーっぽいと思っているかというと…きっとそれはこのアルバムに詰まってるんじゃないかと思っています。このアルバムを最初に聴いた時の、何とも言えない肌触りは、今でも覚えています。
山下洋輔トリオがアイラーの"GHOST"という曲を演奏したことで、私は初めてアルバート・アイラーというフリージャズのサックス奏者の事を知りました。それで、ジャズディスクガイドみたいな本に載っていたこのアルバムを手に入れたのでした。その時の感想は言葉ではうまく言い表せないんですが、しいていえば「なんじゃこりゃ?!」という感じ。自分の常識ではまったく判断不可能なものだったのです。
どんな音楽だって、たいがいはうまいとかヘタとか、あるいは好きとか嫌いとか、何かしら判断できたりしませんか?それって、何がうまい下手の基準になってるかとか、自分に何らかの判断基準があってのことだと思うのです。ところが、このアルバムを最初に聴いた時には、まったくそれが出来なかったのです。本当に判断不能に陥ったんですよね。こんな体験、あとにも先にも無かったんじゃないかという気がします。サックスが何を基準にこんな旋律を選ぶのか、どうすればこういう音楽に辿り着くのか、私自身の音楽観とのあまりのギャップにとまどい…そして惹きつけられました。
これが、ハッタリ100%みたいな音楽だったら、僕は「インチキだ」とか「嫌いだ」とかいう観想を持ったと思うんですよ。あるいはその反対に分からないものへの盲信になってもおかしくなかったと思います。でも、その時はそのどちらにもならなかった。今にして思えば、自分が判断基準にしているような価値基準からこの音楽を判断しては、この音楽にあらわれているものを誤解しちゃうんじゃないかと思ったのかもしれません。で、どこかに鋭いものを感じていました。
いま、この記事を書くのに久々に聞き返しているんですが、今では全く違う聞こえ方がします。要するに、この音楽の根底にあるのは、歌なんだと思います。でも、フリーという方法論に彩られ、そしてスタンダードをこんな音楽にしてしまう音楽に最初に出会った時のあの戸惑いにも似たような感覚は、人生で唯一無比だったような気がします。
このアルバム、アマゾンで見てびっくりしました。中古で5万円が最安値?!これはいくらなんでも高すぎだろ…。昔は中古盤で1000円ぐらいで売ってたのに。。えっと、CD10枚組ぐらいで
『Holy Ghost: Rare & Unissued Recordings 1962-70』というものが1~3万円ぐらいで出ているので、そちらを買った方が断然お得な気がします(私は聴いてません)。…このボックス、コルトレーンの葬儀の際の演奏も入ってるのか?!うわ、聴きたいけど、お金がない(;;)…これも限定盤みたいなので、いずれ5万円とか10万円とかになるんでしょうね。。
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